2022年4月
失われた青春を取り戻すために必要もの。往来のカップルとすれ違うときに発狂しそうになる心を鎮めるために必要なもの。それは、美女とのセックスしかないと見極めた。そして、彼女いない歴=年齢の三十路男にとって、それが途轍もなく険しい道になることも併せて見定めた。
ペアーズでアポを取り付け、女性とのコミュニケーションを学ぶ日々。初めて会った女性マイは綺麗だったので、緊張して挨拶もろくにできなかった。マイはチラチラと時計を見ていかにも帰りたそうにしていた。女性は興味のない男を前にすると忙しくなるというのは本当らしい。
ブスから攻略すべき、ということに気がつくのに時間はかからなかった。ブスというスライムを倒してレベルを上げなれければ、美女というボスを倒すことはできない。自分がヤりたい女ではなく、俺のような陰キャ非モテにイイねをしそうなブスとデブに手当たり次第いいねをした。
いいねを返してきた33歳図書館非正規職員のノブコは俺が今まで知り合った女の中で最もブサイクで、同年代恋愛市場最低ランクに位置する女である。初めて上野で会ったとき恋愛経験のない俺にさえそのことを感じ取らせるほど、彼女の非モテぶりは極まっていた。去年亡くなった99歳の大叔母が着ていたようなねずみ色のくたびれたカーディガン。5歳の幼女が着ればかわいく見えるであろう襟に花柄をあしらった白Yシャツ。特筆することないジーパン。何を志向しているか解読不能のヘドロ色の平べったいバレエシューズ。十数年前に親に買ってもらったと思しき四角く角張った濃紺色のリュック。あまりに大きく主張の激しいミッキーの缶バッジ。それらが胴長短足、猫背、白髪交じりの頭髪、鋭利なアゴ、すっぴんの老けた童顔を持つ本体に装着されている。街行く女性が女性的な記号で武装し恋愛という戦場で戦っていることに気がついていない、いや、目を逸らし誤魔化し続けてきた成れの果ての姿がそこにはあった。俺はノブコのこれまでの人生を一瞬にして悟っていた。ノブコは他者との交流も自己との対峙も避け続けてここまで生きてきたのだ。
上野公園のカフェで食事をした後、近くのバーに入った。何気なく隣のノブコの顔を見ると、俺を見る視線が熱を帯び爛々と輝いているのがわかった。生まれて一度も向けられたことのない視線であった。眼の前の人間をオトコと認識し、オンナになった目であることを直感した。童貞はちょっとかわいい女に優しくされるとすぐに惚れてしまうが、処女も同じなのだということがわかった。
ヤれる。
経験値になる。
俺は、1ミリも性欲を喚起しないこの生物学上のメスにペニスを挿入することから俺の恋愛キャリアをスタートさせようと心に決めた。
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