第十一話 不幸中の災い

「いいですか、私とかヒーナがいないのに森に入ったらいけませんよ。


  この島には私たちでも手に負えない魔物もいたりするんですから。」




 そんなミミリの言葉をちょっと思い出す。


 いやいやミミリさん、俺もあの時の弱い俺じゃありませんよ。


 片手に、フィーロさんからもらったハンドガンを握りしめ俺はそんなことを考える。




 別に俺だって、現れた魔物に片っ端から銃を向けるわけじゃない。


 ただ自衛の手段があるのはやっぱり安心感がある。


 男はスリリングな冒険に憧れてしまう。


 最初島に来たときはそんな余裕なかったからな。




 一応、すぐに拠点に戻れるように地図を描きながら来ている。


 それに来た道にも等間隔に石を置いている。


 なんだかんだ怖いから準備は万全だ。




 でも、この森は凄いところだな。


 ミミリの影響だろうか、襲われる気配はあんまりない。


 しかし、なんというか不安を煽る感覚がある。


 と、ホロホロを見つけた。




 拠点近くにもあるこの木には美味しい木の実がつく。


 そういえば最近食べてなかったな。


 木を揺らして実を落とす。


 食べようとしたその瞬間。




 「キシャーーー!!!」


 「ウギャーーー!!!」




 いわゆる擬態生物という奴だろう。


 その実の裏には口がついていてガスを吹き付けられる。




 「なんだこれ、逃げなきゃ。」




 俺はもらった銃をとっさに使う判断はできず、置いた石に沿って全速力で走り出した。


 飛び道具があれば大丈夫だと思っていたけど、やっぱり戦闘経験がないと厳しい。


 攻撃してくるタイプじゃなくてよかった。


 やっぱりミミリとかとまた行動しよう。




 だが、いつまでたっても拠点につかない。


 気づいたときには、森を超えて大きな骨が転がる荒地に来ていた。


 やばい、ここはかなりやばい。


 だってこんなに骨が転がっているなんて、この島の中でも特に強い魔物がいるってことだ。




 ただ、森の中は状況が分かりづらい。


 この開けたところならば魔物と遭遇した時、すぐに逃げ出せる。


 そう判断した俺は、荒地の中で安全な場所を探し、助けを待つことにした。


 また、ミミリに怒られちゃうなあ。




 この荒地も中々広く、それなりに歩いてみたが同じような景色がずっと続く。


 だからこそ違和感にはすぐに気づくことが出来た。


 太い木の棒を支柱として周りを魔物の皮で囲まれている。


 これは家なのか?




