第12話 トラブル
ルスカとロイを簡単にあしらって見せた傭兵が肩に負傷をした状態で戻ってくると大笑いしながら2人に向けて。
「いやぁ、テメェらの言う通りありゃ化け物だったわ」
それだけ伝えて自警団詰め所で治療を受けている。
半人前にすら届いていないルスカではあるが、あの傭兵の強さに関して言えば自警団に所属している人間の中ではデグと同等かそれ以上であると間違いないと断言できる程度には力量の差を認識できる程度にはイネにいろいろと叩き込まれたのでより驚きが強くなっている。
無論イネの方が強いとはルスカとロイの2人は思っていたものの、傭兵がすがすがしく笑う程にイキるのをやめて深手に定義できる負傷を受けて戻ってきたことで尚の事イネの実力と言うものが対魔獣特化ではないと認識させられる出来事となった。
「なぁ、イネってどんくらいの化け物だと思うよ」
自警団詰め所で井戸水を入れただけの氷嚢を腹部に当てながらロイが何気無しに口に出した。
「師匠がどれくらいって……」
ルスカはイネが魔獣複数を相手に余裕を持って立ち回っていた現場に居合わせていた1人なので言葉に表すとどうしても化け物、怪物と言った単語を使わずにはいられないものになってしまうため悩んでしまう。
「あーうん、お前は魔獣退治の現場に居たんだったな。正直言えばまだ半信半疑ってところだけどそれが出来るのであればあの強さってのも納得せざるを得ないから特に説明とかしなくていいぞ」
ルスカが口を開くまでもなくロイがまくしたてる。
ロイの中では既に答えが決まっている本当にただの雑談だったようでそこで会話が途切れるものの、ルスカは改めてイネのことを考える。
この村にとっては最寄りである深緑の町の商人ギルドの見知った人間と一緒に村に訪れていたためそちら側の関係者であるとは思うものの、単独で魔獣をあしらうどころか撃退、撃破が可能な存在は村という狭い世界に住んでいて風の噂で聞いた程度の知識ではあるルスカではあるものの、世界に数名、両手の指に収まる程度しか存在していないと耳にしたことがある。
現時点でその1人がイネであると考える方が自然ではあるが、人類で最も強いと言われる10人以内の1人がこの村に訪れるという状況がルスカにとっては不自然に感じられるのだ。
それほどの実力者がどこかの国や貴族に雇われていないのはよほどの事情が無ければ不自然と、田舎の農村出身の少年でも思える程に魔獣による物流の停滞は世界的に深刻な状況となっている。
「まぁ化け物が味方になってると安心できるってもんよ」
「自分の実力じゃないからそれはなんか違くないか……?」
「そりゃそうだがな、絶対的な強者が近くに居る安心感ってのはやっぱあるってことよ」
「それは……わからないでもない」
実際ルスカ本人はごく最近まで自警団や村に訪れていた何人もの旅人に過保護的に守られていた。
だからこそロイの言葉も理解できるし、それだけの状態でもよくないという感情で言葉が濁る。
「あー……ま、だからこそ今頑張って強くなってる途中なんだから気にすんな」
ロイの言葉が終わるとほぼ同時に宿泊所の方から大きな音が自警団詰め所の広場まで聞こえてきた。
「今の……」
「魔獣が出てからどこもきついからな、商人同士が暴れてんだろ」
「去年はこんな音出なかったぞ……」
「備蓄に余裕のある時期と今とじゃ状況が違うだろうからそれだけどこも必死ってことだろうな。食料が常に余裕があるこの村じゃあまり実感できないことだろうが、でかい街や国ほど食料問題ってのは深刻らしいしな」
「でも、だからこそ取り合ったところでだろ。行こう、俺たちでも商人相手なら手伝えることもあるだろ」
「ま、あぁいうのを止めるのも自警団の仕事だろうしな」
2人は意見を固めてから宿泊所に向かい始める。
商人同士の諍いであるのなら学の無い自分たちが出来ることは被害を拡大させないための壁役くらいしかないだろうことは理解していても、その役割自体は必要なことも解っているため2人の前に出す足は力強く大地を踏みしめる。
しかし……宿泊所の鎧窓を突き破っている人間の姿を目撃して軽く考えられるような現場ではないことをすぐに察することになった。
「世界から魔獣を駆除するために軍を起こすため我々には食料が必要だと言っている!」
「世界のためにテメェら以外は全員餓死しろってことだろうが!」
中に入るまでもなくはっきりと叫んでいる声が聞こえる程に屋内で衝突が発生している状況、実質新人であるルスカとロイはそこで二の足を踏んでしまう。
突入するにしても自分たちが静められるような現場なのか図りかねることもあるが静められた後、確実に発生することになる仲裁の会話は自分たちの権限では何1つ提案することもできないし、断ることもできない。
「現状はわかるかい?」
踏み込めずにいた2人に村長が声をかけた。
「村長、どうにも商隊の1つが独占しようとしているらしくって……」
「成程、やはり起きたか。とりあえず2人とも護衛してくれんか、誰も付けていないとそれだけで見下してくるような手合いだろうからな」
そういう村長の表情を見てルスカだけでなくロイも頼もしい気持ちになる程の威厳を見せており、2人は村長の後ろに付いて宿泊所へと入ることになった。
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