第24話 鉄の街
最初は慣れなかった野営野宿もイネに指導されているうちにある程度こなせるようになったルスカであったが、目の前の光景に対して選ぶ言葉を持っていない。
森を抜ける辺りから森の中で発生する朝霧とは違った霧が周囲を覆い始めた。
そこまではいいがその霧は生暖かくルスカが村で経験してきたどの霧よりも肌にまとわりつく不快感のあるものだった。
「師匠、この霧変じゃないですか?」
「どこが変だと思う?」
「なんか自然じゃないというか、霧なのに少し熱いというか」
「まぁ自然じゃないだろうからね」
自然ではないというイネの言葉に質問をしようとしたところでソレが目の前に現れた。
防壁としても異質で全てが鉄で作られていて、所々に小さな穴が開いている。
「そこの2人、どこから来た」
霧が少し薄まってきた辺りで呼び止められる。
「森の村の方から、この子は村出身の少年」
イネが声に対して即座に答える。
声の主はどうやら門番だったようでイネが対応してくれているのでルスカは邪魔をしないように成り行きを見守りつつ周囲の観察を続けるが、どうにも素材が鉄で出来ている壁以外には想像の外すぎてルスカは開いた口が塞がらない状態になっていた。
完全に田舎から出てきたばかりで背の高い建物を見るのが初めてといった行動をとっているルスカを余所に雑談にも思える内容をイネと門番はしており、既に代金の話になっている。
「なら通行料は銀貨3枚と銅貨4枚だな」
「1人1と7?」
「ギルド登録済みは銀1、これは傭兵商人どっちもだな」
「了解。やっぱここで登録させるべきだって情報ありがと」
そう言いながらイネは財布から硬貨を取り出す。
ルスカの手持ちの金はそんな金額すら払えない状態なのでイネに支払ってもらうしかなく、申し訳なさで下を向く。
「崩すのはやってないが……」
「じゃあ旅行客なりに教える感じの街の地図か案内をしてくれればいいよ」
「銅貨6枚だと安いな」
「じゃあこれも追加で」
「商人連中が売ってる地図だ。銅貨8枚で売ってる奴だけどな」
「別にいいよ、門番と仲良くしておいて損はないし」
「悪いことは考えないでくれよ」
「この街の法に関してはまぁ、滞在中に覚えるよ」
「良い滞在を」
結局ルスカは一言も発することなく門番とのやり取りを終えてしまった。
門番が小さいレバーを操作すると巨大な鉄扉が大きな音をたてて開き明るい通路が目の前に現れる。
通路に入るとルスカは違和感を覚え、先ほどの門番とのやり取りを含めてイネに質問を投げかける。
「師匠、えっと……俺の分の料金……」
「連れていくって決めた時点でそれもイネちゃんの役割だよ。そもそもルスカは今手持ちがないでしょうに」
「それは……はい。ただ師匠、この通路ってなんでこんな明るいんです?」
「灯りがあるからね、多分電灯だとは思うけど」
「電灯?油とかじゃないんですか」
「街の外の霧があったでしょ。アレは多分蒸気……水を沸騰させたときの蒸気ね、アレで特定の構造を動かすことで発生させているエネルギーを使った灯りだね」
「へぇ……」
ルスカはイネの説明を受けても解らなかったが、現実として目の前に灯りとして存在しているので深く考えることなく受け入れる。
「詳しく知りたいなら職人なりに聞けばいいよ。旅をするなら情報収集が出来ないと困ることにしかならないから出来るようになった方がいいしね」
「さっきみたいなやり取りもですか」
「んー……相手次第では面倒になるからアレは相手を見て判断できるだけの経験をしてからかな」
「なんだか大変そうな印象しかないんですが」
「まぁ人同士のソレの方が野獣相手の狩りより面倒なのは事実だよ」
人とのやり取りは収穫祭の時にもわからされた……ということは口に出せなかったルスカだった。
「それはともあれ、ようやく街だ」
タイミングを合わせたかのようにイネの言葉が終わると同時に通路を抜け、壁の内側へと抜ける。
ルスカの目の前に広がる光景は村にいた時からは想像すら出来なかった鉄と蒸気に溢れている人の往来が多い光景。
建物もその構造の殆どが鉄で出来ているし、血管のように建物同士を管が繋がっており時折その管から蒸気と思われるものも噴き出していて……ルスカはその光景に圧倒されつつもイネの半歩後ろについて行った。
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