第十話 進歩の余波

 俺は新たな仲間や荷物を連れ自分たちの住む島に戻ってきた。


 拠点に戻ってみると、ミミリはそこにはいなかった。


 これくらいの時間は、食料を狩ったりしてくれているから当たり前なんだが。


 とりあえずフィーロさんに拠点を紹介する。




 「すいません、まだフィーロさんの家が用意できてなくて。」


 「まあ、そりゃそうだよね。テントとかあるかな?」


 「テントはありますけど…。


  とりあえず俺の家使ってください。」


 「テントでいいよ本当に。


  生物の研究をするためによくテント生活をするからね。」




 この人はどこまでもいい人なんだな。


 俺は、フィーロさんの言葉に甘えてスキルでテントを生成した。


 その後は、自由に行動することになった。




 「悪い、ヒーナ。


  ミミリを見つけて拠点まで戻ってくるように言っておいて。」


 「まかせろ。」




 ヒーナは鳥になって素早く飛んで行った。


 俺も早く家を作らないといけない。


 フィーロさんもそうなんだが、まずはヒーナの家を作ることにした。


 流石にそろそろ俺の家は狭くなってきたからな。


 寝るとき風にさらされるのはかわいそうだ。




 こうして作業を進めて一時間くらいがたった頃だろうか。


 建材のストックがなくなり、補充に森へ向かった。


 少し進むとフィーロさんの姿がそこにあった。




 「フィーロさん、ここは大丈夫ですけど拠点から出るのは危険ですよ。」


 「いやー、ごめんごめん。


  ここは本当に面白い生物がたくさんいるから気になってね。」




 フィーロさんには情報のスキルがあるから大丈夫だとは思うけど。


 正直、戦闘向きのスキルを持っていないから心配にはなる。


 俺が言えたことじゃないけど。




 「それよりもほら見てごらん。」




 そう言ってフィーロさんが指さした先にはヒーナとミミリがいた。


 というかミミリはめちゃくちゃ泣いていた。


 俺は心の中でめちゃくちゃに動揺していた。


 そんな男どもをよそにヒーナが切り出す。




 「ミミリ、落ち着いた?」


 「はい、すいません取り乱して。」




 ミミリは何とか涙をこらえている。


 一息置いてミミリは喋り始めた。




 「コウイチさんとヒーナさんがいなくなって急に寂しくなってしまって。


  自分でもこんなに取り乱してしまうとは思いませんでした。」




 ミミリは俺がこの島にくる一年前くらいに来たらしい。


 つまりそれは一年間はこの島で独りぼっちだったということだ。


 最近はヒーナもきてこの島も騒がしくなったからな。


 久しぶりに孤独を感じてしまってんだろう。




 何日で帰るかくらいは伝えたらよかったなと反省する。


 でもそれだけ、俺たちはお互いに大切な存在になっていたんだな。


 ミミリには悪いが、温かい気持ちになる。


 俺と、フィーロさんは何も見なかったことにして仕事に戻る。




 今日の仕事に一区切りをつけて、ゆっくりしているとヒーナとミミリが帰ってきた。


 ミミリの目の周りは赤くなっているが気づかないふりをして話しかける。




 「ミミリ、久しぶり。


  いろいろ買ってきたよ。」


 「はい、ヒーナから大体はお伺いしています。


  フィーロ先生にお会いしてもよろしいですか?」




 疑ってたわけじゃないけど、やっぱり二人は知り合いだったんだな。


 俺はフィーロさんがいるテントにミミリを案内する。




 「おー、ミミリ。本当に久しぶりだな。」


 「はい、まさかフィーロ先生がこの島にいらっしゃるなんて。」


 「僕は何があっても学者さ、気になることがあればどこにでも行くよ。」


 「ふふ、フィーロ先生らしいです。」




 ここからは思い出話に花を咲かせることだろう。


 俺は邪魔だろうと思って、その場から離れることにした。


 離れ際にフィーロさんの声が聞こえる。




 「そういえばアーミラ先生のことはその、残念だったね。


  ミミリも相当つらい思いをしたことだろう。」


 「あの時はかなり落ち込みもしましたが今は大分回復したのでご心配には及びません。」




 アーミラさんはこの前、ミミリの過去に出てきた先生のことだ。


 あの話とか今の状況から考えて何かはあったと思っていたが、やっぱり亡くなったんだな。


 あまりにも悲しい話だ。


 いつかまた、ミミリが続きを話してくれるかもしれない。


 でも、俺から聞くことはできないな。




 次の日の朝、みんなでご飯を食べているとフィーロさんが話を切り出した。




 「ヒーナ、完成した家の住みごこちはどうだい?」


 「快適、さすがコーイチ。」


 「フィーロさんの家も早急に作りますね。」




 ヒーナの家は現在外装と寝るところだけは作り終わっていた。


 俺の言葉にフィーロさんが首を振る。




 「ヒーナは最近、人間の姿でいることがほとんどだよね。」


 「こっちの方がいろいろできる。」




 そう、最近ヒーナはずっと人の姿だった。


 スキルというのはMPだったりが存在しない。


 体力を使う物や使用制限があるものも存在するらしいのだが。


 そう考えると、ヒーナは人間の姿の方が過ごしやすいのかもしれないな。




 「だからこの家は大きすぎるよね。


  これから人が増えることも見越してこの家は大人数が住めるようにしたらどうかな。」


 「それはいいですね、じゃあ二階とかも作って部屋をたくさん作りましょうか。」




 俺も、同意見だったためすんなりと肯定した。




 「フィーロも同じところに住むの?嬉しい!」




 ヒーナも嬉しそうだし問題ないな。


 俺はご飯を食べた後、早速作業に取り掛かった。


 正直家の中に一部屋作ること自体は苦ではなかったので作業は昼になる前に終了した。


 その後、フィーロさんの荷物を運びこみすぐに部屋は完成した。




 「いやー、お疲れ様。


  荷物の持ち運びまでやってくれて、助かったよ。」


 「俺にできるのはこれくらいですから。」




 フィーロさんがその言葉を待っていたという風に話を続ける。




 「スキルがない人でも家を作ることができるよね。」


 「ええ、まあ。」


 「同じようにスキルがなくても戦うことが出来る。」




 そういってフィーロさんが取り出したのはハンドガンだった。




 「これは己の力を弾に込めて、打ち出せる機械さ。


  君は転生者だからね。スキルの適正値は基本高い。


  だからこの武器も高い威力で使いこなすことは出来るだろう。」




  おおっ、さすがフィーロさん。


  あの日から自分は戦えないと思っていたからすごく嬉しい。


  俺はハンドガンを手に入れた喜びで森へ駆け出した。




 「でも、やっぱり素で使われるスキルには威力が劣るから気を付けてね。


  あれ?もうあんな遠くにいる。」




 フィーロさんの心配をよそに俺はついに戦えるようになった喜びに包まれていた。

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