第4話
次の日。
藍は普段と変わらず、美紀をキスで見送って、部屋の掃除を始めていた。
昨日の一件はまるでなかったように。
だから私も普通にしようと思って何も言わずにキッチンにやってきて珈琲を入れて飲んでいた。すると藍がひょっこりと現れて、私を覗き込んできた。
「ねぇ、戀さん。昨日のキス。あれ、どういう意味?」
それを聞いて私は珈琲を吹き出しそうになった。
「な・・・。」
「ねぇ、どうしてキスしてくれたの?」
「貴女からしてきたのでしょ?」
「でも戀さんからもしてきたじゃん。」
なぜ今になってそう私を問い詰めるのだ。私が頭を抱えていると、藍は私に抱き着いてきた。
「藍、やめて。」
「答え、わかんないなら、私が教えてあげよっか?」
そう言うと藍は私に口づけてきた。私は慌ててそれを引き離す。
「やめて。」
「どうして?昨日は乗り気だったのに。夜じゃないとだめなの?」
「そう言う問題じゃない。」
「じゃあ、どういう問題なの?戀さんは私とキスしたいんでしょ?違うの?」
それに対して私はなぜか答えることができなかった。すると藍は調子に乗ったのか、また私にぎゅっと抱き着いてきた。
「じゃあさ、答えが見つかるまで・・・何度もしてあげる。」
藍は私が反論する隙もなく私の唇をふさいだ。さっきのキスとは違う。深く貪るようなキス。
「ん・・・ん・・・。」
ようやく唇を離すと、熱っぽい目で私を見つめて言った。
「ねぇ、もっとしたい。」
その言葉が私の心の底の何かを刺激されて、手が少し汗ばんだ。けれど、流されてはいけないと思い苦し紛れに私はこう返した。
「・・・藍には美紀がいるじゃない。」
すると藍は、首を振って答える。
「今は戀さんがいい。戀さんしか見えてないの。」
「・・・でも、私は藍が好きじゃない。」
藍は人差し指を私の唇に当てた。
「好きとキスしたいは別でしょ?」
そんな根拠のない・・・だが説得力のある言い草で私を上手く丸め込むと藍は、また唇を貪ってきたのだった。
「・・・っはぁ、やっぱり、戀さんとのキスだいすき。」
「・・・馬鹿みたい。」
目線をずらしながら私が突き放すように言っても藍はなおも抱きつく。
「・・・うそつき。」
「・・・何がしたいの。」
「キス。」
「そうじゃなくてっ・・・!」
そう言いかけると、藍は先程までのからかうような雰囲気とは一変して、真剣な目でじっと私を見つめてきた。
「戀さんの音が聞きたいの。どんな音か聞いてみたいの。」
「何を馬鹿なことを・・・。」
「馬鹿かどうかは確かめればいい。戀さんが確かめればいい。」
「どうやって。」
「知っているくせに。」
セーターからのぞく華奢な鎖骨。安い香水の香り。誘うように半開きの唇。
すべてが、鬱陶しい。
しかし、鬱陶しい反面、それらをすべて飲み込んでしまいたい。
そんなどうにもとまらない感情が渦巻いている。
全部めちゃくちゃにしてしまいたい。
ストーブが酷く熱く感じる。
熱はさらに熱を帯び。
気が付けば自分から藍の唇を貪っていた。
「ねぇ、もっと。」
そう、藍は言うと私の手を取り隣の部屋に連れて行ってどさりとソファーなだれ込んだ。
そこから先の出来事はあまり覚えてない。
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