第1章 第1ステージ1回戦 荒球変則左腕投手編

第1話 野球選手、転送!

4月7日 始業式

若本は小山城里中学校の3年生に進級した。

生徒玄関前が賑わっている。今日はクラス分けが発表される日だからだろう。クラス分けの詳細が生徒玄関前に掲示されていた。正直言うと、担任が厳しくなくて、仲のいい友達がいれば、何組でもいい。

若本はクラス分けが貼りだされている紙を見る。2組だった……2組か……担任は誰だろうか。


「あ、やったぜ! 若くて美人で優しい先生って評判の岡本先生じゃん!」

若本は心の中でガッツポーズをした。


2組の教室へと向かう途中、


「そういえば、栃木小山シニアが優勝したって記事が、閉会式の翌日の下野新聞に載っていたんだよな……クラスメイトはどんな反応するのだろうか……補欠なのに祝福されてもなぁ……まぁ、記事が出た閉会式の翌日から日にちが大分経っている……ま、クラス替え初日で、俺のことを知ってる人なんて少ないだろうし……あんまり祝福されんだろ……」


と若本は思っていた。

3年2組の教室へと入ると、若本の予想通り、教室にいるクラスメイトは、若本を祝福することなく、それぞれの仲のいい友達と談笑していた。


若本が席に座り、ツイッターを開いて、フォローしている絵師の、好きなアニメのキャラクターのイラストを見ていた。スゲーカワイイな。


「あ~! 若本が萌えアニメのキャラクター見てニヤニヤしてる!」


と不意に言われてビクッとした。いや、ニヤニヤしてたか! 若本は焦り、声がした方を振り向くと、親友の紅井孝助が立っていた。そうか……もしかして、紅井と同じクラスなのか。ということは、中学1年生の時以来か。


紅井孝助は軟式野球部所属。1年生の時は同じクラス。しかし、2年生の時は別のクラスになった。また、小学校も同じで、同じ学童野球チームに所属し、若本は投手、紅井は捕手でバッテリーを組んだ。中学に進んでからは、捕手を辞めて、投手をしている。


「いや~その子、可愛いよな! わかるぜ、その気持ち!」


と紅井は笑顔で若本の肩をバンバン叩いた後、


「というか、話変わるけど……若本、お前の所属する栃木小山シニア、春の全国大会で優勝したんだな。おめでとう! 下野新聞で記事に出てたぞ」

と紅井は祝福した。

「いや~俺、補欠だったしなぁ……北関東ブロック予選には出たけど、全国大会には出場してないし……」

と若本は頭を掻き、目を逸らし、苦笑いしながら言うと……

「いやいや、補欠で試合に出てないだろうと、ベンチ入りしてたのは事実だし、もう少し胸張ってもいいと思うぞ。栃木小山シニア、今の2・3年合わせて総勢40人いるんだろ? 若本が前にそう言ってたよね? その中でベンチ入りできるのはたしか18人……だったはず。俺は中学シニアに進んでいないからようわからんけど、40人中、18人となると、厳しい競争を勝ち抜いてベンチ入りしてるってことじゃん! 補欠だろうと十分すごいよ! 」

と紅井は、謙虚すぎて苦笑いしていた若本を褒め称えた。若本は

「そ、そうかなぁ……なんか照れるな……」

と紅井に褒められたからか、顔を赤め、目を逸らしていた。そして、


「とりあえず、褒めてくれてありがとう! 紅井!」

と紅井に感謝した。


その後も若本は紅井と他愛無い会話をしていると、担任の岡本先生が来た。すると、紅井含め、クラスメイト達は急いで自分の席に戻っていく。席に着いて、静まった後、ホームルームが始まった。


ホームルームと、その後に行われた始業式も無事に終わり、帰りのホームルームの際、岡本先生から、進路希望調査の用紙が配られた。


「1週間後までに、その進路希望調査の紙を提出するように!」

と岡本先生は言った。


進路……ね……中3……俺はもう受験生だもんな。


下校の最中、帰りのホームルームで言われていた進路について考えていた。


そういえば先日の夕飯の際、母親が

「今年受験生の拓也に家庭教師付けさせようと思うんだけど……」

って言ってたな……


まぁ、いいや。進路のことは後回しだ。今は春季大会に向けて練習しないと。

補欠からスタメンに昇格できるよう、頑張らないと。


今日は始業式含めた午前授業だったため、午後1時30分から練習だ。

昼飯食べた後、すぐさま練習着に着替えて、栃木小山シニアの練習拠点である小山グラウンドへと向かう予定……


だった。


お昼の12時。若本は家に帰ってきた。母は仕事、姉は学校のため、家には誰もいない。若本は自分の部屋に学校の荷物を置き、コンビニで買ってきたおにぎりを食べた後、練習着に着替えようと準備していると、


突然、謎の光が若本の周りを包み始める。


「え!? なにこれ?」

若本は今起きている現象に理解ができず、目を丸くしていると、とある場所へと転送されたのだった。


転送された俺はというと、なぜか野球のユニフォームを着ていた。


そして、目の前には同じく野球のユニフォームを着た金髪でポニーテールの1人の女性が立っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る