第八話 プログラミングスキル

今、俺は空の上にいる。


 ヒーナの背中は安定感が凄い。


 それもそのはずで、ヒーナは俺を背中に乗せるときスキルでさらに大きくなった。


 巨大化のスキルを取ったらしい。




 適正が高くなくても便利なスキルはとれる。


 単純にパフォーマンスが低くなるだけのようだ。


 むしろ、適性が高いと生まれたその瞬間から使えちゃったりするパターンもあるらしい。


 何だかガバガバだな。




 ミミリの話を聞いただけだから全てが正しいというわけでもないだろう。


 それでもヒーナもその話は聞いていたようで。


 俺を背中に乗せられるように巨大化のスキルを取ってくれた。


 ちょっと感激しちゃう。




 ヒーナ、町が見えてきたぞ。


 ミミリが昔見たという地図の記憶を頼りに俺たちに地図を書いてくれた。


 それに沿って移動してみたんだが、本当に町があった。


 ミミリの記憶力おそるべし。




 町から少し外れたところに着地し、ヒーナは人の姿になる。


 こうしておかないと、危険な目に晒されるかもしれないからな。


 ミミリは昔、親に魔物は恐ろしいものだとよく言われていたという。


 魔王を倒せ、ってくらいだし人間と魔物の間には壁があるのかもしれないな。




 「コーイチ、いこ。」


 「あ、ごめんごめん。今行くよ。」




 今日はやけに考え事をしてしまうな。


 この世界の背景がだんだんわかってきたこともあるだろう。


 とりあえず外の世界へのワクワクで先行くヒーナを追いかける。




 町に着くと、人がいることにすら驚く。


 一応警備っぽい鎧を付けた人や魔法使いっぽい人がウロウロしてはいるが特にチェックとかはないらしい。




 「コーイチ、あれ。」


 「おお、食材か。」




 肉や野菜、それに玉子など。


 最近食事の種類の少なさにミミリが頭を抱えていたがこりゃいいな。


 何より香辛料が目に付く。


 俺は町の人に話しかけてみた。




 「すいません、塩や卵なんかを分けていただけませんか?」


 「塩と玉子ですか?、15ゼニになります。」


 「すいません、手持ちがないもんで。


  この毛皮のコートと交換でいかがですか?」




 さすが俺、頭がいいだろ?


 こういう事態のために作っていた衣服を取り出す。




 「いや、間に合ってます。」


 「あ、そうですか。」




 交渉は一瞬で決裂した。


 まあ、そりゃそっか。


 はあ、せめて香辛料は揃えたかったな。


 と、その時。




 「僕がお支払いさせて頂くよ。」




 そういって颯爽とお会計をすませるおじさん。


 逆に怪しいくらい優しいな。


 でも、やっぱり感謝はする。




 「本当にありがとうございます。」


 「いやいや、これくらい僕に任せておいてよ。


  代わりといったらなんだけど、家にこない?」




 まあ、そうなるよな。


 こんな優しくしてくれるから何かあるとは思った。


 人と話すのはまだ怖いみたいで俺の足に引っ付いているヒーナをつれておじさんについていく。


 さすがに急に襲われることもないだろう。


 家に着くと同時タイミングでおじさんは喋りだした。




 「君、凄いね。


  後ろにいる女の子、魔物でしょ。」




 ドキッとする。


 ヒーナの身が危ないかもと警戒を強める。




 「そんなに警戒しなくていいよ。


  魔物に対して手を出すなんてことはしない。」


 「信じられません。」




 と、おじさんが急に尋ねる。




 「君の髪の色、黒だよね。」




 ハッとおじさんの髪を確認するが、剥げているため適性が分からない。




 「黒ってことは、適性は闇か無か…。


  それとも異世界人ってとこかな。」




 驚きのあまり俺の体は大きく反応を見せてしまった。




 「その反応、やっぱりか。いやね、昔異世界人の知り合いがいたもんだから。」




 何なんだこの人。


 ことごとく、俺たちの隠していたことがはがされていく。




 「ちょっとは喋ってくれてもいいじゃない。


  僕の適正は情報さ。


  君たちについての情報が僕の目には映っているんだ。


  だから本当は名前もわかっているよ、コウイチ君。」




 そこでようやく俺は口を開く。




 「聞きたいことって何ですか。」


 「お、よく聞いてくれたね。


  僕が聞きたいことは1つさ。」




 息をのむ。




 「何で、炎が適正の人は髪が赤いと思う?」


 「へ。」




 ちょっと拍子抜けした。


 何か不利な交渉とかを持ちかけられると思い込んでいた。


 分からないなりに質問に答えてみる。




 「何でって、炎が赤いからじゃないですか。」


 「でも青い炎だって存在するよね。」




 おじさんは話を続ける。




 「雷だってそうさ、黄色のイメージはあれど本来は青や白に近い。


  それなのに適性に合った髪の色は真っ黄色さ。」




 段々、俺の中にも沸々と疑問が湧いて出る。


 それは確かにそうだ。


 そもそも髪の色で適正が見えてしまうって戦闘や生存において不利に働く。


 ヒーナだって体毛は黄色かった。




 「僕が昔会った異世界人はこの世界を物語の世界のようといった。」




 まさか、まさか。




 「つまり私の見解はこうだ。


  この世界とまでいかなくとも、スキルというものは人工的に作られた。」




 さらにおじさんは付け足す。




 「君たちの住む世界の誰かによって。」




 もうただただ茫然とするしかなかった。


 おじさんの単なる勘違いかもしれないが、それでも筋は通っている。


 そもそも俺は異世界からやってきて、スキルを与えられた。


 それも人工的に。




 「君たちを見かけたときは本当に驚いた。


  松尾 幸一、この世界では聞かない名だからね。」




 どうやら、情報というスキルは嘘じゃないらしい。


 この人は本当にこの謎を解き明かそうとしている。


 俺も知りたい。




 「だが、中央の国々は僕の考えはありえないと否定した。


  逆に何かを隠したがっているらしい。」


 「ミミリもそういう話はどこかでしていたかもな。」


 「そんな国々と関わりを持たない異世界人は本当に珍しい。


  ぜひ、君にはもっと話を聞かせてほしいんだ。」




 と、歩き回りながら話していたおじさんが動きを止めた。


 どうやら俺の言葉に驚いているようだ。




 「ミミリ?アーミラ先生のお弟子さんかい?」


 「知っていらっしゃるんですか!?」


 「アーミラ先生は知識を求めるお方でね。


  僕の話を信じ、色々と協力してくれたよ。」




 そして俺の方におじさんは向き直った。




 「僕の名前はフィーロ。


  ぜひとも君と行動を共にさせてほしい。」




 アーミラさんやミミリとの関わりがあったんならそんなに危険な人ではないだろう。


 それにミミリについても分からないことが多く、単純に好奇心もあった。


 色々考えたが最終的に俺は、フィーロさんと行動を共にすることにした。




 「うーん、よく寝た。


  コーイチ、話は終わった?」




 あともちろんヒーナも。

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