第36話 時間切れ
押し倒されたルスカは男に馬乗りにされて殴られる。
倒れたことで足を使えなくなるものの、肩の重量の負担はかなり軽減されたため肘先で何とか男の振り下ろしてくる拳をプリオンに調整してもらった籠手で防御が間に合うようになった。
(ダメージ自体はこれで……)
ルスカは受ける拳の重さからダメージ自体は少なくなったと感じるものの、振り下ろすものに男の上半身の体重を全部乗せていることもあって体力の消耗はより大きくなっていることを感じ、精神的な焦りを覚える。
今のルスカには周囲の状況を確認できるほどの余裕もないが、上に乗り有利のはずの男にも焦っている表情はこの決闘を見ている人間の反応……特にあちらのリーダー格の男からの圧力がこの男を焦らせている。
ルスカも倒れる際に確認したイネの表情から焦りを感じるも、状況は圧倒的に不利な上に攻撃を防いでいるとは言え筋骨隆々の男が全体重を押し付けてきていることから体力をじわじわと削られているため能動的な動きが難しい。
抜け出そうとしても男がずっと振り下ろし続けているためダメージ覚悟をしたとしても確実に抜けられる自信はなく単純にダメージを蓄積させるという思考がルスカを支配したその時。
「……クッゥ!」
優位だったはずの男が少し離れようとする動きを見せる。
呼吸が荒いままのルスカは再び攻撃が来ることを警戒しながら様子を伺うと、男の拳が金属の籠手に全体重を乗せて叩き込んでいたためか皮が擦り剝けて赤いことが確認できた時、ルスカは無意識に身体を傾けて自身の体から浮いた男との間に片足を挟み込んでから上体を勢いよく起こしながら挟んでいなかったもう片方の足も引き抜き距離を取る。
お互いが肩で息をするほど疲弊しつつもルスカは次の手を考える。
疲労とダメージから自ら攻めに移るのは難しいものの、相手の方がダメージが大きいように見える上疲労具合も自分以上のように思えたルスカはこのまま相手が攻撃を行うように誘いつつ防御を徹底し頃合いを見計らってカウンタ―を狙うのが無難。
そう考えながら間合いを詰めて男の攻撃を誘導できるギリギリの距離を見計らいつつ立ち回ることを決め、再び男と打ち合える距離になり相手の一挙手一投足を見逃さないように集中する。
ルスカ自身の疲労も無視はできないし、馬乗りになられた時に固定が壊れたの肩の盾も立ち上がる際に外れたため動きやすくなっていることから疲労回復も合わせてルスカが有利になった……そう思ったタイミングで目の前に強い気配を感じて咄嗟に防御姿勢をとるも間に合わず腹部に拳がめり込んだ。
意識が飛びそうになるもルスカは踏み止まり状況を確認する。
先ほどまで男とルスカの立っていた場所の丁度中間に立会人をしていた黒衣の女が立っており、ルスカと戦っていた男は悶絶どころか意識が飛んでいるようで身体の反射反応で生存の最低限の動作をしていてルスカ自身防御失敗したはずだった。
昨晩叩き込まれた一撃はルスカの経験として体に刻まれていたためかダメージは大きいもののあの時のように悶絶して全く動けないことはなく次の動きに備えて回復に集中しようとしたところで黒衣の女が。
「千日手と判断いたしました、決闘は別の人間が代替することとなります」
「代……わり……?」
ルスカが何とか入れた空気を使って質問の言葉を投げるとほぼ同時に隣にイネが居て答える。
「このままだと周囲の連中が暴発して決闘の意味が完全になくなりそうだったから苦肉の策」
「そりゃこっちのセリフなんだが、まぁいいか」
そう言って今まで自分が戦っていた場所にイネと相手のリーダーと思われる男が向き合うように立つ。
2人と立会人である黒衣の女が細かいルールを確認する会話をしているが、ダメージとイネが代わりに出てくれたという安心感によるルスカはその言葉をうまく聞き取ることが出来ないでいると。
「魔法は使わないでくれよ」
そんな言葉が聞こえる。
男とイネの体格はかなりどころではなく普通ならば絶望的な差。
魔法が使えるのであればそれも問題にはならないだろうがそれを禁止した場合どうなってしまうのかルスカには想像できず慌てて3名の会話を聞くため集中するも。
「まぁ、いいよ」
あっさりとその内容をイネは了承した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます