第11話 転送はいつも突然
梨田が家庭教師として若本の家に訪問してきた日の夜。午後23時頃のことだ。若本は夕食と風呂を済ませ、若本の部屋にあるテレビで、スポーツ番組を、ベットで寝っ転がりながら観ていた。
そのスポーツ番組において、六大学野球連合春季リーグ、慶邦大学VS東都大学の試合のハイライトがテレビで流れていた。
六大学野球連合とは?
慶邦大学、早稲山大学、中亜大学、法科大学、明応大学、そして国立の東都大学の六つの大学からなる組織のことである。
六大学野球連合に所属する大学は、4月から行われる春季リーグと9月に行われる秋季リーグの2つのリーグ戦に参加し、試合を行い、各季リーグの優勝大学を決める。
その試合では、ドラフト候補である慶邦大学4年生の一条大翔を中心に取り上げられていた。
慶邦大学の一条大翔選手は、右投げ左打ち、ポジションはファースト。勝負強いバッティングと、長打を打てるパワーが備わっている、まさに慶邦大学が誇る大砲選手である。
さらに、一条は、神奈川の横浜第一高校で4番ファースト、キャプテンを務めていた。しかし、一条率いる横浜第一高校は予選で敗れ、甲子園出場とはならなかった。その後、六大学野球連合の強豪、慶邦大学の一般入試を受験し合格。慶邦大学進学を果たす。
大学1年の春からベンチ入りを果たすと、大学2年の春からスタメン出場が増え、大学3年の春には4番に置かれるようになった。さらに、大学4年には、性格の良さとチームメイトからの信頼も厚いことから、慶邦大学のキャプテンに指名された。
また、大学3年には、慶邦大学ミスターコンテストにエントリー(某野球部員からの推薦という名の強制)し、投票の結果、ミスター慶邦に選ばれる。
野球、学力、容姿、人望、性格すべての要素が完璧という、まさに非の打ち所がない選手である。
「一条選手……良い選手だなぁ……長打打てるのは魅力的よね……」
若本はテレビを観て、惚れ惚れしていた。
「そういや、一条選手……昨シーズンの春季秋季リーグでどれくらいの成績を残しているのかな……」
と、ふと、若本は疑問に思い、すぐさまグーグル検索で「一条大翔 成績」で検索をかけてみた。
すぐに検索がかかった。
そして、若本は、一条の六大学連合野球リーグの成績を見た。
「おお、打率3割、OPS8以上……
すげぇ……めっちゃ成績良いじゃん」
「次の追加選手、一条選手がいいな〜。次はファーストの選手が転送されんでしょ!一条選手はファーストのホームランバッターだし、
今んとこホームランバッターのいない、俺のチームにはうってつけの選手よ」
若本は期待を膨らませてながら、成績が貼られているサイトをじっくりと見ていた。
しかし、とある成績が表示されるリンクをクリックすると、
「こ……これは……」
と若本はさっきとは打って変わって暗い表情をしていた。
しかし、若本は
「いやいやいや。打率3割OPS8以上だし、この成績が本当だとしても、俺のチームにはホームランバッターがいないのは事実。
追加選手であってほしいってのは変わらない……」
と自分自身に言い聞かせていた。しかし、
「変わらない……変わらない……だけど……」
と若本は再度、暗い表情をし、
「こ、これはどうなんだ……」
と頭を抱えた。
翌日、学校のお昼休みの最中、若本は学校に持ち込んでいた『To LOVEる』を読んでいた。
「おおお! ワカタクがついに!! 俺が何度も何度も勧めた『To Loveる』を!!!
ついに!!!!!読み始めるとは!!」
「俺は!! 俺は!!
