第十三話 塔が壊れ、廃れるように

私たち二人は研究所に行ったその日の内にアーミラ先生の部屋に行きました。


 魔法使いになるための相談をしたかったからです。




 「なんだ、あんたたち魔法使いになりたかったのかい。」


 「そうなんです、だから試験に合格できるように今まで以上にレベルの高い勉強を教えてください。」


 「それは、構わないけどね…。」




 そういって、アーミラ先生は苦笑いをしています。




 「あんたら、言いたいことあるならちゃんと言いな。」




 そういうと、ドアがゆっくりと開きました。


 そこにはレナードとヒーズの姿があります。


 二人とも私たちの話を盗み聞きしていたようです。


 レナードが涙目になりながら言います。




 「もう、二人とも勝手に酷いよ!


  私たちも友達なんだから相談してよ!」


 「レナードの言うとおりだ。


  僕たちだって、魔法使いになりたい意思は一緒だよ。」




 いつの間にか私たちアーミラクラスの夢は一緒になっていました。


 私も嬉しくて涙をこぼします。




 「もちろん私も、みなさんと一緒に夢を叶えたいです。」


 「この話をいままでしなかったのは、ごめん。


  二人も後で、もちろん誘うつもりだったんだけど。」




 アーミラ先生は優しく微笑んで、私たちに話を続けます。




 「それがあんた達の夢だっていうなら応援しない理由はないね。


  ヒーズもある程度戦えるようにならないといけないけど。


  一番大変なのは、レナードかね。」


 「えー!?酷いよ先生!!」




 その夜、私たちは夢の話を語り合いました。


 今まで、隠していた少しのことまですべて吐き出しました。


 アーミラ先生もその日だけは早く寝るように怒ることはありませんでした。




 次の日からは大変な日々が始まりました。


 全員げっそりしてしまう程、勉強のレベルは高くなったしアーミラ先生との実践で何度心をおられかけたでしょう。


 それでも、できない所は教えあったし励ましあいました。


 辛い境遇を持つ私たちにとって、越えられない壁ではありませんでした。




 そこから二年たった頃です。


 私たちはついに魔法使いの資格取得試験に一人余らず合格しました。


 アナムはホッとした表情を見せていたし、ヒーズは疲れたようにその場に座り込んでいました。


 レナードがあんなに泣いていたところを見たのは後にも先にも今日だけだと思います。




 魔法使いの資格を持っている者同士なら、チームを組むことが出来るようになります。


 もちろん私たちもチームを組みました。


 他の魔法使いが手を付けられなかった、賞金首も多く捕らえました。


 レナードが奇襲をかけ私とアナムが殲滅、後ろでヒーズが支援。


 意外とスキルのバランスがいい私たちは実力を示し、その戦績をすぐにたたえられました。




 「カンパーイ!」


 「私たちこのまま歴代最強のチームになっちゃうかもね!」


 「あんまり天狗なっちゃだめよ?」


 「レナードはこれくらいでいいんだよ。」


 「アーミラ先生にもまた、報告しましょう。」




 私は仕事が終わった夜には未だに時計台の上に行きます。


 私だってレナードみたいに天狗になっちゃうこともあります。


 そういう時はここで冷静に自分の次の目標について考えたりするのです。


 私はここから見える街の景色が大好きでした。


 今では、こういう町の景色を守りたくて仕事を頑張っています。


 久しぶりにここに客がやってきました。




 「ここに来るなんて久しぶりじゃないですか、アナム。」


 「私たち、ついに世界に認められる魔法使いになったんだね。」


 「ええ、でもこれからです。」


 「私たち四人がいれば誰にも負けない。」




 そう言ったアナムの目にはまだまだ炎が宿っていました。




 ある日、ヒーズが失踪しました。


 どこを探してもいないし、そもそも何も言わずに消える人ではありません。


 何か恨みを買ってしまったのかもしれません。


 私たちは探し回りました。


 けど、目撃情報は全くなく私たちは途方にくれました。




 そこに一人の男が息を切らしながら走り寄ってきます。


 それは昔研究所を案内してくれたピンク髪の人でした。




 「ヒーズさんのこと、アーミラ先生から聞きました。


  私の所長の発明品により、場所までは割れたんですが…。


  如何せん、私では力不足です。ついてきていただけますか。」


 「もちろんです。」




 私は、アナムとレナードに連絡を取って合流し研究所の人についていきました。


 その場所はとっくに廃れてしまった協会でした。


 私の合図で飛び込むとそこには気絶しているヒーズと一人の男がいます。




 「一度だけ警告します。捕まえた男を開放し、その身柄を拘束されてください。」


 「ポイズン・ショット!」




