第13話 騒動

「それで、どういう騒ぎなのか聞かせてくれんかね」

 騒動が起きている場所に入ると同時に村長がいつもより大きな声で尋ねる。

 状況確認を兼ねてという点はあるが、この言葉の本質はこの場の誰が原因であり、誰と対峙しているのかを把握させるための言ってみれば時短となる質問である。

 村長が現れたことで争っていた男たちは一斉に村長をにらみ、それぞれがどのような感情を持っているのかわからないような表情を見せながらもそのうちの1人は無表情のまま口を開いた。

「あなたが村長か」

「そうだが、だとしたらどうと言うのかな若いの」

 村長が若いと言ったように、言葉を発した男は少年の面影が残るような容姿をした青年で、身にまとっている衣服は上等な物で素人目でも絹のような肌触りを優先する素材で作られているのがわかる程のもので装飾も多く動くのには向いているようにはルスカは思えなかった。

「今年の収穫は全て我々に供出していただく」

「それは随分な要求じゃな。で、若いの……お主ら以外の全ての人間に飢えろと言うわけかの」

「配給はする」

「成程のぉ……で、どうやって配給するつもりだ若いの」

「我々が魔獣を排除した地域から随時配給する!」

 男はかなりはっきりと、断言した。

「で、それはいつになる」

 長老は声量はそのまま、だが明確に威圧を含んだものになる。

 その変化にルスカとロイ……それだけでなく村長と話をしている若い男も一瞬だが動きを止めるだけのものをこの場にいる人間に感じさせるには十分だった。

「すぐに答えられんか、そうじゃろうな。出来ているのであれば既に実行して居るはずで、現実はそうなっておらんのが答えなのじゃから」

「こ、断ると言うのか!」

 村長の言葉に対し男は言葉を詰まらせながらもまだ同じ内容の最後通告にも取れる言い回しで続ける。

「そうじゃな、お主の言っていることは支配、服従の通告でしかなく取引にすらなっておらん。この村が過去お主のような者たちによって戦乱に巻き込まれ続けた歴史もしらん奴に分ける食料は一粒たりとも存在せぬよ」

「時代が違っているにも関わらずか!」

「違っていようが人……いや生き物が生き物である以上食事という1点においては差はなかろう。それを捻じ曲げようと叫ぶ者はわしらからすれば魔獣と変わらんよ、奪う存在という一点において同じじゃろう?」

 村長がそう言った直後にロイに対しこちらに聞こえる程度の声量で。

「イネさんを呼んできてくれんか、この後暴れる可能性が高いからな」

「……俺たちじゃ無理ッスか」

「難しかろうな、言葉にする程度の自信を生む実力はあると考えて良いからな」

「ルスカだけで時間稼げるってことでもあります?」

「いや、この場にいるあやつら以外の連中がこちらの味方だからこそだ」

 村長の言葉通り、この騒動を遠巻きに見ている人間はそれぞれ立場が違うにもかかわらず村長と若い男の口論を見て男を睨みつける人数がかなり多くなっている。

「そういうことなら……ルスカ、がんばれよ」

 ロイは場を離れる際にルスカに耳打ちをし、イネを呼ぶために外へと出て行った。

「それは余裕かい?」

「そうとってもらっても構わんよ」

「まぁ……子供を1人外に出すのは言伝だろうね、この村の自警団がどれほどの実力を持つのか試してみるのもいいさ」

 村の自警団は難しいものの魔獣相手に拮抗する形での戦闘は出来る実力はあるのだが、対魔獣を想定している商隊と護衛を前にして自分たちが全魔獣を駆除すると言い放つだけの過剰とも言える自信を持つだけの能力は小さく見積もっても魔獣相手に戦果を挙げることが可能な戦力を用意していることは間違いない。

「自信を裏付けるものがあるのはわかるが、相手がどういう体勢になっているのか等も考えに含めるべきじゃぞ。それとお主の言葉を実行しようとして敵対するであろう相手の数、大きさもな」

 そういう村長も師匠頼りじゃないかとルスカは思う者の口には出さず、相手の一挙手一投足を注視していつでも動けるようにする。

 しかしながら動けるように準備はするものの、ルスカには目の前の男相手にどれだけ戦えるのかの実力差を測りかねて脂汗を額ににじませる。

 戦えば体は動くし、この男から村長を守るという限定条件のみを満たすのであれば問題はないとは思うものの、この男の自信は明らかに本人以外のところにも置かれたものであるのは今のルスカだとしても推し量ることが出来からだ。

 村長もルスカの汗には気づいているようではあるが、村長は眉1つ動かさずに男を見つめていて、周囲の傭兵たちも男とその子飼いがいつ動き出してもいいように準備してくれてはいるが村の問題だと日和見を決めている商隊も当然ながら存在しているものの実際に動いてくれるかはわからない。

 イネと決闘をした傭兵は性格や村との関係性から協力してくれそうではあるが、決闘での負傷でどれほどの影響が出ているのかは、今のルスカの実力では推し量れないため戦力として考えていいものなのかルスカは悩む。

 この場に居ないということが答えであるのだろうが……そんなことをルスカが悩んでいることを知ってか知らずか村長が会話を続ける。

「それで、明確に断られた場合のことは考えておらんかったのか、若造」

「余裕を見せていられるのも短いぞご老人」

 場が一触即発の空気に支配され、何人かは自分の得物に手をかけるものも出ている。

「この場で始めるつもりか?」

「そのように誘導していたように思えるが」

「まぁ……構わんよ、祭りを暴力で台無しにするようなものとは金輪際取引はしないだけじゃしな。今の段階ならまだ冗談で済ませられる上、先ほどの騒ぎも祭りにつきものの喧嘩程度で済ませられたのじゃが……意図を理解するにはお主は若すぎたか」

「ふん、全員構えろ!」

 屋内に居た10人くらいの人間がショートソードを抜き、ついに衝突が始まっしまう。

 しかし合図に遅れた形ではあるが武器を抜いた人間の側にいた傭兵たちが反応して数人取り押さえることに成功しており、村長を直接狙おうとしている相手は話をしていた若い男だけのようだったためルスカは心の中で少し安堵し、村長を守れるように前に出た。

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