第三話 この島には桜が咲く

 美しい桜色のポニーテール。


 キリっとしたエメラルドグリーンの瞳。


 そしてその端整な顔立ち。




 でも、目を奪われた理由はそこじゃない。




 ぼさぼさの髪に疲れ切った瞳。


 全身緑色のジャージ。


 この人絶対サバイバル生活してんじゃん!




 確かに俺は思春期の少年だし、綺麗な女の人に一目ぼれなんてこともよくある。


 でもさ、こんな状況なんだしどうしても仲間意識の方が勝っちゃうよ。


 やっぱり、この島で生活するのは苦労するよなー。


 ホロホロの木の実のこと知ってるかなー、教えてあげたほうがいいかなー。




 もう現実で人に会うなんて久しぶりだし、言いたいことありすぎて逆に言葉が出てこない。


 お互いそうなのだろう。


 見つめあって20秒、固まっていた女性の顔が驚きと緊張で歪みだす。


 そしてついに女性は口を開いた。




 「え、え、え?どどど、どうしてこんな所にし、人がいるんでしゅ、ですか?」




 人と話すのが久しぶりなのだろう。


 盛大にきょどってる。顔も真っ赤。


 ようやく俺も口を開いた。




 「俺もよくわからなくて、気づいたらここにいたんです。」




 転生のこととか説明する自身もないからとりあえずわからないことにしとく。




 「な、なななるほど。」


 「この島に住んでいらっしゃるんですよね。


  俺はコウイチって言います。これからよろしく。」


 「ミミリって言います。よ、よろ、よろしくお願いしましゅ。」




 ついに人に会うことができた俺はミミリに聞きたいことも多く、その場に座り、話しこんでいた。


 ミミリはどうやら一年前くらいにこの島にやってきたらしい。


 この島には人が来ることはほとんどどころか全く無く、久しぶりの客人だと涙ぐみながら話してくれた。


 恰好も人に見られることを意識していなかったのだろう。そりゃそうだ。


 どうしてこの島に来たのかはおいおい話すとはぐらかされた。




 「あ、あそうだ。こんな所で立ち話もあれですし、お家来ますか。」


 「え。」




 そうか、一年この島に住んでんだもんな。


 そりゃ家の一つくらいはあるか。




 どうやら俺が今までいた島の南側は彷徨っていた場所は比較的安全な地域だったらしい。


 生物がいるにはいるらしいのだが、姿を隠していたり逃げてしまうのがほとんどなんだとか。


 運がいいのか悪いのかわから、いや悪いな。


 これから行くのは島の中央と呼べる部分である。


 森の色んな生物が入り混じる一番危険な場所らしい。




 「なんでわざわざそんなところに住んでるんだ?」


 「そ、そこに家があったからです。」




 なるほど、だいたい事情は分かった。


 女の子一人で家を作れるわけないもんな。


 多分今は絶滅した先住民とかが、頑丈な家を建てておいてそこに住んでいるんだろう。




 「そろ、そろそろ着きますよ。」




 でも実際どんなところだろう。


 ログハウスみたいな感じかなー。


 意外と、お城みたいな感じか?




 スッとミミリの足が止まる。


 お、着いたか。顔をあげると




 ー超巨大な恐竜の頭蓋骨みたいのがあった。




 え?最低洞窟みたいなとこだと思ってたのに。


 そもそもこの島こんな巨大な生物がすんでるの?


