第10話 疑惑

「ど、どういうこと?死んでいないって……」

梨田は驚きを隠せないでいた。当たり前である。阿部と板野が死んだものだと信じていた梨田にとって、若本の死んでない発言は衝撃的なものだった。


「俺たちが観た映像……あれ、作り物である可能性があるんです……」


「作り物?」

と梨田は若本の言葉に耳を傾ける。


「試合中に相手チーム選手にそっくりのクローンが使われましたよね」


「そういえば、そうだったわね」


「自分がランナーの時に、自分の打順が回ってきた場合、ランナーは自分そっくりクローンに置き換えられるじゃないですか。たしかそうだったはず」


「で、ゆうさんと会話する前と、ファールフライ取ったあと、塁上にいるランナーを見たんですけど……やはりルールの通り、置き換えられたクローンが、阿部さんと板野さんにそっくりだったんですよ」


「で、私はこう考えたんですよ……」

と若本はひと呼吸置いてから、


「選手そっくりのクローンが作れるとしたら、あの映像に映ってた阿部さんと板野さんも、もしからしたら阿部さん板野さんそっくりのクローンだったんじゃないかって……そう思ったんです」


と若本は真剣な表情をして言った。


「つまり、死んだというのはただの作り話ってことなの?」


「俺の考えが合っているのであれば、そうなりますね」


と若本は梨田の疑問に対してそう答えた。


「半分正解だな」


と言い、このプロジェクトの責任者である神野史郎が現れた。しかし、1回戦の時と同じく実物ではない。ホログラムだ。


「か、神野!」

「ホログラムとはいえ、こっちの世界にも現れるのね」

突然の登場に若本と梨田は驚いていた。


「で、半分正解ってどういうことだ?」

若本は神野に質問する。


「そのまんまの意味だ」


「いや、半分正解と言った理由について教えてくれな」

と若本が言い切る前に神野のホログラムは消えていった。


「何しに来たんだよ!! あの白髪頭野郎は!!」


「あと、ゆうさんに金髪クソビッチだと言ったり、グロい映像を強制的に見せつけたり、絶対に許せないからな!! 今すぐ謝れえええええ!!」

と若本は前にやられたことも合わさって、とても怒った。

最初に会った時とは別人のような彼の怒りように、梨田は


「怒りたい気持ちもわかるが落ち着いて!」

と言って、怒っている若本を落ち着かせようとした。


そして、若本を落ち着かせようと必死になっている梨田の表情を見て、若本は

「すみません。つい暴れてしまいました……」

と梨田に謝り、深呼吸した。


「ともあれ、実際に生きてるかどうか調べるには学校に直接問い合わせるぐらいしか方法がないんですけど……」

と若本は実際に考察があっているか不安ながらも言った。


「試しに、阿部と板野の学校に問い合わせてみる?」

「……そうですね……一回電話かけてみます。阿部と板野が学校にいるか教えてくれるかどうかはわかりませんけど……」

と若本は梨田の提案に乗って、青蘭と佐野駒大に問い合わせてみた。


今、午後5時30だからどうかな……電話対応してるかな……

しかし、青蘭と佐野駒大には繋がらなかった。何回もかけたがダメだった。こりゃ、日を改めるしかないか……


明日の朝イチでかけるか……

あとは、直接出向くか? いやいや、青蘭と佐野駒大、自宅からそれなりに距離があるし、俺はシニアでの練習(毎週月曜は休み)と学校で忙しいわけだし……確認のために時間は割けないなぁ……ていうか、生存確認よりもやることは山ほどあるし……

若本はそう考えていた。


「とにかく、そのことも頭に入れておいてほしいです……ただ、これはあくまで俺の考察であり、負けたら死ぬってのが本当の可能性もあるので、全力で戦って勝っていきましょう!」

と若本の言葉に梨田は頷いた。


「じゃあ、お話はここまでにして、英語の勉強しようか!」

と梨田は笑顔で言って教材を取り出した。


2時間の家庭教師梨田による英語の勉強タイム終わり、若本は梨田を玄関まで送ることにした。


「ありがとね。ワカタク! おばさんにもよろしくね」

梨田が若本の方を振り向いて「ばいばい」と言って玄関のドアを開けて帰っていった。


開けていたドアがゆっくりと閉まる。

すると、若本は肩の力が抜けてへなへなになっていた。なんだろう……あれだな。家族以外の異性が自分の部屋に来るのがこんなに緊張するとは……

 

そして、姉の沙紀が若本の元へとやってきて


「そういや、あの家庭教師の子、可愛かったよね」

と声をかけてきた。若本はそうだねと頷いた。


たしかに、めっちゃ可愛かった。野球してる時とは違った一面が見れたのはラッキーと考えるべきか……

あと、可愛いだけでなく、教え方も丁寧でわかりやすかった。

家庭教師頼んだ母さん、ナイスですわ!


若本はそう思いながら、自分の部屋へと戻っていった。




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