第3話 フィクション 3

こちらを振り返りもせず、ゴミ箱を掴んで進んでいく東雲くん。

私には両手で抱えるのが精一杯で、足元が見えなかったのに。悠々と片手で掴み、なんてことないように歩いて行く彼を見ると、男の子は凄いと思う。


「あの……ありがとうございます、その、手伝ってくれて」


「ん」


東雲くんは短くそう返す。

うん、正直何を考えているのか全く分からない。そういうミステリアスなところもカッコいいんだけど……

そんなことを考えていると、東雲くんがぴたりと足を止めてこちらを振り返った。


「……じゃ、なくていいよ」


「え?」


「敬語じゃなくて、いい。クラス一緒なんだし」


わぁ今更!

とはいえ、嬉しい申し出だ。クラスメイトとはいえ、ほとんど話したことがなかったクラスのアイドル的存在とタメ口で話せるなんて!


「う、うん。ありがとう……!」


きっと東雲くんにとってはなんてことないことなんだろう。クラスメイトが1人で困っていたから助けただけ、クラスメイトなのに敬語だったから気を遣っただけ。

でも、それでも、やっぱり凄く嬉しい。

こんなご都合主義の展開が現実で起こるなんて、今日の私はとっても運がいい。


「麻野は、掃除、サボらなかったんだ」


東雲くんが偉いね、と呟く。


「そ、んな……」


当たり前のことだし、偉いなんて褒められる事じゃない。それに、そのお陰で東雲くんに気にかけてもらえたし。ただ、サボったアイツらが責められるべきなだけで──


「1人で掃除、ってなったら、多分俺はサボっちゃうから」


「それは仕方ないよ、1人に押し付ける方がおかしいし……」


「ん、でも麻野はちゃんとやってるからさ」


「先生にいい顔したかっただけだよ! だからきっと、誰も見てなかったら私もサボってると思う!」


力強くそう言って頷いていると、東雲くんはふっと笑って頷いた。

力説しすぎたかな?

でも、本当に先生が見ていなかったら、私も帰ってたと思うんだ。

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あの日、私は「魔女」になった 海林檎 @Umi-Rinngo

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