第7話 晴海遊善2-3

 3


「信号無視の車にひかれてお陀仏。学校に戻って帰宅のタイミングをずらしなさい」


 突如死の宣告を受け、遊善が呆然とする。眼前の中年男性は欄干にのせた両腕にあごをのせ、目元に微笑を湛えている。


「今の時期、七時くらいまで明るいし、どのみち親御さんも八時くらいまで帰ってこないんだから問題ないだろう?」


 遊善が警戒心を強める中、中年男性は平然と言う。


「構えないで。僕にはわかるんだよ。だって、予言者だから」


 遊善は階段を駆け上がる。しかし、中年男性が最短のステップで眼前に立ちはだかり、遊善は急ブレーキをかけた。後ろ向きに階段を一歩ずつ降りる。


「いいじゃん。お友達の部活でも見てきなよ」

「……嫌だよ」


 遊善がうつむき加減に呟く。


「何で? 羨ましくなるから?」


 遊善が面を上げると、男性はしたり顔になった。


「わかるよ。だって――」

「予言者だから? こわ」


 遊善はそう言い捨て、来た道を引き返した。階段を降り、階上の不審者を振り返る。


「予言者様はボランティアでもやってんの?」

「違うよ。僕は未練を断ち切るためにいるのさ」


 眉根を寄せる遊善に対し、眼前の男性は苦笑にもとらえられる曖昧な微笑を浮かべた。


「君を失いたくない誰かがいるって話だよ、少年」

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