 近づくかどうか迷っていたその時。




 「おい、お前我に何か用か?」




 振り向くと、人が立っていた。


 健康的な褐色肌に、真っ白な髪。


 そしてその真っ赤な目。


 強くて頼りになりそうな女性だった。




 まじか、この島にはまだ人がいたのか。


 ちょっと嬉しくなって、俺もウキウキで言葉を返す。




 「用ってわけじゃないんですけど、まさかまだ人がいるなんて。」


 「ん、まあな。我もそれなりに驚いた。」


 「結構前からこの島にいらっしゃるんですか?」




 そんな普通の会話をしていたら、彼女は笑いを上げる。




 「ハッハッハッ!我が怖くないのか?」


 「怖い?、どうしてですか?」


 「いやいや、お前気に入ったぞ。


  面白いものを見せてやる。」




 彼女がそう言って、手を掲げる。


 なんだか空気が柔らかくなった感じがする。


 その瞬間大きな地震が来る。


 そして地中かあまりにも巨大な蛇の魔物が現れた。




 「身体強化!」




 彼女はおれの服の襟を握りながら高速で蛇の攻撃を避ける。


 そしてまた高速で接近し、蛇にけりを一発ぶち込んだ。


 蛇は溜まらずその場に倒れこんでしまった。




 「おい、我の動きはどうだ。」


 「す、凄いです!マジでカッコいい!」


 「そうだろう、お前のこと更に気に入ったぞ!」




 いや、凄いな。


 こりゃ武器があっても無駄ですわ。


 俺達はその後、お互いの話を色々した。




 「ちょっと聞いてもいいですか?」


 「なんだ?言ってみろ建築屋。」


 「何でこの島にいるんですか?」


 「面白そうだッたから来ただけだ。」




 なんか建築のスキルの話をしたら、建築屋と呼ばれるようになった。


 ってか、面白そうでこの島にくるなんて、やっぱぶっ飛んだ人だな。




 「俺のことは建築屋でいいんですけど、あなたのことはなんとお呼びすれば?」


 「よくぞ聞いてくれた、我のことはヴェラル様と呼べ。


  あと、敬語はやめろ、堅苦しいのは嫌いだ。」




 えー、様呼びなのに敬語使っちゃダメなの。


 まあ、こんな強い友達ができたのはいいな。




 「お前といた方が楽しそうだ、それにお前建築もできるんだろ?」


 「ええ、うん。」


 「ならば我もお前の住む場所に連れていけ。」


 「それが俺も道に迷ってしまって。」


 「む、ならとりあえず人間がいるところを目指せばいいか?」


 「そ、そんなこともできるんだ。」




 ヴェラル様は身体強化のスキルを持っている。


 それで視界や気配を感じる能力も高まるらしい。


 ヴェラル様についていくと、あっさり拠点にたどり着くことが出来た。


 拠点に着くと、ミミリが駆け寄ってきた。




 「コウイチさん!どこ行ってたんですか。」


 「ごめん、道に迷っちゃって。


  でも、そのおかげで人に会うことが出来たんだ。」


 「なるほど、これが建築屋の友達という女か。


  中々の強さのようだ。」




 ミミリがヴェラル様に気付いた途端、体を一瞬震わせる。




 「なんなんですか、この方。


  あまりにも強すぎる。」


 「ふむ、その反応で安心したぞ。


  この男はただただ、鈍感なだけだったか。」




 ミミリがこんな反応を見せるのは初めてだった。


 それだけ、ヴェラル様の強さは圧倒的なのだろう。


 俺もこの目で見たし。




 さて、こうして一度は恐れられたヴェラル様だったがその後は意外とあっさり受け入れられた。


 元々、この島に長く住んでいたのはヴェラル様らしくミミリも共感するところが多かったようだ。


 他の二人は元々、人が増えてもあんまり気にしないしな。


 こうして、ヴェラル様が新しい仲間として加わった。




 その日の夜、ご飯を食べながら皆で交流を深めていたがヴェラル様が気になる話をする。




 「そういえば、この島に一つ船が近づいているぞ。」


 「船ですか?」




 やはり、ミミリも興味を持つ。


 ヴェラル様はスキルでよく島の周りを確認しているらしい。


 やっぱり普段から面白いものを探しているのだろう。




 「ああ、眼帯の男でな。


  奇妙な見た目だったもんで少し気になってな。


  そもそもこの島に船が来ること自体が、珍しい。」




 皆の空気がピりつくのが分かる。


 この島は平和そのもなだからな。


 それぞれ荒らされたくはないという気持ちがある。




 「そういえば、我の勘違いだったらすまないが。


  他の船員たちは生きている感じがしなかったな。


  死んでいる、もしくは操られている」




 そこまでいって、ミミリが席を立つ。


 そのミミリの気迫に俺たちは息を飲んだ。




 「ミミリ、まさか奴か?」




 フィーロさんもかなり焦った感じで声を発する。




 「すみません、明日色々お話します。」




 そう言ってミミリはその場を去った。


 他の皆も困惑していたが、明日話してくれるならとそれぞれ部屋に戻ることになった。




 俺も部屋に戻る。


 どうしても気になってしまい、早く明日が来るように眠りについた。


 深夜、静かに体を揺らされ目を覚ます。


 目を開けるとそこにはミミリがいた。




 「コウイチさん、前にした私の過去についての話覚えていますか?」


 「もちろん。」


 「その続き、今させてください。」




 そうしてミミリは静かに喋り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る