第28話 新しい出会い

 イネに連れてこられた場所は石レンガで作られた建物で、小さく手入れされていないように見える看板にはサラマンダー工房と書かれていた。

 ルスカは特に説明も解説もされずイネについていく形でサラマンダー工房の中に入ると見慣れないものばかりが目に飛び込んできて、鼻には削れて熱された鉄の匂いを感じる。

 イネは周囲を見渡しているルスカを余所に、正面で何かの機械を操作していたツナギを着た中年男性に話しかけていた。

 実のところルスカが意識を余所に向けている間に男性から話しかけてきていたのだがルスカはそれに気づくことなく、更にイネも商談のようなものを始めてしまったので手持無沙汰になる。

「お客さんですか?」

 少し幼い感じの女性の声でルスカは話しかけられる。

「あ、えっと……」

「あぁごめんなさい、私はこのサラマンダー工房で見習いのプリオンって言います」

 接続詞に違和感を感じながらも自己紹介をされたルスカは慌てて返す。

「俺はルスカ、ししょ……あの人に連れてこられたけれどなんか暇になっちゃって」

「嘘……親方が凄く楽しそうに話してる!……あぁなっちゃうとしばらくはダメですね」

「珍しいんですか?」

「そりゃぁもう。親方があぁなってる時は大体何か思いついたって時で……」

 プリオンを名乗った少女は困ったといった表情で持っていた資材を机の上に置く。

「こうなったら仕方ないわ。あなた……えっとルスカさんでしたっけ」

「そ、そうだけど?」

「連れてこられたって言ったけど私の練習相手になって!」

「れ、練習?」

「あぁごめんなさい、装備の調整とかそういったことをさせて欲しいの」

「そういう。……でも御覧の通り俺はそんな調整が必要な装備は持ってないよ」

 ルスカはそう言って回転して見せる。

 イネからは武器術も教えられてはいるものの、土台となる格闘術が未熟と感じているルスカにしてみれば調整が必要な装備を手に入れることはまだ考えられない。

「防具なんかも付けないんですか」

 プリオンはそれでもあきらめずにルスカに食い下がる。

「重くなるし……」

「いやルスカ、見繕ってもらいなー。ルスカの装備もここに来た用事の1つなんだから」

 再び断ろうとするルスカの言葉を遮る形で商談をしていたイネが振り向くこともせずに言う。

「いやでも師匠」

「見繕ってもらいたい装備はいくつかあるけれど、とりあえず肉弾……格闘戦をする前提で防具を見繕ってくれてもいいかな」

「はい!わかりました!」

 ルスカの言葉は遮られ、イネの注文を聞いたプリオンは瞳を輝かせながら請けたまわってしまう。

「あいつは見習いだが……その注文内容なら別に問題ねぇな。プリオン、手を抜くんじゃねぇぞ!」

「わかってます親方!」

 イネとの話にのめり込んでいた親方と呼ばれている男性もイネがこちらに対して話しかけたからか内容に言及、ルスカは完全に断れなくなる。

 それを認識したルスカはため息をし、諦める形でプリオンという少女の練習台になることを受け入れた。

「それじゃあ……軽いけど防具として使えるものとなると脛当て、胸当て、手甲辺りですかね」

 プリオンはルスカの様子を確認せずにあれやこれやと棚から箱を引きずり出してその中からいくつかの溶接後が見える何個かの防具を机に並べた。

「……いやこれだと多分、つけられない」

 プリオンが取り出したものは小さかったり大きかったりと、どれもがルスカの体にフィットしなさそうなものしかなく、試しに自信の腕に当てながらルスカは首を傾げる。

「基本は採寸してなんですけれど、私、見習いなので……」

「客相手にそれはちげぇだろ、お前が持ってきていた材料使ってもいいからきっちり仕上げろ。客を相手にするってのならそういう柔軟さも学びやがれ」

「でも親方、これは……」

「あぁ今は必要なくなった。今から設計し直しだからな」

「えぇ!?今からですか!」

「俺のは別に注文された物でもないからな、納期があるわけじゃねぇ。だがプリオン、そっちは仕立て依頼だから納期がある、そういうことだ」

 親方がプリオンにしっかりと教育している様子を眺めながらルスカは。

「えっと、別に急いではないので……」

「納期で切らねぇと延々こだわり出すんだよこいつは。それに馴染ませる期間ってのを考えた納期になる」

「馴染ませる?」

 ルスカが疑問の言葉を口に出したところに今度は親方ではなくイネが説明を始める。

「道具ってのはすぐに誰でも完璧に使いこなせるわけじゃないからね、特に防具っていうのは受け流す技術になるから結構細かい技術になるからね。その訓練をこの街でやるにしても長期間滞在しないから」

「そういうこった。納期を伸ばせ無くせってのはこの人らに滞在費をそれだけ使わせることになる。宿として工房を貸し出しちゃいねぇから……テメェの部屋で2人を寝かせるんなら納得してもらえるかもしれねぇがな」

「それはちょっと……片付いてないですから場所がないですし」

 なんだかとんとん拍子に話が進んでいるが、見繕われる本人であるルスカは会話に入ることが出来ず、どんなことになるのか途方に暮れながら状況に流され……。

「わかりました、寸法、測りましょう!」

 この後ルスカは無抵抗なままプリオンに身体全体の寸法を測られた。

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