第十七話 罪の名
「おい、一人くらい返事しろや馬鹿ども。
遊んでんのか?」
オペラードは仲間たちから連絡がないことに腹を立てていた。
連絡が来ないということは、今まさに戦闘の途中なのか?
流石に心強いメンバーだ、一瞬でやられてしまうことはないことを願う。
「オペラード、お前はこの女と色々あるんだろうが。
この男連れて離れた方がいいか?」
「ここでぶち殺してもいいんだぜ?」
「馬鹿言ってんじゃねえ、俺にも多少遊ばせろや。」
「勝手にしろ。」
俺は気づかぬうちにもう一人の男に抱えられていた。
あまりのスピードに恐怖の感情を抱くのですら少し遅れる。
「コウイチさん!」
「お前の相手は俺だろうが!」
ミミリがとっさに反応するがオペラードの存在にその場から動くことが出来ない。
俺はただ男に連れ去られている間、何もすることが出来なかった。
俺は森の中までやってきていた。
体感、ミミリとの距離は相当離れているだろう。
男が口を開く。
「お前、ここらへんで隠れてろ。」
「え?、俺を殺さないとダメなんじゃないの?」
「俺は事情があってあいつに近づいているだけだ。
別にわざわざ殺さなくていいんならそんなことしねーよ。
オペラードも死体を確認するわけじゃないからな。」
どうやらこの男は何かの事情はあれど、そんなに悪い男じゃないらしい。
俺は少しは安心して、口を開く。
「じゃあさ、少し話をしない?」
「わざわざ敵と話すことなんてないだろ。」
「遊んでくるって言ってたのに、すぐ戻ったら怪しまれちゃうよ?」
「それもそうか。」
男は俺の隣に腰かける。
「まずは名前を聞いてもいい?」
「そんなん聞いてどうなる…カイゼだよ。」
男は俺の強引な性格がなんとなくわかってきたのかもしれない。
あっさりと名前を白状した。
「どうしてそんなにお金が必要なんだ?」
「あ?…あんま気持のいい話じゃねえぞ?」
カイゼはそもそも隠し事とかが苦手、というより嫌いなのだろう。
俺のこともそんなに悪い奴じゃないと思ってくれたのかもしれない。
結構人となりに迫る質問だと思ったんだけどあっさり口を開く。
「まあ、正直この世界ではよくある話だ。
俺は元々、とある集落の主だった。
その集落は一瞬にして、破壊されたよ。
正直こういったケースは珍しくない。
悪いやつが強さを見せつけるために小さな組織を破壊するとかな。」
段々カイゼの声に力が入る。
主としての責任感もあったのだろう、怒りがこちらに伝わってくる。
「驚いたのは、そのありさまだった。
俺が戻ってきたころには、建造物は一切消えていた。
そして、人は魂を盗まれたように動かなくなっていた。
俺には、一つしか心当たりがない。
これは、都市伝説とまで呼ばれたギルティという魔法使いのチームだ。」
ギルティ、つまりこの世界における敵組織という奴らなのだろう。
他の仲間たちからは話を聞いたことがなかった。
「奴らには、それぞれ罪の名前が二つ名としてつく。
俺は調査の末にようやく一つの男にたどり着いた。
それが詐欺の罪の二つ名をもつオペラード。
あいつの言葉が正しいと感じるスキルをもっている。」
「それが、オペラザードの能力。」
「あいつは、俺たちの集落を崩壊させた直接の原因じゃなかった。
だが、何か繋がりがあることは確かだろう。」
そういえば、と俺は一つ島の外で起きた出来事を思い出す。
「お前の本当の敵は魔王ではない。」
あの言葉の意味はいまだにあんまり分かっていない。
でも、俺たちには他の敵が存在するのかもしれない。
それも、俺たちにとって圧倒的に脅威になるような気がした。
だが、そういう事情は一旦抜きにして。
「なあ、カイゼ。」
「情でも移ったか、悪いが信用しているわけではないぞ。」
「オペラードたちのチームは今日で解散するよ。」
「あまり、舐めない方がいいぞ奴らを。」
「いや、解散する。
そうなったら、お前も俺たちの島に来ないか?
ギルティについての調査には協力する。」
「…お前らが勝ったら、考えてやる。」
「ありがとう、ただ一つだけ協力してくれないか。
俺をミミリの所まで連れてってくれるだけでいい。」
「はあ、その代わりオペラードからは確実に見えない範囲までだ。」
そうして、俺たちはミミリの元へ向かう。
ーーーーーーーー
オペラードとミミリはじっくりと身構えている
ようやく、オペラードが口を開いた。
「ようやく、ようやくこの時がきたんだ!
お前にはチャンスすら与えない、殺す以外の選択肢はないぞ!」
「オペラードさん、お忘れですか。
私も名の売れた魔法使いなんですよ。
あの時から腕は一切落ちていません。」
正直、オペラードの能力は強力ではあるが相手依存だった。
かなり近距離しか、効果範囲がないし制限も存在する。
ミミリとの一対一で勝てるはずがなかった。
「そうだな、普通に考えたらお前に俺は勝てないはずだ。
だが、俺たちはそれぞれに相性のいい相手を当ててるんだよ。
それはこの俺自身も例外ではない!」
オペラードが両手を振り上げた。
ミミリも反射的に手をオペラードに向ける。
森から、何かがやってくる気配がある。
そして現れたのは三人の一般人だった。
その腕には手錠をかけられている。
「俺の可愛い操り人形ちゃんさ。
だが安心しろ、今は操っていない。
でも、お前の攻撃は範囲が広いもんな。
その攻撃でこいつら死んじゃうかもしんないぜ?」
「そんな、抵抗しなければ殺さないって!」
「嫌だ、助けてくれ!」
オペラードはにやりと笑い、言い放つ。
「ああ、抵抗しなきゃ助けてやるさ。
あの女が抵抗しなければな。」
どんなに、できた人間でも命というのは大切である。
当たり前のことだが、その当たり前の事実は実に利用しやすい。
三人の人間はミミリに対して必死に泣きながら喚く。
「殺さないで」「何もしないで」と。
ミミリにとって、その優しさは長所だが時にそれはピンチを招く。
いつの間にかミミリはオペラードに抵抗する手段を失っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます