第35話
王城へと戻るとイネスは荷造りに戻った。
元々そんなに散らかしていないし、纏まったまま放置していたので荷造りは簡単に終わった。
そうしていると扉をノックする音が聞こえた。返事をする間もなく入ってきたのは国王であるバンデンブランで杖をついてゆっくりと部屋の中に入ってきた。
「こ、国王陛下!?何故こんな所に!?用があるのでしたらお会いに行きましたのに!」
「いや、気にしないでくれ、言いたい事を言い忘れていたと思ってな」
「言い忘れたこと?」
それにキョトンとするイネスに、バンデンブランは軽く頭を下げると、
「妹を助けてくれてありがとう」
「…………い、いえ!?!僕も命を助けて貰った恩返しがしたくて、やったことですので!?頭を上げてください!」
そうしてゆっくりと頭を上げると、背後に控えていた使用人に合図をすれば、使用人が小さな袋に入った何かをイネスに渡してきた。イネスが中身を確認すれば、金貨が二十枚は入っていた。
「なっ!?こんなに頂けません!」
「私からの感謝の気持だ。本当はこの城でもてなしたかったのだが、君には出て行ってもらわなくてはならない、それが心苦しいだけだ。私の我儘だ、受け取ってくれ」
イネスはその金貨の山を見ながら、財布の中を思い出して金貨銀貨を盗られ銅貨しか入っていない事に気が付いて、懐が苦しいまま旅をするのは辛いと思い、その金貨の山を握り締めるとため息を吐きながら、
「分かりました……僕も懐が苦しいのでお言葉に甘えさせ頂きます」
「すまないな」
バンデンブランはそう言うと、イネスは微笑みながら、
「お見合い相手、妥協してくださいよ。変にこだわったら一生結婚できませんからね」
「ああ、肝に銘じておこう」
そう言うと、バンデンブランはイネスの肩に手を置いて、
「本当にありがとう、気を付けて」
「……はい、ありがとうございます」
そう言うとバンデンブランはイネスの部屋から出ていった。ゆっくりと扉が閉まると。手にした金貨を荷物の中に取られない様に慎重にしまうのだった。
そうして荷造りが一通り終わると、イネスはソファに立てかけられていた大剣を手に取って荷物と一緒に背負うと、部屋を出た。
外で待っていた使用人のソーマスが、
「正門までご案内します」
「最後までお世話になって……その、ありがとうございました」
「いえ、それが私の務めですので」
そう言い合いながらお互い微笑み合うと、入り組んだ王城の中を進んで正門までやって来た。
そこにはシャーリーとエリザが待っていて、
「二人共どうしたんです?」
イネスがそう尋ねれば、二人は、
「見送りに来たんだよ、お客は最後までもてなすようにって言われているからな」
「神殺しさん出て行っちゃうんでしょ?ご挨拶したくて」
そんな二人にじんわりと胸に暖かさがこみ上げてきて、イネスは自然に笑みの形を取ると、
「ありがとうございます」
と答えるのだった。
正門前には王室専用馬車が止まっていて、
「あれで送ってくれるんですか?僕には勿体ないですよ」
「いいから、これくらいしかできないんだから、ありがたく受け取ってくれ」
そう照れくさそうに言うシャーリーに、イネスは微笑むと、その手を取って手の甲に口付けを落とした。
「なっ!?」
いきなりの事に顔を真赤にさせるシャーリーを見てふふっと微笑むイネス。
「さ、行きましょうか」
「姉様、お顔が真っ赤です」
「き、気にするなっ!」
そんなやり取りを微笑ましく見つめるイネスは、王室専用馬車の中へと入った。後からシャーリーとエリザも入って来て、三人が乗り込むと馬車は動き出した。
街中を通りながら、王城から随分と距離のある城壁まで馬車で進むと、検問所のある辺りで馬車は止まった。
イネスは馬車から降りて検問所へと入っていく。後を付いていく様にシャーリーとエリザも入ってくると、検問官は王女二人の登場に驚き、思わず震える手でイネスの検問を始めた。
異常が無い事が分かると、手続きを済ませて、城壁の向こうへの扉が開いた。
「それでは、色々ありがとうございました」
「ありがとうはこっちの台詞だ、イネス、約束絶対守れよ」
「神殺しさん、またね」
そう言って手を振る二人に、イネスは微笑みながら
「……はい、また必ず会いましょう」
と言ってイネスは城壁の外へと、クロシドライト首都のバストネスから出て、珍しく晴れ渡った青い空を見上げ、荒廃した大地の広がる世界へ向かって歩き始めるのだった。
アノーソクレス ミコシバアキラ @mikoshiba888
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