第21話 野生との初実戦

 ルスカがイネから狩りについての知識を聞いてから2日後、その時は唐突に訪れた。

「いやぁ事前に聞いてた情報で丁度村と街の中間点くらいってのはよくあることとは言えねぇ」

 イネが歩きながら急にそんなことを言い出したとほぼ同時に、森の茂みが大きく音を上げ始めたのだ。

「師匠、よくあることって……」

「この気配はちゃんと覚えておきな。今感じられないならすぐに覚えること」

「だから何を」

 覚えろって言うんです。の言葉は続けることが出来なかった。

 茂みから飛び出してきたのは狼で、ルスカに向かって飛び出してきたがイネが左手を突き出す形でその咬みつきを籠手で受けていた。

「こういうこと。とりあえず下からの飛び掛かりだったから簡単な対処で良かったよ、本当」

 イネは表情1つ変えずにその狼を身体を落とす形で地面に叩きつけ、全体重を乗せて頭を潰した。

「まだ来る、イネちゃんが倒れこんだと思った他の連中が一斉に来るから自分で対処できるものはすること、いいね」

 イネの言葉通り次の狼はすぐに飛び出してきた。

 1匹はイネへの追撃という形なのか地面スレスレで飛び掛かり、ルスカに対しては2匹、1匹は首元でもう1匹は左腕に向かってくる。

 ルスカは考えるよりも先に身体を左に捻り回転する動きで2匹の狼に対して鼻先ながら防御しながらの攻撃行動をとることが出来たが、バランスを大きく崩して尻もちをついてしまった。

「無意識の防御が出来たのは加点、バランスを崩したのは減点」

 その間にもイネはルスカの事を採点しながら、地面に叩きつけた狼の死骸を盾にした上でその死体を噛ませ、狼の勢いを利用して飛び掛かってきた狼の地面に叩きつけつつ立ち上がる動作で狼の腹を踏み抜いている。

 同じ四つ足で更に強大凶悪な魔獣を相手に勝利しているイネが狼に負けるとは一切思うことはなかったルスカであったが、その攻撃を防具で受けながら全て攻撃運動に転換しているイネに対して少し恐怖心のようなものを覚える。

「イネちゃんの処理はまだマネできないと思うからこっちばかり見ない。ルスカ側の2匹はまだ息しているし戦意も消えてないから目を離すと致命傷をもらうことになるよ」

 その言葉にはっとしたルスカは自分を狙っていた狼に視線を戻す。

 幸い攻撃の当たった鼻先は急所だったこともあり狼の動きが少し鈍ったこともありまだルスカに対して姿勢を整えている状態だったのを確認し、立つまでは難しくともせめて膝立ち程度の防御姿勢を慌てて整えた。

「野生動物相手の場合、相手が諦めるまで消耗戦をするか即座に相手を仕留めるかの2択になる。状況次第で武器も使うこと」

 イネの方向に視線を移動できないルスカではあったが、金属音と刺突音が聞こえて来た辺りナイフか剣を使っているだろうことは理解できた。

 ルスカも自警団詰所にあった武器は一通り自警団の通常訓練とイネの修行の際に使い方を叩き込まれてはいるものの、その取扱いの自己評価はかなり低い。

(俺がロイよりもうまく使えたのは槍だったんだよな……)

 槍に関しては集団戦と個人戦どちらもロイよりも上達したがこの場で活用できるナイフや棍棒と言った武器はいつもロイのフェイントに引っかかる形で一本取られていたことを思い出し、ルスカは一瞬躊躇ってしまう。

 そして狩りを主体とする野生動物である狼がその隙を見逃すはずもなく、今度はルスカの足を目掛けて走り始めた。

(2匹とも足!?)

 瞬間ルスカは防御を下部に集中させてしまう。

「あ、馬鹿!」

 イネの言葉と同時に狼の1匹は飛び上がり、防御を解いてしまった首元へとその牙を届かせようと飛び掛かる動きに変化させる。

 こうなるとルスカの防御は首元を守ろうとする意識と足を守ろうとする無意識で中途半端になってしまい……。

「無意識に頼りすぎない、村の練習でもフェイントをもらっていた理由でしょうに!」

 先ほどの落ち着いた口調ではないイネの言葉と同時にルスカの首元に向かって飛んできていた狼の首にナイフが刺さり、足を狙っていた狼はイネの鋼鉄靴に蹴られていた。

「対狼への対処は落第。実戦は経験したから今回の反省点を踏まえつつ解体しながら座学をしてもらいます」

 少し怒気の入った言葉でイネはそう言い、倒した狼の首を落とし始めていた。

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