 その技をなんとか躱すことが出来ましたが、その威力に衝撃を受けます。


 プロである私たちだからこそこの男に勝てないと頭で理解しました。


 昔は奇襲をかけて圧倒していたレナードでしたが、その場から逃げ出しました。


 一人でも多く生き残るのが最善と考えたのでしょう。




 私とアナムは何とかこの男に太刀打ちできないかと視線を送りあいます。




 「お二人、私と取引をしませんか。」




 急に後ろにいた研究所の人が言います。




 「え、どうしたんですか?」


 「私の名前はオペラード、あなた達とお話ししたかったのです。


  その毒の男は私の仲間なのでご安心ください。」




 一体何を言っているんでしょうか。


 私たちはひどく動揺しました。


 オペラードは話を続けます。




 「私は人の感情を操作することが出来るのです。


  ただし、精神が強い相手には効果がありません。


  そこで同じく感情の適正を持つミミリさん。


  そして死の適正を持ち死人を操作できるアナムさん。


  あなた達さえいれば、最強の軍団を作り上げこの世界を支配することができる。


  魅力的な提案だと思いませんか?」




 確かに魅力的な提案かもしれません。


 アナムと顔を見合わせます。


 まあ、答えなんてわかっているんですけどね。


 二人で声を揃えて言いました。




 「「お断りします。」」


 「なるほど、なら邪魔なだけですね。


  殺せ。」




 でも、毒の男に勝てるスキルはありません。


 それでもやるしかないと、手を男に向けました。


 その瞬間。




 「ブレイン・インパクト!」




 毒の男の頭が歪みその場で気絶してしまいました。


 そして私たちの前に立っていたのは。




 「アーミラ先生!」


 「レナードが私の所まで走ってきてね。


  急いでここまで来たんだよ。」




 レナードは逃げたんじゃなくて、先生を呼んでくれたのでした。


 本当にレナードにも、アーミラ先生にも頭が上がりません。




 「お前たち、大丈夫だったかい。」




 アーミラ先生の言葉に安堵感を覚えます。


 アナムも実際はかなり疲労していたようで、目も座ってしまっています。


 まるで生気がぬけているようなもしくは操られているような…




 「先生!」


 「フレイムランス!」




 私が気づいたときにはすでに炎の槍はアーミラ先生の心臓を貫いていたようです。


 先生はその場に倒れこみます。


 その瞬間にアナムは意識を取り戻しました。


 オペラードは荒い息で座り込みます。




 「ちっ、数秒ももたないか。」


 「「アーミラ先生!」」


 「ああ、ついに私も死んでしまうのかい。


  あんたたちに最後に授業をしてあげるよ。


  なあ、二人とも。何で人は死ぬことが恐ろしいと思う?」




 私とアナムは動揺で考えがまとまらないどころが言葉を出すことが出来ません。


 それをみたアーミラ先生は優しく微笑みかけます。




 「死んだあと、どうなるのか何もわからないからだよ。


  でも、わたしはそんな恐怖心より死への知識欲が勝っちゃったらしい。


  お前たちがいなければ、悔いの一つもなかったんだけどね。」




 そう言って涙が頬を伝ったときアーミラ先生は亡くなりました。


 私たち二人は正気じゃなかったと思います。


 アーミラ先生を殺した男二人を殺すことしか頭にありませんでした。


 それが法に触れるスキルを使ってしまっていても。




 亡くなったアーミラ先生は立ち上がり、気絶している毒の男の周辺を歪ませて一瞬で殺してしまいました。これがアナムの死のスキルです。


 私もオペラードに向けて感情のスキルを放ちました。


 いろんな感情が混ざり合いおかしくなってしまったオペラードは自分の顔を搔きむしり、爪が目に到達したときの痛みで気絶しました。




 その後のことはあんまり覚えていません。


 気づいたときには、アナムと二人で中央国の王様の前で縛り付けられていました。


 王様も事情は知っていたのでしょう、死刑ではなく私たちにこんな罰を言い渡します。




 「それぞれ、はぐれ島と大鬼の島へと送る。


  ヒューマ大陸へと戻ってきたならば死刑とする。」




 はぐれ島と大鬼の島、それぞれ人間が生きれる環境ではないと、言われています。


 それでも私たちなら生きれることを王様はわかってくれていたのかもしれません。


 もちろん、厳しい環境であることに間違いはありませんでした。


 それほどに法から外れたスキルを使ってしまうのは恐ろしくゆるされないことなのです。




 そうして、私はこのはぐれ島へとたどり着きました。


 この島に囚われてしまったのです。

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