第2話 金髪ポニーテール女子大生
転送されたロッカールームには野球のユニフォーム姿の金髪でポニーテールの俺より身長が高い女性がいた。
めちゃくちゃ美人だった。スラっとしてスタイルめっちゃいい。大学生ぐらいか?もしかしたら社会人かも……
ユニフォーム姿……そういえば、いつの間にか俺も野球のユニフォームに着替えられている。どうなってるんだこれは……
若本は今起きている状況に理解が追いつかず、呆然としていると、ロッカールームにいる女性が
「大丈夫?」
と話しかけてきた。若本は大丈夫です。と少し頷いて答えた。
すると、ロッカールームにあった壁掛けモニターの電源が付いて、白髪でメガネをかけた男性が映し出された。
誰だ……白髪だけど老けてはいないんだよな……となると染めているのだろうか……年齢は見る限り30代ぐらいか……
「ようこそ。未来への可能性を秘めた野球選手へ」
と彼は言うと、続けて
「これから、野球選手である君たちには、君たちの命をかけたプロジェクトに参加してもらいます。なお、このプロジェクトへの参加拒否は認めません」
え? 命をかけたプロジェクト?……ってか参加拒否は認めないって……強制参加かよ!
「プロジェクトは全部で3部構成。第1ステージ、第2ステージ、そして、第3ステージとなります。そして、これから第1ステージが開始となります。そこで、第1ステージのルールを説明します」
と彼はすぐさまこのルールについて説明した。
ルール
・1つ試合に勝つごとに、一塁手→二塁手→三塁手→遊撃手→左翼手→中堅手→右翼手の順に選手が追加される。右翼手が追加された試合で勝った場合、第1ステージクリアである。
・遊撃手登場までの試合は1回制、中堅手登場までの試合は3回制、右翼手登場の試合は7回制となる
・転送された選手は指定されたポジションにつかなくてはならない
例 チーム内で1番目に転送された場合→投手
チーム内で2番目に転送された場合→捕手
チーム内で3番目に転送された場合→一塁手
チーム内で4番目に転送された場合→二塁手
チーム内で5番目に転送された場合→三塁手
チーム内で6番目に転送された場合→遊撃手
チーム内で7番目に転送された場合→左翼手
チーム内で8番目に転送された場合→中堅手
チーム内で9番目に転送された場合→右翼手
指定されたポジション以外の守備位置の変更は原則不可。しかし、以下の場合はポジション可能とする
1.投手が危険球した場合(危険球した投手は退場する。別の投手が入り、空いたポジションにはクローンを配置する)
2.投手が怪我をして投球不可能になった場合
3.2回以降の野手→投手、投手→野手のポジション変更は可能。しかし、野手→野手は2回以降でも不可。
・選手がいないポジションにはクローンが配置される
・クローンは、野球選手の平均的な能力と同等のステータスを持つ(走塁時は例外。詳しくは後の文にて)。
・打順は試合ごとに変更可能。なお、攻撃の場合、クローンは参加しない(打順にクローンは含めない)
・自分が走者なのに、自分の打席が回ってきた場合、走者には、自分の野球ステータスと同等のクローンが配置される。クローンは盗塁しない(盗塁の支持を送ることはできない)。クローンの判断で走塁を行う。自分の打席がアウトになった場合、自分の打席の時に入ったクローンと入れ替わる。もしくは、自分の打席によって、入れ替わったクローンが塁を進めた場合、入れ替わったクローンとランナーの位置を入れ替えることができる。
例 ランナー1塁(A選手のクローン)の場面でA選手が打席に立ち、ヒットを放ってランナー1塁2塁(ランナー2塁にはA選手のクローン)となった場合、2塁にいるA選手のクローンと1塁にいるA選手の位置を入れ替えることができる(その場合はランナー2塁はA選手、1塁はA選手のクローンとなる)。
ルール説明を終えた後、
「ちなみに、1回でも試合に負けた場合、死んでもらうから。あっ、これ本当だから、さっきさ。試合に負けてさ。「死にたくない~」と涙しながら、苦しみ、死んでいった人を間近で見てきたから。じゃあ、死なないように頑張って1時間後に行われる試合に挑んでね。よろしく~」
とモニターにいる男が能天気そうに言うと、モニターの電源が切れた。
え……この試合に負けたら死ぬのか……どういうことだよおい。嘘だな。夢だな。
そうだな。寝てるんだよな。さぁ、さっさと起きろ俺…………
若本は頬をつねるも痛みはある。となるとこれはほんとの話なのか……いやいや、つねって痛みがあるからといって夢じゃないって判断するのは早いか……と悶々と考えていた。
ふと若本は、隣にいた女性を見る。その女性は「いや、まさか、ホントに死ぬなんてことは……」と青ざめた表情をしていた。
女性の表情が青ざめていたことを心配してか、若本は「大丈夫ですか?」とかけた後、
「はっ! あ……ごめん。しっかりしなくちゃ!」とその女性は顔をパンパンと叩いた後、
「とりあえず、私たち、初めて会ったことだし、お互いの自己紹介をしようか?」と提案したので、若本は快く返事をした。
