第13話 正体

試合開始15分前になった。


若本はベンチに座って、タブレットを弄って、オーダーを設定していた。

梨田は一条とキャッチボールをしていた。


1番俺、2番ゆうさん、3番一条さんで行くことにした。


俺が球数稼いで塁に出て、ゆうさんが繋いで、一条さんのタイムリーかホームランで得点を取る。


理想はこのパターンだ。


あのテレビで特集組まれた後、成績だけでなく、一条選手のバッティング動画集も観た。


テレビで特集組まれた時と同様、俺と比較するのは失礼なレベルで打球を飛ばしていた。


ドラフト上位候補の選手として恥じないバッティングをしていた。


試合前に一条さんのスイングを観たが、

凄かった。スイングスピードの速さ、スイングの鋭さ、慶邦の4番に恥じないスイングだった。


若本は一条の凄さに感激しながら、オーダーを設定し、転送した。


試合参加登録され、後攻だと判明した。


「よっしゃ! また後攻だ!! サヨナラ決めるぞ!!」


若本は後攻であった嬉しさのあまり、心の中で小さくガッツポーズしていた。


そして、オーダーを設定し、転送したことで、相手チームのオーダーと、相手チームの選手の情報が解禁された。

オーダーまだ決まってないらしい。空欄だ。


しかし、相手チームの選手の情報は入手できた。どんなチームが相手だ……若本はタブレットに表示されてる内容を熟読する。


そして、若本は、とある選手を見て、


「ウッソだろ。これ……」

と絶句した後、


「神野……この組み合わせ、

わざとだろ……」


と若本は頭を抱える。


いやいや、キャプテンが不安になってどうする。


相手選手の情報は入手できた。


早くプロテクターを付けて、梨田さんと投球練習だ。


若本はそう思い、プロテクターを付け、

梨田と投球練習を行うことにした。


今日のゆうさんの投球は安定している。


この投球が本番でもできれば、絶対に勝てる。若本はキャッチングしながら、確信し、頷いていた。


すると、投球練習中に、

相手チームのメンバーの一人が若本の元にやってきた。


「どうも、内山なんだけど……キャプテンの若本くん、だよね?」


相手チームの外山って人のようだ。




外山……ポジションは投手だ。中応大学1年生。身長190cmから繰り出されるストレートは落差とキレがある。高校は神奈川の川崎日大出身。強豪だ。春に甲子園に出場。ベスト8まで進んだ。


若本は、梨田に向かって投球のストップをかけ、立ち上がる。


「あ、俺ですけど……どうしたんですか?」

若本は怪訝そうな顔して言う。


「ちょっと今話せる?」

と外山に提案されたが、


「申し訳ないんですけど、今ちょっと忙しいんで、話すのは無理ですね」

と若本は断り、投球練習を再開させようとした。


「東都大専用機の一条さんについて

どう思う?」


外山は若本に投げかけた。

話すのは無理って言っただろ。


「東都大専用機? どういうことですか?」

若本は外山の発言の意図が

わからない「フリ」をした。


「わかりやすく言おうか。東都大専用機ってのは、東都大学戦でしか活躍できない選手のことを言うんだよ」


うん。知ってる。ってか、東都大専用機って、それ、蔑称だろ。


「一条選手って良い選手だと思う?」

外山はニヤニヤしながら言ってくる。


「一条選手は良い選手だと思います。たしかに、昨秋は東都大学戦でしか活躍できませんでしたが、腐っても、慶邦の4番。

そして、今年はキャプテン就任。

プロ注目のスラッガー。

少なくとも、補欠に甘んじている俺よりは

実力のある良い選手ですよ」


若本は一条のことを褒めつつ、自分を蔑んで、擁護した。


「ははは!!謙虚だねぇ!!」

と外山は笑っていた。


「まぁ、さ……

全国中学シニア優勝チームの補欠、

変則左腕だけど、ノーコンの女子大生投手、

東都大専用機。

なんというか……加入してくる選手の運のなさ……」

「まぁ、頑張れ!!」

外山は笑顔で言った。


完全に煽りだな。こういうのは無視無視。


若本は梨田のいるマウンドへと向かっていった。外山は若本がマウンドに行くのを見送った後、ベンチに戻っていった。


あのヤロー、今に見てろよ……


若本はマウンドに向かっている間、

相手チームをコテンパンにしてやるという

闘志に満ち溢れていた。

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