2014年8月15日
中学受験向けの塾で講師のアルバイトを始めたのでニートからフリーターになったが、相変わらず自分が進むべき方向が定まらず、特に何を努力するわけでもなかった。大学の二回生で留年し人生のレールから片方の車輪が外れかけ、大学の四回生で留年しもう片方の車輪が外れかけ、無職で大学を卒業することで俺という列車は完全に脱線してしまった。それからどこかに歩き出すこともなく、脱線した場所に親を呼びつけ雨風をしのげる小屋を立ててもらいお小遣いをもらい飯を食わせてもらい、毎日深夜にオナニーをした。
俺はもう親の顔を直視できなかった。中高一貫の私立の学費も、浪人した時に通った予備校の学費も、六年間通った大学の学費も、その全てをドブに捨ててしまった。親の金をいくら無駄にしても良心の呵責に苛まれない人間がいることは知っている。だが、それは裕福な上流階級の家に生まれた者の特権的性質であり才能なので、俺が脳内でいくら理屈をこね回して考え方や心の持ちようの転換を図ったところで、骨の髄まで染み付いている「親の金を無駄に使うのはいけないことだ」という中流家庭根性が拭い去れるはずもない。親に対する罪悪感により気力を失う、気力を失うことによって何も行動せずオナニーだけする、何も行動せずオナニーだけすることによって罪悪感が強まり自信を喪失していく。大学時代に積み重ねすぎた屈辱と敗北、衝突や侮辱を恐れて繰り返された逃避、女性に男として認められなかった劣等感、女体を味わえなかった欲求不満、無職、童貞…。理由や原因を探せばいくらでも見つかる。ただ一つ確かなことは、俺は生きようという意志を失いつつあったということだ。
2014年8月15日。眠れないまま朝が来た。親が起きてくる。顔を合わせたくない。どこにも行きたくないけれどどこかに行かなくてはならない。電車は俺の体を卒業したはずの大学の最寄り駅に運んでいった。
日吉キャンパス。図書館に吸い込まれる。何のために読むのかわからないまま本が開いている。
おもしろくない。
読みたくない。
でもじゃあ何をすべきなんだろう。
すべきことがあっても体が動かないのはなぜなんだろう。
俺は何をしているんだろう。
俺はこれから何をするんだろう。
俺の人生はこれからどうなるんだろう。
俺は何のために生まれてきたんだろう。
俺は
俺は
おれは
オレハ
oreha
え?
え?
うそ?
うそだろ?
なんだよこれ?
俺の心は大学時代からいつも不安に苛まれていたと言っていいが、普段味わっているのとは比較にならない異常なまでの不安感が突如として腹のあたりから全身に浸透していく。この凄まじい不安感により俺は混乱状態に陥り、とにかく家に戻らなければならないと思い図書館を後にした。
東横線に乗り込む。が、わずか数十秒で乗っていられなくなり、日吉から一駅の武蔵小杉ですぐに電車から飛び出し、駅のホームに倒れ込んだ。眼の前がぼやけて暗くなっている。ガキの頃のおばあちゃんとの思い出が高速で脳裏をよぎる。これは走馬灯なのだろうか。
周りに人はいないようだ。自動販売機まで這いずり、立ち上がり、水を買う。ベンチに座って水を飲む。ぼやけと混乱は多少おさまったが、先程の黒い塊がまだ全身を支配している。何らかの精神的な病が発現したのだと確信した。そしてこの病が一朝一夕では治らないということもなんとなくわかったし、これから先、精神的に踏ん張ってなければ気が狂ってしまいそうなこの不安を抱えながら過ごさなければならないことに絶望した。
正気を失いそうになるのをどうにか抑えつつ、俺は自宅、ではなくなぜか渋谷のソープランドに目的地を定め、もう一度電車に乗り込んだ。
タイトル未定 @mbdf014
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