第30話 食事中の出来事

 外食することとなり、イネとルスカは宿の部屋から外に出て高級店が多い商人ギルド近辺から2人が街に入ってきたときに通った馬車通を目的地として移動をし、大衆食堂へと入店した。

 店内はルスカにも馴染みがあるような雰囲気で、収穫祭の時のような騒がしくマナーというものは基本存在しないような場は高級な宿で落ち着かなかったルスカにとっては落ち着けると思える場所であったが……注文を取りに来たであろう女性の店員とイネが会話していると。

「今入ってきた人たちに一番強いお酒を」

 などとイネが注文している。

 ルスカには見覚えはなく、傭兵ギルドにもいなかったと記憶を探った感覚では言えるものの自信はないが、店員が知り合いかと聞いたときに違うと答えた時点である程度察する。

 店員が厨房へと向かったのを確認してからルスカはイネに質問する。

「昼間の連中じゃないですよ」

「ただの悪ガキじゃなかったってだけだね。衛兵がやるべき治安活動の範疇だからギルドも能動的に動く義理はないし、衛兵が動かなければあぁやって野放しになるわけ」

「衛兵が動かないってどうしてです」

「さぁ?理由はいくつか考えられるけれど、薄給がすぎて賄賂をもらっていたり、そもそもこの街の統治を任されている貴族の子飼いだったり……そもそも反社会勢力組織の規模が大きすぎて貴族や衛兵が手を出せない相手だったり」

「そんな……!」

「声が少し大きいねぇ。気づいているってのはお酒を奢ってやったことで伝わるだろうからいいとしても少し警戒しようね」

 イネの忠告が終わった辺りで注文した料理が来るも、イネがサラダを口に運ぼうとしたところでコップが飛んでくるトラブルが起こり……投げた男が近づいてきて喧嘩になったものの、ルスカは指示された周辺警戒に関して行うまでもなくイネはあっさりと男を無力化してしまった。

 イネが得意とする距離と戦法で男が挑んだ時点でルスカは簡単に終わるだろうという予想はしていたものの、ルスカの予想よりももっとあっさりと終わってしまいいねの行った技術の確認も正確には出来なかった。

 店員が今イネにやられた男についての情報を教えてくれたが、どうもこの付近を牛耳っている裏組織の幹部とのことだが……。

「まぁ……やっちゃったことを考えても仕方ないし、今のやり取りだけなら喧嘩の範疇で捉えてくれればいいかなと思っておきますよ、あちらから売り出した喧嘩だったわけですし」

 イネは相変わらず楽観的に考えていて店員もそうなればいいけどという心配はするがイネの実力を実際に見たためか、この街での傭兵の立場は職人と連携することで担保されていることを示す過去にあった商人の事例を出して楽観することにしたようだった。

 その後は特に何事もなく食事を済ませられ、かなり味の濃い料理は量がそこそこでもかなりの満足感を得られるだけのものでルスカはイネの言っていたその土地の味というものを実感する。

「さて……食事も終わって帰り道なわけだけどルスカ君、気配は理解できるかね」

 店を出た直後、イネがそんなことを言い出した。

「なんでそんな口調なんですか……店の中から少し感じますけど」

「それは別の気配。宿から追跡してきていた連中の気配のことだったけど……まぁ2人に減ってる上に気配を消せる奴に交代したっぽいからこれは仕方ないか」

「気配消している相手の気配が判るってどうやるんですか」

「視線判断。他にも色々あるけれど主要素は視線だね、相手は追跡をする都合こちらを視界に絶対入れていなければいけないから」

 イネの説明を聞いて理屈はなんとなくではあるが理解は出来たルスカだったものの、それを人混みでしっかりと判断できるだけの技術はイネだけではないかと思ってしまう。

「とりあえず宿に戻って、相手の出方を見る以外に選択肢が無くなった以上は気配を探る訓練のつもりで移動するように」

「出来なかったら……?」

「ここまでの訓練内容的には出来て欲しいところだけどね、出来なかったらそれはそれで相手の思惑を真正面から潰せるように立ち回る訓練をしてもらうだけだよ」

「出来るの師匠くらいですよ……」

 気配を察知出来なかったら襲撃を真正面から対応させられることが確定したのを聞いたらルスカは改めて気合を入れるが……野生動物の気配や危害を加えようとしてくる人間からの悪意に対してはイネの課した訓練の中でなんとなく程度ではあるができるようになっているものの、人混みで視線から察知しろというものはルスカ本人はできる自信はないし、技術としてもまだ習得出来ていない。

 それでもイネが訓練として指示した理由は出来るようになればそれだけルスカの今後にプラスになるからだろう。

 イネの訓練のやり方は基本的にまず実践させてから技術的なものを補足していく形なので、次の訓練内容はそうした気配察知のやり方なのだろうとルスカは自分の中で自己完結し、挑戦してみる。

 視線を察知する要領がわからないルスカはキョロキョロと視線を動かす時に首まで動いてしまい不審者のようになってしまったものの、イネがやってみろと言ってみた理由が理解できる程度には人の視線の気配をルスカは認識することが出来た。

 最もこれはルスカが明らかに不審者な動きをしていたからであり、状況としてはかなりわかりやすい状態だったためなのだが……それをルスカが改めて実感することになるのはまた後のお話となるのであった。

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