第34話 強制タイマン

 昨日の襲撃犯に案内された場所は鉄等の金属が積みあがっている広場で、チンピラ連中が集まっていた。

 広場には運搬用の設備などもあることからこの街の施設であるはずなのにチンピラが大勢集まれているのはこの街の実情を示しているのかもしれない。

 そして今ルスカはというと……。

「というわけでタイマン、しようか」

「チップが無駄になるだけだな、話になんねぇ」

「そっちの最強とこっちの最強がやった場合でしょ、それは。あんたの思うそっちの2番手とこの子のタイマン」

 チンピラを統率しているであろう身なりは良いがその風貌と気配は紳士的なものではなく、視線を悟らせないような視線移動に隠そうともしない殺気を出しながらもイネはいつもと変わらない口調でやり取りで進めている。

 この会話になる前にはルスカ自身に銃撃してきたのだが、その銃撃に対してイネの対応を見てから男の方が早く切り上げたく会話を早めているわけだが……その結果何故かルスカが戦うことになっていることにルスカ本人は不安しか感じていない。

「……まぁ、それならいいか。だが完全に手は引けねぇぞ」

「依頼主にでも傭兵と全面戦争するつもりでもなきゃできないっていう言い訳が出来る程度のものは見せてあげるつもりだよ」

「俺個人なら既にそう判断してんだがな……ギルドじゃなくてめぇ個人って点だけは違うが」

「ま、そういうわけだからルスカ頑張れ。周囲警戒はしてはおくけれどそっちの介入も難癖付けられるだろうから出来る範囲でも自力でやること」

 あちらのリーダーとイネの話し合いは決着がついたようではあるが、ルスカにとっては無理難題を押し付けられたと感じる流れである。

「自分で出来る範囲って言われても……」

「あの男とやり合うことになってたら確実ではないけれど、高確率で負ける範囲からルスカなら問題ないと判断できる範疇に落とし込んだんだから大丈夫」

 イネは楽観している口調ではあるもののルスカの不安を払拭できるものではない。

「師匠が戦ってくれれば良かったのでは?」

「あちらが全力で回避しようとしてたのは聞いてたでしょ」

「それは……そうですけれど」

 チンピラ連中が雇ったプロの暗殺者をあしらい、弓矢など比較にならない銃という武器の攻撃にすら余裕を持って対応して見せたイネと戦いたくないというあちらの気持ちは分かりたくなくてもよくわかってしまうルスカは反論しにくい。

 そもそもの起点としてはルスカ自身の不注意から始まったことなのもあり、多少の理不尽を感じながらも手首と足首の柔軟を始める。

「勝てばある程度は滞在中の安全確保になるし、負けてもカバー可能範囲。むしろあちらさんの方が後がない状態だと思うから死なず、殺さずを心掛けながら周囲から何か飛んでくる可能性を頭の片隅に入れておけばルスカの実力なら問題ないよ」

「その何かはさっきの銃って奴じゃ……」

「見てから反応は間に合わないから、気配だけ気を付けておけばいいよ。実際に銃弾が飛んでくるようならこっちでフォローするから……まぁ森の狼相手みたいな感じに気配を注意しておけばいい」

 戦いながら野生動物に注意する動きが必要な時点で大丈夫ではないのでは。

 その言葉が口から出そうになるも、イネは実際に出来ないと判断したことはやらせないこともルスカがこれまで経験してきた事実なのでため息をしてから覚悟を決める。

 ルスカはイネの言葉に対して自身が乗せられやすいのを自覚しつつも黒衣の女が建っている付近まで移動して深呼吸をする。

 周囲の環境が悪いからか深呼吸と同時にむせてしまう。

 森と畑と川ばかりの村で育ったルスカにとっては砂埃と鉄の錆による粉塵に対してあまり耐性がないためにむせてしまうが、深呼吸ではない形で改めて呼吸を整えていく。

「マジで俺がやるんッスか」

「今集まってる連中の中じゃマシな奴がお前くらいしかいねぇだろうが。あちらさんはもう準備始めてんだ早くしろ」

 チンピラたちの代表として指名された男は筋肉が目立つようにタンクトップに短パンと言った服装ながら髪の剃りは特徴的で力こぶを象徴するマークと力を証明するためなのか剣を交差しているマークを左右別にしている。

 ルスカにはどうにもこちらに向かって歩いてきている男は外見自体は髪のマークと筋肉で威圧感はあるものの、筋肉の付き方からどうにも動きにくそうだなという印象を持つ。

 お互いを正面に見据える形で立ち、黒衣の女が立会の宣言でありきたりの言葉を並べて……合図を待たずにチンピラ側の代表が動いた。

 完全な不意打ちではあったもののルスカはそれに反応……してはいるが工房で外してこなかった装備の重さでギリギリになってしまう。

(これは……!)

 ルスカは聲に出さず心の中で叫ぶ。

 装備が原因で余裕で反応出来るのを頭で認識出来ているはずなのに身体が追いついてこない。

 反応できないわけではなく意識に対して反応が遅れるということはルスカにとって初めてのことで困惑するも、既に殴り合いが始まっている以上覚悟を決めて反撃のタイミングを見定める作戦を決めた。

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