第十八話 運命の糸

ミミリはオペラードの脅しによって一切手を出すことが出来なくなっていた。


 島の皆に殺すのだけはやめろと指示したにもかかわらず自分が手を下してはいけないという責任感。


 ここで殺してしまったらオペラードがやってきたことと変わらないという葛藤。


 そしてミミリ自身が持つ優しさからくる正義感。




 オペラードはその全てを計算していた。


 圧倒的な強さを持つミミリがオペラードを殺しきれなかったその理由。


 まさしく正義感からくるものだとオペラードは理解していたのだった。




 「俺の能力は確かにお前に対して有効打にならないし、お前を操ることも不可能だ。


  だけど、今のお前はどうだ?


  まるで操り人形みたいに体が動きやしないじゃねえか!」


 「これは私とあなたとの問題のはずです。


  いますぐその人たちを開放しなさい。」


 「お前と俺?


  いいや違うね、これは世界に対する復讐なんだよ。


  ここまで優秀な能力をもつ俺を見捨てて、法で縛って見下した。


  ふざけるのも大概にしろ!」




 オペラードはとっくの昔に世界に狂わされていた。


 ただ自分もかっこいい魔法使いになりたいだけだったのに。


 禁止されている適正のオペラードを見てくれる人なんて誰もいなかった。




 「だから、俺は研究者になった。


  俺の人生を壊したこの世界へ復讐する方法が欲しくて。


  そして、ようやく俺は見つけちまったんだよ。」




 オペラードは天を仰ぎ高らかに宣言する。




 「俺はミミリ、お前を殺してギルティの幹部へと昇格する!


  お前は単なる復讐の生贄に過ぎない!」




 まずは、人質三人にスキルを使う。




 「お前らは、ここから動くなよ。


  そして俺がこいつに攻撃を受けた瞬間に舌を嚙み切って死にやがれ。」




 そしてミミリの元へと、ゆっくり近づいていく。




 「でもな、ミミリもちろんてめえへの復讐心も全く衰えることはなかったぜ。


  お前のせいで俺は片目を失っちまったんだからな。」




 そこではっとしたように、オペラードが一瞬動きを止める。


 そして笑いながら、また歩き出す。




 「そうだ、そうだよ。


  まずは目をもらってやる、最高だろおい。」




 ミミリはそこでようやく口を開いた。




 「それはものすごくいい提案ですね。


  でも、目はさすがにあげれませんよ。」


 「てめえに拒否権なんかあるわけねえだろうが。」




 ミミリはそんなオペラードの言葉を無視して、喋りだす。




 「あなたは、頭がいいというのに間抜けですね。


  そんなあなたにプレゼントをあげますよ。


  メガ・ウォーター!」


 「間抜けは、てめえだろうが。


  あいつらが死んでもいいのかよ。おい!」




 そう言って後ろを振り向いた。


 そこにはテントが一軒建っていた。


 瞬間に、強い水圧を受ける。




 「これであなたが攻撃を受ける瞬間は見えはしません。


  あなたの思い通りにシナリオは動きませんよ。」




 こうして、ようやくオペラードの撃破にも成功した。




ーーーーーーーー




 ちなみに最後に、テントを立てたのはもちろん俺だ。


 今は、船の上にいた他のオペラードに操られていた人たちをヒーナが島まで運んでくれている。


 念のためだけどな。




 オペラードとその一味は縄でとりあえず縛っておいた。


 ヴェラル様も近くにいるからとりあえずは一安心だ。




 「全く、全部もう終わってしまったのか。


  ならば、我を楽しませてくれるものなど一人もいなかったな。」


 「そうだね、でもとりあえず皆が無事で俺はよかったよ。」


 「ふん、こん中にやられた奴が一人でもいればその根性叩き直していたわ。」




 ヴェラル様に叩かれたら普通に死ぬよな。


 俺も、こんなことを思えるくらいには、落ち着きを取り戻していた。


 問題はやはりこのオペラードという男だった。




 「クソッ!俺はこんな所で終わる器ではない!


  この縄をほどけ!」


 「お前程度では、この島にいる誰一人にも勝てていないわ。」




 ヴェラル様はそう言って挑発した。


 だが、ヴェラル様が近づいたその瞬間。


 オペラードがスキルを発動してしまった。




 「ディスティニー・デジション!」




 嘘だろ、ヴェラル様近づきすぎだ。


 俺は様子を見ることしかできない。




 「さあ、この島にいる奴を俺以外殺せ、、せ、、せあああああぐうううううああああ!」




 急に苦しそうにするオペラード。


 じたばたしていたが急に体から煙を吹き出し動かなくなってしまった。




 「ヴェラル様、大丈夫ですか。」


 「おい建築屋、この世界のことを知らないようだからここで勉強しておけ。


  法外スキルの最も恐ろしいところだ。


  こういったスキルは威力を上げすぎると、肉体が耐え切れず死ぬ。


  この男ももう死んでしまった。」




 そういって、ヴェラル様はオペラードの死体を海に投げ入れた。




 「法外スキルには、不明な点も多く存在する。


  つまり、一番は安全のために禁止されているのだ。


  建築屋もこうなりたくないなら、努力で強くなることを選べよ。」




 法外スキルが使われない理由、そしてその恐ろしさに息を飲んだ。


 こうして、オペラードは俺に一つのトラウマを残しその生涯を終えた。


 それと同時にこの事件は終わりを迎えたのだった。




 船に乗っていた人たちは、ミミリとフィーロさんが島の外まで行ってくれていた。


 カイゼも約束だとこの島に残ることにしたようだ。


 俺の家にとりあえず住んでくれればいいと言ったのだが、テントでいいと言われてしまった。


 何だかんだ、俺たちにも協力してくれている。




 それでいうと、船にいた人の中にはとっくに住む場所を失っていた人たちもいた。


 そうした人たちは、俺たちの島に残っていた。


 家を全員分作るのと、仕事をあたえることも課題だな。




 その日、ミミリが話をしたいと俺を呼び出した。


 ミミリの箒に乗って、オペラードと戦ったあの場所に二人でいった。




 「最後、テントを建てて人質を隔離してくれて本当にありがとうございます。」


 「ミミリが優しかったお陰で、オペラード以外の死者が出なかったんだよ。


  それに、おれのメイク・テントも間に合った。」


 「ようやく、私を縛っていた過去が終わったんですね。」




 そういって、体育座りしていたミミリは膝に顔を埋めた。


 俺は、そんなミミリを見て、ぽろっと言葉が零れる。




 「よく頑張ったな。」




 ミミリは俺の方をみて笑いかけた。




ーーーーーーーー




 何で、才能なんて言葉があるのでしょうか。


 何で才能を認められた人の努力はなかったことにされるんでしょうか。


 私だって、才能があると言われたあの日からここまでがむしゃらに頑張りました。




 正直アナムに少し嫉妬をしていたんです。


 適正がなくても、努力一つでここまで来たなんて美しい話じゃないですか。


 できないことを、努力でできるようにしたことは皆喜びます。


 でも、できることをさらに磨いた時の努力には見向きもしてくれないじゃないですか。




 そんな、嫉妬何ですぐにはじけて消えてしまいました。


 お父さん、お母さん、アーミラ先生。


 レナード、ヒーズ、アナム。


 皆私にとって本当な存在です。


 でも、今日は一番私が大切にしたい人が言って欲しいことを言ってくれたんです。


 大好きな人が、私の辛い過去や苦労を塗り替えてくれたんです。


 だから私は、飛びっきりの笑顔で彼に言葉を返します。




 「あなたのお陰で頑張れたんですよ、コウイチ。」

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