第12話 慶邦大学の4番打者

「おいおい、漫画読んでるときに転送されるのかよ……」

若本は嫌な表情をしながら言う。


「お昼食べてる時の転送は止めてほしいよね……今日は友人とランチの時だったのに……」

梨田も嫌な表情をしているようだった。

「俺はこのプロジェクトを止めてほしいわ……」

「たしかにそれもそうね……」

と若本の発言に梨田は納得していた。


あとは……と若本はチラリと横を見る。


「これは一体……」


と一条大翔が驚いた表情をして2人を見ていた。


一条大翔……そう、現在の慶邦大学の4番打者……テレビでも特集された……


プロ注目の……あの一条大翔だ。


3人目が一条大翔とは……正直、可能性としてはあり得ると思ってた。3番目に転送された選手はファースト守るわけだし、

ファーストが本職の選手が

来るとは思ってた。


まぁ、キャッチャーが本職じゃないのに、

2番目に転送された俺みたいな

ケースがあるけど……


しかし……一条選手が、

俺達のチームに加入か。

不安要素はあるけど、悪くはない。

むしろ良い。

このチームにはいなかった

ホームランバッターが加入してきたんだ。

しかも、プロ注目。現慶法大学の4番。

俺やゆうさんよりも実力のある選手だ。


不安要素は、一条選手の活躍で払拭してくれれば、それでいい。


「あああああ!! 一条選手!?」

梨田はびっくりした様子だった。


「テレビの特集観ました!」

「あぁ、ありがとう」


ゆうさん、あのスポーツ番組観てたのか……


「あ! ごめんなさい急に……私、梨田優佳って言います。大学3年。ゆうちゃんでもゆうかちゃんでも……気軽に下の名前で呼んでいいからね!よろしくね!」


と梨田は笑顔で言った。


「で、そこにいる小柄な男の子が若本拓也くん。中学3年生。キャッチャーよ! ニックネームはワカタクよ!」


「ど、どうも。若本拓也と言います。ワカタクでも、若本でも、言いやすい方で呼んでもらって構わないので……よろしくお願いします」

若本は会釈して言った。


「お、おう」

と一条はキョトンとした。


「3番目の加入選手!!!慶邦大学の4番打者だよ! しかもプロ注目の!! 大型補強よ! この試合貰ったわね!」

梨田はウキウキとした表情をしていた。


「あのー……ウキウキのとこ申し訳ないけど……」


「急に光に包まれて、この場所に転送されたんだが……何でか教えてくれないか……」

と一条は転送理由が理解できずに苦笑いしていた。


「ああ!! そうだった!! ごめんごめん!! 今、説明するね!!」


なので、梨田は一条に、なぜ転送されたかの状況説明をすることにした。


若本は梨田が説明してる間、タブレットを見て、自チームの選手情報を把握することにした。


「……ということなの」

と梨田はひと通り説明を終えると、

「マジか……、野球の試合で負けたら死ぬって……」

と一条は、梨田から聞かされる驚愕の事実に

驚きと不安を隠せないでいた。


負けた選手が本当に死んだかどうか確認が取れない以上、本当であるという確信が持てない。


ただ、負けたら死ぬってのが嘘という確信も持てない。確認が取れないだけで、本当に死んでいる可能性もある。


そもそもなぜ負けたら死ぬんだ……負けたら死ぬってのは本当なのか……そして、何より、野球選手を転送させてデスゲームをさせるという、このプロジェクトの目的は何だ?


参加させられてるこのプロジェクト……


わからないことだらけだ。


「そうか……だから転送された時に野球のユニフォームだったのか……」

と一条は自分の格好を見ながら言った。

「一条くんが使ってる野球道具一式。あのロッカーに入ってるから」


「野球道具まで転送されてるのかよ……」

と自分の名前が書かれたロッカーを見ながら言った。


「ああ、そういえば、言い忘れてたってか……ゆうかちゃんはもう知ってるかもしれないけど、改めて」


「俺の名前は一条大翔と言います。慶邦大学4年。2人とも、よろしくね」

と一条は2人にニコリとした表情で自己紹介した。


さすが、ミスター慶邦。ニコリとした表情、イケメンだ。


「うん。よろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

梨田は笑顔で、若本は頷きながら言った。


「そういや、俺からちょっと言いたいことあるんですけど……」

と若本は手を軽く挙げた。


「このチームのキャプテン、俺から一条さんに代えたいと考えてるんですけど……」


「いや、いいよ。ワカタクのままで」

「え!?」


梨田の発言に若本は目を丸くする。


「いや、ゆうさん! 一条さんは慶邦でキャプテン、高校の時もキャプテンしてたって、テレビで特集されてたじゃないですか!!

どう考えても、俺より適任でしょ!!」

若本は、梨田の発言の意味が分からなかった。梨田は若本の反論に対して、口を開く。


「前の試合で……ワカタクに助けられたし……グロい映像を神野に見せつけられて気分悪くなってた時、ワカタク、神野にすごい怒ってくれて……あとは、家庭教師で私がワカタクの家に訪問した時も……私の体調心配してくれて……気配りができて、落ち込んでいる人を奮い立たせてられる……」


「だから、私はワカタクがキャプテンがいい」


「大翔くんは、高校、大学でキャプテンとしてチームをまとめた経験を活かして、キャプテンのワカタクをサポートしてほしい」


梨田は若本と一条にお願いした。


今気づいたけど、ゆうさん、会って間もないのに、もう一条さんのこと、下の名前で呼んでるんですか……


初めてゆうさんに会った時にも思ってたことけど、ゆうさんのフレンドリーっぷりは

ほんとすごい。


陰キャな俺にとっては到底不可能なことだ。


「俺もワカタクがいいと思う」

一条が梨田の考えに同意した。


一条さん、早速、俺のことワカタク呼びかよ……


若本は、一条が、梨田の考えに同意したことよりも、ワカタクと若本のニックネームで

呼んだことに対しての驚きが大きかった。


「ワカタク、このチームのキャプテンになってくれるか?」

と一条が若本にお願いしてきた。


若本は悩んだが、

「わかりました。このチームのキャプテン、

やります」


とキャプテンになる決意をした。


「それじゃあ、決まりね」

そう梨田は言い、一条は大きく頷いた。


正直、驚いた。俺がこのチームのキャプテンになるとは。

慶邦大のキャプテン、大学生でフレンドリーのゆうさんを差し置いて、

俺がキャプテンになるとは……


2人からキャプテンに推薦されたんだ。

頑張らないと。


すると、一条が若本に

「ワカタク、キャプテンだから、チームをまとめなきゃって気負わなくていい。いつも通りでいい。あと、何か不安なことがあったら、俺や優佳ちゃんに言ってくれていいからね」

と助言した。すると、


「大翔くんの言う通りよ。私も困ったことあったら相談に乗るからね」

と梨田も若本に言った。


「わかりました」

若本は小さく頷きながら言った。


不安要素があると思ってた俺が馬鹿らしく感じた。

一条選手、めっちゃ良い選手だ。


キャプテンになった俺に対して、あの発言ができるのは、間違いなく良い選手だ。一条さんの人柄の良さがよくわかる。


そんな選手を俺は、不安要素があるからと言って、チームに加入してほしいと思うのを一瞬、躊躇った。


野球はデータでやるスポーツではない。


若本は、躊躇ったのを恥じた。


そして、キャプテンになったからには、


このチームを、絶対に生きて、帰す。


若本はそう決意していた。


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