第十四話 全員生存
ミミリの話を聞いてやっぱり色々と思う所はあるが…。
「ミミリの過去の話と、ご飯の時の動揺っぷりから大体のことは理解した。」
「話が早くて助かります。」
つまり、ミミリが昔禁止されたスキルによって敗北したオペラード。
どういう事情か、そいつは自由の身だったようだ。
そして、計画が失敗した直接の原因であり自分自身にも危害を加えたミミリへの復讐を考えている。
ミミリもそう考えているようだった。
「もしかしたら、俺たちが町に行った時何か情報を漏らしてしまったのかもしれない。」
「いえ、もうあの事件から数年たってるんです。
それでも、あの男が攻め込んでくるということは復讐心は消えていません。
時期は違ったかもしれませんが、どちにしろここは特定されていたでしょう。」
ミミリは冷静に答えてくれる。
どちにしろ、来る時期がわからない奇襲だった場合対策もとれていなかっただろう。
ヴェラル様に会うことができたのは、本当に運が良かった。
「とりあえず、こちらでもある程度相手の襲撃に備えましょうか。
明日作戦会議を開くことにしましょう。」
そうして、その日の夜は過ぎ次の日の朝には招集をかけられた。
俺たちの前に立っていたミミリが声を上げる。
「みなさん、まずは謝らせてください。
私の過去によって、今回この島を危険に晒してしまいました。
そこで、一つ私も覚悟を決めました。
今回の件が終わったら、皆さんが住めるところをヒューマ大陸に作ります。
私も、昔は魔法使いとしていろんな人の恨みを買っています。
これ以上、危険な目には合わせられません。」
そんなミミリの主張に皆、顔を見合わせる。
その場を支配していた重い空気は破壊され笑いが起こった。
「じゃあ、ミミリもヒューマ大陸来ないといけない。」
「いやいや、そしたら僕がこの島に来た理由がないじゃないか。」
「つまりだミミリ、お前といれば強いやつに会えるということか?
我もついに、暇せずに済むのだな。」
ミミリは相当の覚悟を決めていたのだろう。
口をポカンとしながら拍子抜けという感じだ。
そこで、俺も思っていたことを口にする。
「なあ、ミミリ。俺ってミミリみたいに凄い辛い思いをして生きてきたわけじゃないんだ。
色々、恵まれている部分も多いと思う。
それはミミリが与えてくれた部分も多いんだよ。
この島の人達だって皆ミミリに助けられたことがいっぱいあるんだ。
だから、その辛い思いの半分は俺たちにわけてくれないかな。」
昨日の夜も、その更に前も。
俺はミミリに声をかけてあげることが出来なかった。
何が不正解かは、なんとなくわかるけど正解が分からない。
でも、不正解が何個もあるように正解も何個もあるのかもしれない。
結局俺は、不器用だから思ったことを口にするしかないな。
「皆さん…。」
ミミリは涙を流しそうになるが、そこをグッと抑える。
そして、次は皆の目をしっかり見渡して大きく深呼吸した。
「私の人生は自分の中では色々あったと思っています。
そこには、辛いこともあったし運が悪いと思ってしまう心の弱い私もいます。
でも、いつも仲間や友人には凄く恵まれています。
だからこそ、これ以上失うことはしたくない。
協力していただけますか?」
皆は頷いた。
「戦闘面で言えば私とヒーナ、ヴェラルさんもいます。
ですが、相手は人を操って連れてきている可能性が高いです。
できれば、殺したくはない。
なので、基本的には、捕獲や気絶の方向でお願いしたいです。
もちろん、危険が及ぶ場合は逃げていただいて最低殺してください。
その責任は私が取ります。」
そこで、フィーロさんが手を上げる。
「それなら私と、コウイチ君が捕獲用の武器や防衛施設を作ろう。
いつ、来るか分からないし数日以内にはくるだろう。
あんまりクオリティは期待できないけどね。」
「我のスキルで視力を強化すると、ヒューマ大陸がギリギリ見えるくらいだ。
船の存在は、それなりに余裕で見えた。
一応我が、監視をしといてやるが準備は早いに越したことはないだろう。」
ヒューマ大陸まで見えるってどんだけのチート能力なんだ。
ヴェラル様が監視役を買って出たのには驚いたが、強い人と戦いたいだけだろう。
ヒーナも会話に加わる。
「ヒーナが大陸まで、空から移動しても三日かかる。
船だったら、真っすぐ来れたとしても一週間はかかると思う。
ヒーナたちが大陸を出発してから来たんなら、少なくとも二、三日はあるはず。」
ということで、俺たちは三日間を準備期間として行動を開始した。
俺は、船から攻撃されることを見越して海の近くに石の壁を作っていた。
少し完成した石の壁の上にはヴェラル様の姿があった。
「ヴェラル様ー、お腹空いてないー?」
「うむ、少し空いてきたところだ。
我に貢物を持ってこい。」
壁が高くないと意味がないため、俺はヒーナとペアで行動していた。
ヴェラル様にご飯を持ってくるためにヒーナに乗って、拠点まで戻っていった。
「ヒーナ、お疲れ。」
「仕事は疲れる、社会人大変。」
そんな言葉、だれが教えたんだ?
拠点に戻ってみると、ミミリは食事を作っているところだった。
「コウイチさん、ご飯もう少しかかってしまいます。」
「うん、ご飯出来るまで遊んできてもいいぞ。」
「いいの?リフレッシュー!」
そういうと、ヒーナは勢いよく飛び上がっていった。
俺も、なんだかんだ疲れていたのでその場に腰かけた。
「この島の人達は優しいですよね。」
ミミリが呟く。
俺は、ゆったりと頷いた。
「皆個性的で、楽しくない日がありません。
コウイチさんが来てから一瞬でこの島は活気づきましたよね。」
よくよく考えてみるとそうだな。
ヒーナもフィーロさんも俺より後にこの島にやってきたのか。
ヴェラル様もこの拠点に来たのは最近だったしな。
「私、正直このまま誰に会うわけでもなく一人で人生を過ごすもんだと思ってました。
ヴェラルさんにはいつか会っていたかもしれませんが。」
そう言ってミミリはクスクスと笑う。
ミミリとヴェラル様の二人で暮らしてるってちょっと面白いな。
「だからこそ、私こうやって今も人に関われていることが幸せなんです。
それこそ、もう失いたくありません。」
「だから、皆で生き残って良かったなんて言っていつも通りご飯を食べる。
完璧に勝ちましょう。」
もうミミリは仲間のために一人で背負うことは考えていなかった。
それはこの島にいる仲間たち全員が同じだろう。
そう、言い切れる人たちと出会えた俺は幸せ者だな。
俺も、また覚悟を一段と強めた。
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