第35話 泥試合

 カウンターを狙うルスカは高身長で振り下ろされる一撃は可能な限り回避して牽制である攻撃に対しては防御をしながら機を狙ってはいるものの、肩に装備している盾の重さによって重心移動に問題が出てきている。

 致命の一撃になるだろう重いものは回避出来ているが牽制や当てるだけを目的とした細かい攻撃に関しては腕の手甲の重量の影響があってさばききれず、最悪額で受けてダメージを最小限にして相手の拳にダメージを与えているが……。

(想像以上に体格の差が大きいときつい……!)

 相手は筋肉量は見せるためのものが大半に思えるような筋肉の付き方をしている男ではあるが、ルスカの体格と筋肉量からすると単純な体重の差で負けている以上完全に受け流すのはかなり難しい。

 それこそイネのような技量があれば可能なのだろうがルスカが今までやってきた訓練では基礎体力訓練が中心で技術的なものはほぼ習熟訓練が出来ていない。

 機を狙う形でしばらく続けていると多少重さに慣れてきたのかルスカはようやく肘先の動きは籠手の重量も含めた動きが出来るようにはなっているものの、上腕の動きと重心は未だに慣れず動きがついてこない。

 そしてついに回避する際の踏み込みを行った際、砂に足を取られて重心がずれてしまう。

(しまった!)

 ルスカが思ったのと同時に男は大きく振りかぶり拳を叩きつけるような動きで踏み込もうとしている。

 一瞬何も考えられなくなったルスカは無意識に踏み込み損ねた側の足に重心を移動させ固定しさらに踏み込みながら左腕を小さく押し込むように前に突き出していた。

 そしてお互いが勢いのママぶつかることで無意識に動いたルスカの拳が男の腹部に押し込むように突き刺さり、この決闘初めてのクリーンヒットの一撃となった。

 しかし……。

(なんか、手ごたえが……?)

 ルスカの拳が当たった場所を抑えながら悶絶している男を見下ろす形になったルスカであったが、今の一撃はロイとの組手とは違い手ごたえという感触が殆どなく何故男が倒れて悶絶しているのかが理解できずに立ち尽くす。

 倒したという実感も勝ったという実感もないルスカは息を整えながらも相手の男の様子を確認する。

 表情は見えないものの腹部を抑えて悶絶の声を唸るように出していることだけがルスカの視線では見えるため少しづつ近づき覗き込むようにして確認しようとしたその時、悶絶していた男は勢いよくルスカの腰を目掛けてタックルしてきて覆いかぶさる形で倒れ込む。

 倒れ込むその時ルスカの視界に大きくため息をするイネの姿が見えた。

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