2022年5月

 マッチングアプリで出会ったノブコとは順調にアポを重ねていった。ノブコは毎回初めて出会った時と同じ服を着、同じリュックを背負って俺に会いに来た。彼女は顔のデザインが死ぬほど悪いわけではない。ただ圧倒的な経験の無さ・自信のなさ・女を磨く努力の拒絶・絶望的にダサいファッションが彼女を怪物的非モテたらしめているのだ。にもかかわらず、俺は三回目のアポで彼女にキスをする勇気が持てなかった。俺もまた超弩級の非モテなのだということを改めて思い知らされた。

 ノブコとホテルに行ったのは五回目のアポの時だった。東京タワーに臨む芝公園のベンチで告白し、キスをした。事前に調べておいた赤坂のラブホテルにタクシーで向かった。俺にはこの時まだ一縷の望みがあった。彼女はダサくてブスで非モテだが身体は綺麗かもしれない、俺を欲情させるに足る肉体を持っているかもしれない、と。

 ベッドで彼女が身体に巻き付けている布切れを剥ぎ取った瞬間、俺の希望は無慈悲にも断ち切られた。男の胸筋と区別がつかないほど形のはっきりしない両乳房から飛び出している乳首。不自然なほどに勃起したそれはしわくちゃの干し梅のように瑞々しさのかけらもない。右乳房の乳輪には処理されていない産毛が湛えられ、サザエさんの波平を髣髴とさせる一際太く長くたくましい一本の乳毛が生えている。着痩せするタイプだったのだろうか、貧相な胸周りとは対照的に下腹部は醜く膨らんでおり、その体型は賽の河原を彷徨う餓鬼を思わせた。上半身だけで既に俺の性欲は冷めきってしまっていたが、とにかく誰でもいいから金銭のやりとりなしに膣にペニスを挿入する経験をする必要がある。

 俺はなけなしの気力を振り絞ってノブコのジーパンを降ろしていった。どこで買ったのか不思議になるほど色気を感じさせない薄苔色のパンティーの上部からヘソの下にかけて、濃い体毛が廃屋の庭の雑草のように蔓延っている。俺の腹を擦り合わせれば出血は免れないであろうほどの剛毛ぶりである。パンティーを脱がすと案の定密林で、自分からも男からも33年間放ったらかしにされている陰毛がアソコを完全に覆い隠している。ザリザリとした陰毛を掻き分けていくと秘部があらわに、ならない。脂肪によって大陰唇が膨張しており、内部は固く閉じられている。所謂モリマンである。顔を近づけ両のヒダを開くと、ネバネバとした体液が糸を引いており、そこから漂ってくる悪臭は腐った魚を腟内に入れているとしか思えないほど強烈なものだった。ノブコとノブコの肉体への興味を完全に失った俺は、何か彼女を傷つけないような言葉をかけ、今日はもう寝ようと言った。



 ベッドに仰向けになり、暗い天井を見つめる。

『そのままのあなたでいいよ』

 親族友人知り合いの女性から幾度となくかけられた慰めの言葉が脳内に反響している。今日、そのままの俺が手に入れられるのは、股から腐臭を放つ不快な生き物なのだということをやっと理解した。穏やかな顔で夢に沈んでいくその生き物の横で、俺は静かに、孤独と絶望の淵に沈んでいった。

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