「私の名前は梨田優佳。白足大学3年生で女子硬式野球部に所属。ポジションは投手! よろしくね!」
と梨田は元気よく自己紹介をした。さっきまで青ざめた表情をしていたのが嘘のようだ。無理していないだろうか………
ともかく、大学生……ってまじか。しかも、白足大学ってうちのすぐ近くじゃん。白足大学は栃木県にある私立大学である。教育学部と経済学部、法学部がある。男子硬式野球部はプロ輩出経験がある。
「俺の名前は若本拓也です。小山城里中学校3年。栃木小山シニアに所属してます。ポジションはどこでもそれなりには守れます。よろしくお願いします」
と若本は梨田に続いて自己紹介した。
「シニア出身の子じゃん! すごい! しかも小山城里って私の母校じゃん! こちらこそ、よろしくね!」
と梨田は嬉しそうに言った。なんかすごい照れるな……
いやいや、照れてる場合じゃないと思い、
「そういえば、梨田さんって俺より先に転送されました?」
と若本は質問すると、
「そうね。たしか、若本くんより前に転送されて、投球テスト?みたいなのを行ったかな。で、次に若本くんが転送されて、試合開始前って流れね」
と梨田はそう回答した。
マジか。梨田さんが1番目……俺が2番目……たしか転送される順番でポジションが決まるって言ってたような……ってことは、俺のポジションは……
と思ってると、突然、ロッカールームの真ん中に設置してあるテーブルの上に、タブレットが転送された。
転送されたタブレットに梨田と若本は反応する。なんだろう……若本はタブレットを手を取る。転送されたタブレットは市販で売られているものそっくりで、使い方も普通のタブレットを使うのと変わらない。そう確認すると若本は、タブレットを起動すると、様々なメニューが表示された。
表示されたメニュー
打順・ポジション・チーム名設定
自チーム選手のプロフィール・成績
相手チーム選手のプロフィール・成績
試合スコア
ルール
そして、モニターの電源が再度付くと、画面にはメッセージが表示された。
<メッセージ>
自チームのベンチに必ず持ってくること。試合後、回収するため、タブレットは転送されます。
なるほど……ってかなり重要なタブレットだな……てか、操作してみて気づいたけど、今の段階では、試合スコアと打順、相手チームの情報は確認することができないのな。
と若本はそう思い、自チーム選手のプロフィールと成績を見ることにした。すると若本は
「こ……これは……」
と呟いて目を丸くしていると、若本がいる後ろからタブレットの画面を覗いていた梨田が
「そういえば、若本くんってどこでも守れるって言っていたけど、捕手としての出場経験ってあるの?」
と梨田が若本に近づき、話しかけてきたので、急いでタブレットの電源をオフにした。若本は振り返ると、梨田の顔が近くにあってびっくりした。いやいや、顔近づけるなよ恥ずかしいだろ……と、若本は慌ててタブレットを置いた。そして、若本は目を逸らしつつも
「えーーーっと……実はですね……」
と梨田の質問について回答した。
「え! 捕手として試合に出た経験、練習した経験、数える程度なの?」
と柴田は驚いた表情をした。俺は捕手として対外試合に出場した経験はない。しかし、控え捕手を使い切ってしまった、万が一の時に備えてのシチュエーションとしてチーム内での練習試合において捕手として出場したことはある。ただ、その経験も数える程度である。
ブルペンで投手の球を受けたり、守備練習で捕手をするといった、捕手の練習経験はあるものの、これも数える程度である。
つまり言うと、捕手としての練習経験も試合経験も少ないということである。
「どこでも守れる」とは何だったのか……
「どこでも守れる」と言っても、ポジションの得意不得意の優劣はある。どちらかというと、守備として得意なポジションは三塁手と投手である。次点で遊撃手、外野手。二塁手、一塁手。もっとも不得意なのが捕手なのである。
不得意とはいえ、指定されたポジションを守るのがこのゲームのルールだ。俺は2番目に転送されたということは、ルール的に捕手を守ることになる。
「どうしよう……まさか捕手経験の浅い人が転送されるなんて……」
と梨田が頭を抱えていたので、若本は、
「と、とりあえず、このタブレットのデータの中に梨田さんの投球内容のデータが入ってたので、急いで把握します!」
とタブレットを手に持ってそう言った。そう、若本が先ほど目を丸くしてたのは、このタブレットに、梨田の投球データが入っていたからである。
捕手として1番大事なのは、投手のことを理解し、その投手が最大限のパフォーマンスができるようリードすることって、南風が言っていた。だからこそ、早くタブレットに入っている梨田さんの投球データを確認して……
と若本は考え、タブレットに入っている梨田の投球データを改めてじっくり確認することにした。
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