第四話 恵まれた才能
ミミリ・アクスロイヤ。
雪が降るとある村で私は生まれました。
とっても優しい母ととっても厳しい父。
対照的な親でしたが、両方私にたくさんの愛情をくれました。
5歳になった頃のことです。
人には適正というものが存在します。
どんなスキルを覚えやすいか、どんなスキルが向いているか。
いわゆる才能というやつです。
5歳になると世界で一番大きい国である、中央に位置するミドレアという国で適正診断というものをします。
「今日は中央国に行く日なんだから、しっかりおめかししないとね。」
「帰ったら、誕生日パーティーだな。」
「うん!」
母は体が弱かったので、家で料理を作って待っているということでした。
私の父は中央国へ行くのを何故か嫌がりましたが、決まりは決まり。
仕方ないといったように私を箒にのせて飛び上がっていきます。
人の適正は国でどの程度あるかわかります。
しかし、そのおおよそは髪の色で判別できるのです。
母の髪はピンク、父の髪は青。
私の髪の色も母によく似たピンク、感情に関するスキルが適正です。
父と箒の上で話をしました。
「感情のスキルは法律で禁止されているスキルだ。」
「そうなの?」
「でも、適正がなくても活躍する魔法使いは多くいるぞ。」
「うん、お父さんみたいに強い魔法使いになりたい!」
「ならもっと勉強頑張らないとな~。」
父はそう言って笑いかけてくれました。
感情や闇、毒などこの世界では禁止されているスキルが多く存在します。
その中でも危険と判断されたスキルを持つ人は中央国の監視下で過ごすことになるのです。
それがスキル適正を図る、本来の目的です。
「お、国に着いたぞ。」
父が地上に向かって降りていきます。
私たちは、1~2時間かけて中央国に到着しました。
父と手をつないで町をかけていきます。
発展したその町はなにもかもが新鮮で、父と出かけられることも嬉しくて走り出します。
父も母のことが心配だったのでしょう。
二人で急いで、スキルの適正を図る施設である国の中でも一番目立つお城へ向かいます。
受付で、手続きを済ませて待っていると父の顔が歪みだしました。
それは父の前にやってきた一人の大男が原因のようでした。
「アイザくんじゃないか、久しぶりだね。」
父は小さく頷くだけです。
「ちょっと~冷たいね~、魔法使いでもトップレベルの強さをもっていた君が訳もわからず去ってしまうなんてさ。戻ってくる気はないの?」
「もう、昔の話ですよ。すいませんが、娘の用事で来ているだけなので。」
「そりゃ申し訳ない。まあ、また時間があったらお話しようよ。」
そういって大男は去っていきます。
お父さんがすごい人だったのは知ってたけど、魔法使いをやっていたなんて。
昔は、スキルのことを魔法と呼んでいました。
そんな昔から人を守るために生まれた職業が魔法使い。
つまり、魔法使いは悪い人をやっつけるヒーローみたいな職業です。
だから持っていた尊敬はさらに強くなりました。
「お父さん凄いね!みんなのヒーローだったんだ!」
「この国が求めているのは強さだけだよ。」
お父さんの言葉に影が落ちます。
「私はお前たちさえ守れれば、それでいいんだ。お前は強くなくてもいい。
ただ、優しくて健康ならそれでいいんだよ。
それだけで…。」
そこで父はハッとします。
「こんな話急にしてごめんな、忘れてくれ。」
父は少し寂しそうに俯きました。
何かに飲まれそうな、不安な表情でした。
そこから少しして、適性検査のため呼ばれました。
水晶をもつ怪しい人の前に座らされます。
その顔はよく見えません。
その人が、力を込めると水晶が光りだします。
「この子の適正は、感情。」
まあ、髪の色からわかっていたことです。
特に驚きも、ありませんでした。
「…それと水に、氷。」
周りで見ていた国の人がどよめきます。
父の顔は青ざめて段々と体温が下がっていくのが分かりました。
「複数適正かよ!こんなの本でしか見たことないぞ!」
「それだけ、魔力も高い。我々の所で育てたい逸材だな!」
この頃の私は知りませんでしたが、私は複数適正というものでした。
名前の通り、適性を複数個持ちそれに準じ魔力も高くなるのが特徴です。
いわゆる逸材と呼ばれる存在です。
父は私の手を強く引き、急いでその場から逃げ出しました。
帰りの箒では、一切喋ることはありませんでした。
次の日から生活は一変しました。
確かに、厳しく勉強や修行を重要視する父でした。
しかし、その厳しさはさらに勢いを増します。
家では、自由と呼べる時間はほとんどなくなりました。
ほとんどを勉強と修行で埋め尽くされ、何度疲労で倒れたか覚えていません。
父は笑うこともなくなり、「できれば、こんなことする必要ないんだ!」と口癖のように並べます。
母は最初は抵抗してくれていましたが、体はどんどん弱っていきました。
今では時間のほとんどをベットの上で過ごしています。
前は月に一回程度、人が来ていましたが頻度は増えていきました。
何度か怒号が聞こえて、戻ってきた父の頬には今も痣がついています。
そんな日々が7年続き、その日も修行が終わったときでした。
「ミミリ、お父さんと勝負しなさい。」
「え?…分かりました。」
父が何を考えているのかわからない。
それでもやるしかない。
そんな雰囲気を父から感じ取りました。
お互いに手を相手に向けあいます。
「「メガ・ウォーター!」」
お互いに全力だったと思います。
気づいたときには父はその場に倒れていました。
私が12歳の時には父から教えてもらえることはなくなっていたのです。
「ちょっと話をさせてくれないか。」
「何ですか、お父さん。」
いつぶりにこんな普通の会話をしたでしょうか。
父は倒れた状態で話し始めます。
「私は父親失格だな。お前のことを、守ってやることもできない。」
「お前が思っているより、お前の力は強力だ。」
「そうなんですね、だったら私もお父さんと一緒に!」
「私なんかより強い人間は多く存在する。」
父は、身を起こします。
「私が、昔お世話になった学園がある。そこに一緒に行こう。
命を懸けてでもお前たち、お前だけは安全に暮らせるようにする。」
父の目は、本気でした。
死んでもかまわないという覚悟が見えました。
それだけ、今私たちは危険な状態だと言えるのでしょう。
両親は私に愛情をくれました。
あの日から父の苦悩を多く見ました。
多分これからも、迷惑をかけることになるでしょう。
夜、私は箒を手に取り外にでます。
村から全く出ることがなかった父の箒は埃をかぶっています。
私がいなくなれば、両親のところに悪い人が来る必要はありません。
私がいなくなれば、両親だけは辛い思いをする必要はありません。
箒は段々と高度を上げていきます。
その日はとっても月が明るい夜でした。
零れた涙の粒が、くっきりと影を落とす程に。
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