記憶にない恋文 ~自室から見つかった数年前の恋文、その子のことを僕は覚えていない

宮鳥雨

エピソード0

プロローグ

 ―――― ここ、嵐吹高校には恋のジンクスがある。それが誕生したのは今から十一年前の出来事だ。


 長かった夏休みも終わり、文化祭が近づくこの季節、学校中がお祭りムードに染まる中、私は一人屋上で風に吹かれていた。


「時間が経つのは早いものだな……」


 学校の隣には嵐吹公園と呼ばれる広大な広場があり、そこには一本の大きな木がそびえ立っている。その木が私の視界に入ると自然と言葉が漏れてしまった。


 時間の流れの早さを体感しつつ、ぼんやりと校舎から見える景色を眺めていると、

『ガチャリ』と屋上の扉の開く音がした。


 時間でいえば今は昼休みに当たる。この学校では屋上も一応開放されてはいるのだが、風が少し強いせいか、人気もなく生徒たちが来ることはめったにない。つまり、一人になりたいときは絶好の穴場ということだ。


 扉の方を見れば、ニコニコした顔をしながら、見慣れている私の生徒たちがこちらに駆け寄ってきた。


「先せ~い、こんなところにいたんだ~探したんだよ」

「あ~、悪い悪い。急に風に当たりたくなったものでな……」


 顔を膨らませている生徒は私が顧問をしている部活の部員だ。


「ま、そんなところだと思ったよ」


 顔をプンプンと膨らませている姿は言葉に表せられないぐらい可愛いらしいものだ。小さい頃から知っている私としては成長の早さに勝手ながら嬉しさまで感じてしまう。


「それよりもどうしたんだ? みんなで私のところへ来て」


 私のもとにやってきたのは一人だけではなかった。部員全員でぞろぞろと私のところへ押し寄せるものだから少し驚いてしまった。


「ちょっと聞きたいことがあってさ。……えっとね、この学校の文化祭にジンクスがあるって本当?」


 なんだ、そんなことであったか。また別の問題が転がってきたのかと焦ってしまったよ。


「ああ、本当だ。何せ、私がこの高校の生徒だった時の話だからな。今から十一年前の話だったかな……」

「やっぱり本当の話なんだね」


 何も知らなさそうな反応を見て、私は首を傾げてしまう。


「なんだ、聞いてないのか? お前たちの担任がそのジンクスに大きく関わっているんだがな」

「え、そうなの?」

「私がつまらん嘘をついたことが今までにあったか?」

「確かにないね。じゃあ、紗絵姉さえねえはその話を全部知ってるの?」

「ああ、もちろん。アイツらとは同じ部活だったからな」


 生徒たちの担任は私と同じ文芸部の部員だった。同じく部員であったつかさが文化祭で彼女に告白をし、交際に至ることとなった。


「じゃあ、その話聞かせてよ」


 生徒たちはキラキラとした目を私に向けてきた。よっぽどこの話に興味があるらしい。ただこの子らの場合、単に……恋愛話に興味があるだけではないだろうが。


「じゃあ、教えてやるよ。普通なら恋愛話に興味があるなんて乙女だな、と言うところだが……どうせその件に関した依頼がお前たちのところに来たのだろう?」


 指をパチンとならし、「さっすが~するどいね」と私を褒める。


「うん、そうだよ。だから、そのジンクスについて知っておきたいんだ」


 この子らにとっては自分たちの恋愛よりも部活の方が楽しんだろうな。私としては今しか味わえないことを大切にしてほしいと思うが、この子らにとってはこの活動がそれなのかもしれないな。


「それならば話しといた方がいいかもな。今から十一年前、これは一枚の手紙から始まったんだ……」

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