第十五話 その船は何を語る

 さて、俺が防壁を完成させた頃。


 皆もそれなりに、準備を済ませることが出来ていた。


 想定外だったのは、意外と準備の期間が長かったことだ。


 ヴェラル様が言うには、ある日突然船の進みが遅くなってしまったということだった。




 今は最初の話し合いが行われてから五日後。


 到着予想は三日後だったため、拍子抜けといった感じだった。


 準備をしっかり進められたのはいいことといえるのだろうけど。




 暇だというヴェラル様の相手はやることが丁度終わった俺がしていた。


 しかし、ヴェラル様にもついに限界が来ていた。




 「おい、建築屋。


  最近我は自分の睡眠を削って船の監視を行ってきた。


  そろそろ、がっつり寝ておきたいのだが。」




 「まだ、船が到着する様子はないんですよね。


  それなら今日はお休みしてもらっても大丈夫ですよ。」




 俺は船の動きがないことに違和感を感じていたが、とりあえずすぐにこっちにはこれない距離であるためヴェラル様の睡眠を許可した。


 最近のヴェラル様は二時間程度しか、寝ていなかったらしい。


 本人は大丈夫だと、気丈にふるまってくれていたがさすがに限界がきたのだろう。


 少し、ヒーナと監視を続けていたが動きはなさそうと判断した。


 そのため一度、拠点に帰ることにする。


 俺も今のうちに状況を確認しておくことにした。




 拠点に戻ると、ガチャガチャ騒がしかった。


 それもそのはずで、フィーロさんが今もなお作業をしていた。


 睡眠スプレーに麻酔銃、捕獲用の縄それから逃走用のスモーク爆弾。


 想定していた期間を過ぎても、敵が来ないため相当の武器が完成している。




 俺も、麻酔銃と捕獲用の縄だけは常に持つようにしていた。


 フィーロさんはヴェラル様と対照的に最近すごく活き活きしている。


 元々、こういった工作が好きなのだろう。




 コウイチさん、とミミリに声を掛けられる。


 食事や、洗濯などの基本的に必要なことはミミリが一任してやってくれていた。


 俺たちも、余裕がなくて、他のことには手を回せなかった。


 これからは、基本ミミリの手伝いをすることになるだろう。




 「ヴェラルさんがいなくても大丈夫なんですか?」


 「とりあえずはね、ヴェラル様は拠点に戻っていないの?」


 「一度は、戻ってきたんですけどここは騒がしいと言って前住んでたところに一度戻るそうですよ。」


 「だったら俺たちも、今日だけはゆっくりするか。」




 俺の周りをずっとソワソワ歩いていたヒーナにミミリが声をかける。




 「ヒーナももちろん、今日は羽を伸ばしてください。」




 頷いたヒーナは拠点から飛び立っていった。


 ミミリはそれを見届けながら、話を続ける。




 「では、私が今日は船を監視しますね。」


 「俺もやることないし、ついて行ってもいい?」


 「ええ、むしろお願いします。」




 結局俺は防壁の所まで戻っていた。


 誰かと話していないと、本当に暇だからな。


 この件が終わったらフィーロさんに娯楽が作れないか、聞いてみよう。




 「そういえば、ヒーナはさっきどこに行ったんだ?」


 「南の森は安全じゃないですか。


  最初にコウイチさんがいた所です。


  そこがヒーナのお気に入りスポットみたいですよ。」




 皆、この島の生活には慣れてきたみたいだな。


 俺も結構気に入っている場所とかできてきたもんな。




 「船が進んでいる感じはあるか?」


 「いや、ぜんぜん船は見えませんね。


  人がいる気配は感じるので逃げたりしているわけではないと思うんですけど。」


 「うーん、何か問題が発生したりとかなのかな。


  そもそも、戦う気が全くないとかもあるし。」




 ここにきて、色々と考えが浮かんでくる。


 正直、ミミリがオペラード自体の姿を見ているわけではないからな。


 ピンクの髪なんて、相当希少らしいから決めつけていたけど。


 もしかしたら、町での話を聞きつけた行商人だったりとかフィーロさんの知り合いが遊びに来ただけなんて可能性も思いつく。


 ちょっと、警戒のし過ぎだったかな。


 今、拠点にはフィーロさんしかいないのか。


 ちょっと戻ってオペラード以外にピンクの髪の知り合いがいないか、聞いておくか。


 そもそも、今拠点を攻め込まれたら結構まずいよな。




 「なあミミリ、可能性の話なんだけどさ。」


 「なんですか?」


 「あの船は囮だったりとか、ないかな?」


 「?、どういうことですか。」


 「いや、急に思ったんだけどさ。


  俺だったら、何か問題が起きたらその場にとどまることってないよなって。」


 「確かにいったん引き返すか、近くの島とかまで行きますよね。」


 「つまり、船がその場にとどまってるのってさ。


  もうとっくに誰もいないってことなんじゃないかなって。」




 ちょっと、不安になった俺たちは引き返そうと後ろを振り返る。


 その瞬間、森から見たことない二人の男が現れる。




 「おい、あんな弱っちい男殺しても本当に報酬出してくれるんだろうな。」


 「当たり前だ、俺が報酬の支払いをためらったことがあるか?」


 「まあ、楽な仕事だからいいわ。」




 そう言いながら、男たちはこちらにやってきていた。


 髪の色と、ミミリの表情から男の一人はオペラードなんだろう。


 オペラードは俺たちに顔を向けて喋りだした。




 「よお、間抜けども。


  こんな状況で全員バラバラの所にいるって何かのお笑いか?」




 オペラードはミミリに憎しみの目を向ける。




 「お前にはマジで会いたかったぜ。


  本当はサプライズで会いに来たかったんだが面倒な奴がいたからな。


  最後に、合わせてやるから安心しな。


  精神を乗っ取られた状態か、死体かは分からないけどな。」




 オペラードは耳についている無線のような機械で指示を出す。


 俺は自分の失敗を悔やむ暇すらなく、男たちに向かい合った。


 みんな無事でいてくれ。


 オペラードは宣言する。




 「お前ら、好きにやれ。


  殺しちまっても構わねえ!」




 あまりにも、絶望的な状態から勝負が始まってしまった。 

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