第14話 実戦指導
若い男の実力はその自信を裏付けるだけの能力はあった。
ルスカはイネから教えてもらっているとはいえ技術的なことは身を守ることに特化したものが多く、回避と防御ばかりで攻め手に欠けてしまう。
「護衛をしているのはこの程度の子供しかいないのかな?」
男は余裕の声を聴いたルスカは反発する思いは湧き上がるものの言葉を漏らす余裕もなく攻撃を受け流しつつ致命的な攻撃を回避することしかできず、この目の前の男が村長に危害を加える位置まで進むのを阻止するのに手いっぱいになる。
「思ったより粘れてるね」
顔への突きを受けがしたと同時に出入り口の方から女性の声がこの場を静止させた。
「それでルスカ少年、反撃できそう?」
ルスカはその言葉にすら反応する余裕がなく、肩で息をする状態が返事になってしまう。
「女が何しに来た!」
「その質問への答えはちょっと待ってね。それで村長、対人警護の依頼も追加ってことでOK?」
「おい!俺を」
「構わんよ、報酬もちゃんと後で交渉を受け付ける」
「了解、それでいいよ。それでそっちの質問の答えが出来るようになったから答えるけど……」
「今のやり取りを聞かされてわからないと思われているのかな?」
男は自信を崩さずイネへと向き直る。
「自分の考えを何があろうが曲げないタイプなんでしょう?」
イネはそう答えつつも目線の動きで男の状態を確認しており、周囲の状況も敢えて大きな動きで確認し、その動きで挑発している。
「ルスカ少年、自分が生き残ることに関してはちゃんと学べていたから今から実技で対人戦での無力化を実戦で見せるからちゃんと見ておくこと」
「そんな余裕はいつまで持つか!」
イネの言葉に反応する形で男が剣を直線最短で突き刺す動きで突進を始める。
「まず長剣を持った相手ならその刃のリーチを把握しておくこと、できなかった場合は相手の重心移動を注意すること」
イネはまるで授業を行う教師の様な口調で続けながら半身下がる形で簡単に回避し、男の剣の持ち手を下から掴み左足で男の軸足移動を妨害させ体勢を崩させる。
「あ、そのまま握ってると死ぬ危険があるけど……まぁあんたは別にいいか。相手の体勢を崩しさえすれば後はそのまま地面に寝かせるのも、こうやって投げてもいい」
言葉通り男を、まるで重さを感じさせないように空中で回転させて投げ飛ばす。
男は空中で剣を離したのか、剣は先ほどの男の勢いとイネの投げる動作が合わさり男が進んでいた方角へと飛んでいき地面に転がり、ほぼ同時に男が地面にあおむけの形で倒れていた。
「不思議でしょう?体格的にはイネちゃんがこんな投げ方出来るわけがないって思っちゃうでしょう?さぁ、次はどうする?」
イネの言葉は投げ飛ばされた男だけでなく、それを見ていたルスカや他の傭兵たちにも衝撃を与えるものだった。
身長が140cm程度しかないイネが180近い男を動作の説明だけでなく今から投げる相手の生命も気遣いながらというついで感覚で投げ飛ばして見せたのだから、今までの常識というものが否定されたようなものである。
「クソ!」
余裕を見せるイネに向かって男は起き上がりの勢いに任せてタックルを行う。
「全身での単純なタックルは確かに小手先技術だけだと対応は難しい、判断としては正しいと思うよ。ルスカ少年、こういった場合はこうするといい」
イネはそう言って男の顔面に素早く拳を叩きつける。
「ジャブって言う技術だけどね、これだけで止まらないのなら顎に膝を入れるのもよし、イネちゃんのように体が小さくて体格重量負けするだろうという場合は……」
イネは言葉を続けながらしゃがむ形で体を小さく丸まり男の方へと少しスライド移動をして見せる。
男は急にイネが目の前から消えるように見える速度だったため慌てて止まろうとしたが、小さく丸まり男の足に引っかかる形で動いたことによって重心を確保することが出来ずにタックルの勢いのまま転ぶ。
「とまぁこんな感じにカウンターを決めることも出来る」
ルスカ相手にあれほど傲慢と言える程の自信を見せていた男は、イネと対峙した途端に完全に手玉に取られてそのプライドが気づ付けられたために顔を真っ赤にさせながら。
「このぉ……」
「地の底から響くようなうめき声を出したところで状況は変わらないのは実力で教えたはずだけど?あなたがどんな肩書きを持って居ようが今、この場において暴力を選んだのはあなたの方で、暴力での決着を望んだ以上そこに政治を持ち込むのはあなたのプライド的に他人の力や権威が無ければイネちゃんには絶対勝てないと認めたことになるから出来ないと思っているんだけど、違ったかな?」
立ち上がりながらイネは言うものの男は立ち上がらずにうずくまったまま動かない。
しかしルスカは男が笑っていることに気づき。
「師匠!」
ルスカの叫びが響くと同時にイネに向かってボウガンの矢が放たれた。
「まぁわかってたよ……そしてあなたは次にこういうだろうね」
「「人を使うのも実力の内、勝った方が正しい」のだ!」
イネと男の声が同時に発せられるのとイネが左手の籠手でボウガンの矢を弾いたのは同じタイミングだった。
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