 呆気にとられているとミミリが巨大な頭蓋骨に近づく。


 グッと力強く鼻先を持ち上げると、あんぐりと口が開いた。




 「さ、さあどうぞ。お入りください。」


 「あ、失礼します。」




 どうやら彼女は狩られる側ではなく、狩る側だったようだ。


 家の中に入ると、ひんやりする。


 いろんな生物の肉が冷凍で保存され、皮が干されたり敷かれたりしている。


 奥には魔法使いのローブみたいのが飾られていた。




 「魔法使い、とかだったりしますか?」


 「あ、そ、そうなんです。意外と名が知れた魔法使いだったんですよ。」




 へー、もしかして俺も魔法とか使えるようになったりするのかな。




 「俺にも、魔法教えてくれませんか。」


 「わ、わかりました。やれるだけやってみましゅう、しょうか。」




 そっかミミリさんとの、いやミミリ先生との修行が始まった。




 「うああああああああああああああ!」




 後ろから巨大なゴリラに追いかけられる。


 これ死ぬ奴だ。




 「魔物はこうやって狩るんですよ。」


 「プチ・ウォーター!」




 ミミリ先生は水と氷の魔法を扱えるらしい。


 水の玉がゴリラの脳天にぶち当たる。


 ゴリラさん…、ミミリ先生強すぎだろ。




 「わ、わかりましたかー、やってみてください。」


 「ごめんなさい、無理です。」




 また、ミミリ先生は自分のスキルの見方についても教えてくれた。


 そのスキルの一部を紹介しておこう。




 <メイク・テント>


  その場にテントを召喚する。シンプル。


  家に困ったらすぐ出せるから便利。




 <伐採・加工>


  もうそのまんまの意味。説明する必要もない。


  現在は木材にしか使えない。




 いや、こうしてみると見事に建築系のすきるしかないな。


 指ライターはあるけどさ。


 そんなこんなで一月くらいが過ぎたころだった。




 「コウイチさん、あなたには攻撃系のスキルに関しては全く才能がないみたいです。」


 「まあ、薄々気づいてはいたけど。」




 俺の夢は一瞬で砕け散った。


 不名誉なことだが俺は一月で先生から卒業した。


 そうだよな、ミミリいるから正直戦闘困らないけどさ。


 どうせなら使ってみたかったなあ。




 「今日も周りを探索してきますけど、どうします?」


 「ここにいるよ。」


 「わかりました。お気をつけください。」




 気を付けてといっても、ここはミミリの住処のため魔物は近づいてこない。


 初日にいたところ並みに安全な場所といえるだろう。


 俺も何もしないわけにはいかず、建築スキルを試してみることにした。




 まずは周りの木々にスキルを使う。




 「伐採!」




 木が根っこから切断され、静かにその場に倒れる。




 「加工!」




 倒れた木々が形を変え余すことなく、パーツが生み出されていく。家を作るには十分な建材といえるだろう。




 「設計表示!」




 頭の中に浮かべた家が、青い光となって建築予定地に映った。


 そして最後は




 「組み立て!」




 作ったパーツが組み合わせられ、あっさりと家が完成した。


 サイズはおおよそ20平米くらいだろうか。この後家具何かを置くとするとちょうどいいだろう。


 どうやらスキルも進化していくようでスキルを使い続けると繊維の加工が可能になっていた。


 それで魔物の皮を使ってベットやテーブルをつくる。




 さて、その後同じような家をもう一軒建てた。


 軽く言っているがここまで一週間かかった。


 だが、頑張った分帰ってきたミミリにも気に入ってくれたようだ。


 今まで住んでいた頭蓋骨は食料倉庫にするみたいで、今日から作った家に移動する。


 俺もついにテント卒業だ。




 さて、夜も深くなって森も静まり返ったころ。


 俺は、森を少し進んだところにいた。


 何でってお花を摘みに行きたくなったからだ。




 なんだかんだ不平不満を持っていたこのスキルだけど安定してみると悪くないスキルだな。


 ま、強い味方がいることを前提とする。


 こうやって家を作って、家具を作って生活の水準が上がるとさらに快適さが欲しくなるな。


 やっぱり今一番欲しいのは風呂だよな。


 町とか作るのも案外夢の話じゃないよな。




 スッキリして気分もよくなって鼻歌交じりに自宅に戻る。


 ん?家の前になんか落ちてない?ダチョウの卵?


 冷えたらまずいと思い卵を家の中に入れて毛布を掛ける。


 正直一人だと寂しいという気持ちもあった。


 俺も寝ちゃおうかな。




 次の日、ノックの音に目を覚ます。


 日差しが眩しい、俺はゆっくりと体を起こしノックに答える。




 「ごめん、入ってもいいよ。」




 入ってくるのはもちろんミミリだ。




 「やっぱ家って凄いですね。とっても快適でした。」


 「それはよかった。ごはん持ってきてくれたの?」


 「はい、その卵は?」


 「昨日家の前で見つけてさ、今日はこいつの様子を見てるよ。」




 ミミリが椅子に座る。




 「じゃあ、今日は私もお休みにします。お話しませんか?」


 「おっ、それはありがたい。ぜひぜひ。」




 最初は世間話的な当たり障りのない話をしていた。


 俺は、この数か月でミミリのことを信頼しきっている。


 いつのまにか転生含めて自分の過去について話していた。


 ミミリも同じだったのだろう、俺が少し気になっている素振りを見せたのもあるのかもしれない。


 いつの間にかミミリは彼女がここに来た理由、過去について話し始めた。

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