猛烈に嬉しいぞおおお!!」
と歓喜しているのは若本の友人の松島である。ニックネームは「マッツー」。男子ソフトテニス部に所属している。坊主頭。中学女子のワイシャツから見える透けブラで興奮する、中学女子のスク水姿を見て興奮する、
お色気漫画読んで興奮する。そんな男である。
「ついでにダークネスとあやかしトライアングルも読もうな!!」
と松島は若本の肩を叩きながら笑顔で言った。
BLACK CATSはいいんかい……
「ワカタク……読む場所考えようか……」
と苦笑いしながら言ってきたのは、若本の友人の藤崎である。藤崎は1学期の学級委員で、科学部所属で部長。さらに、足はクラスで2番目に速い。
「すまん。藤崎。今読んでるとこ、推しの古手川さん回なんだ。そろそろ読み終わるからちょっと待っててくれないか」
と若本は藤崎にお願いした。
「いやいや……待っててと言われてもなぁ……『To LOVEる』を教室で読むのはなぁ……」
藤崎は周りをチラチラ見て、頭を掻き、困った表情をしながら言った。
実際、教室にいる人達が「To LOVEる」を読んでる若本を見ながら、
「なんで読んでるんだろう……」
「若本くんが『To LOVEる』読むなんて意外……」
「堂々と読んでるの笑えるw」
といった内容をヒソヒソと会話していた。
当たり前である。『To LOVEる』に限らず、お色気漫画を教室で堂々と読むとか、
周りが苦笑いして当たり前である。
お色気漫画は、自分の部屋で読みましょう。
さて、ここで疑問が生じる。
なぜ、クラスメイト達が「To LOVEる」を知っているのか。今時の中学3年生が、10年以上前の作品(ダークネスは4年前)の「To LOVEる」を知る機会は皆無に等しいはず……
今のジャンプで連載してないのに……
なぜ知ってるのか……
それは、松島が、新学期早々の自己紹介で
『To LOVEる』とはどんな作品か
熱弁していたからである。自己紹介そっちのけで熱弁していた。5分ぐらい話していたと思う。
松島の熱弁?の甲斐?もあって、クラスメイト達に『To LOVEる』の存在が知れ渡った。
「大丈夫だ!!! 『To LOVEる』は男子なら誰もが通る義務教育みたいなもんだから!!教室で見てもへーきへーき!!女子もきっとわかってくれるさ!!」
松島が親指を立てながら笑顔で説得した。
「フォローになってんのか…… 」
と藤崎は松島の考えに苦笑いしていた。
「それよりも!! ワカタク!!
お前、唯ちゃん推しかよ!!!
わかるぜ!!黒髪ロングツンデレおっぱい最高よな!!!」
「ちなみに、俺は箱推しな!!」
とら松島は笑顔で言った。
「お前ら、推しの話はいいから、さっさと『To LOVEる』をしまえ!!!」
と藤崎が叱る。
「俺はララちゃんだな。可愛いしなー」
と紅井が推しを言いながらやってくる。
「わかる!!!可愛いし!!!
おっぱいもデカいしな!!!」
と松島は同意する。
「で、藤崎は誰推しなんだよ」
と紅井はニヤニヤしながら藤崎に質問してくる。
「ああ、藤崎は金色の闇と美柑推しな」
と松島がサラッと紅井の質問に言う。
「ば、馬鹿!!!松島、お前!!」
と藤崎は松島に『To LOVEる』の推しをバラされ、焦っているようだった。
「なるほど……つまり、
ロ・リ・コ・ン♡
ってことか!!!」
と紅井は笑顔で言った。
「藤崎くんがロリコン?」
「マジかー。真面目そうだったのにね……」
と周りからヒソヒソ声が聞こえてくる。
「ちが、違う!!!誤解だーーーー!!!」
藤崎は頭を抱えて焦った。
「まぁまぁ大丈夫だよ。三次元の幼女を愛すのはアウトだけと、二次元の幼女を愛すのは法律上なんの問題もない!!セーフだから!」
と紅井は笑顔で親指を立てながら言った。
「何笑顔で言ってんだお前ー!!!」
と藤崎は顔を真っ赤にしてツッコミした。
藤崎と紅井が言い争っている最中、何かを思い出したのか、藤崎は言い争いをやめ、
「そういえば、ワカタク、どこ行った?」
と、息を切らして、キョロキョロしながら、紅井と松島に問いかける。
若本の机に『TO LOVEる』がぽつんと置いてあるだけで、当の本人がいないようだった。さっきまで熱心に『To LOVEる』読んでいたような……
「ワカタクはオザリンに呼び出されて、5組の教室行くってよ」
松島がそう答える。
「そ、そうか……」
藤崎は納得したのか、息を切らし、フラフラしながら、松島の机にうつ伏せになり、うなだれた。
「だ、大丈夫か……?藤崎……」
松島と紅井は藤崎のうなだれ様に、心配した様子で見守っていた。
以上、若本のお昼休みの様子でした。
うん。間違いだね。
何が間違いって?
若本は5組の教室に行ったから、教室から姿を消したわけではない。
プロジェクトのため、とある場所へと転送されたのである。
3人は記憶を改ざんされたことで、
若本が『To LOVEる』読みながら転送されたシーンはなかったことにされたのである。
3回戦、スタートである。
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