第132話


 「ふざけた事言ってんじゃないわさ!」


 魔物討伐は順調に進み三日目の終わりぐらいになると森の浅い場所には魔物の姿が殆ど見られなくなった。


 そんな三日目の討伐を終え森から少し離れた場所に設置した野営地に戻って夕食を食べた後にテントの中で寝転がってのんびりしていると外からジュリアナの何やら怒っているような声が聞こえて来た。


 どうしたんだろうって思ってテントを出て声のした方に近づくと一方はジュリアナとラリベル、一方は小隊長のラッシと二人の兵士達が向かいあっていて何やら険悪な雰囲気だった。


 「これは小隊長である私の判断だ。あんたらには従ってもらうよ」


 近づいてやり取りを耳にしてみると、どうやら明日からの魔物討伐の方針で冒険者二人とラッシ達が揉めているようだった。明日から更に森の奥に進み魔物を討伐するといった方針を話した事が原因みたい。


 「あのよぉ、小隊長さん。バカ言ってんじゃねぇよ。何考えてんのか知らねぇけど今のままの強さで森の奥に進めば絶対怪我するぞ」


 ギャイギャイと言い合っている双方の話を聞いてると、どうも一部の兵士達からもっと奥に進んでより強い魔物を倒して遠征の成果を高めるべきだしそれが我々には出来るって意見をラッシが受け、優柔不断で頼り甲斐のなかったラッシもなんかその意見に乗り気になっていて冒険者二人に相談、というか命令に近い言い分で話したようだ。


 ジュリアナとラリベルの感じはどうも森の奥に行くって事自体よりもラッシや兵士達の態度に腹を立てている様子だった。


 実はラッシを含め兵士達の態度についてはサインスを出てから僕自身違和感を覚えてた。どうも彼等は前回の遠征で手柄を挙げた事、その事でサインスに戻ってからチヤホヤされた事が正しく身に付けた自信を過剰なものにしてしまったっぽい。自分達の力を過信しまくってるようだ。


 ここまで横柄な態度をとる事はなかったけどなんか妙に自信満々っていうか、調子に乗ってるなぁって所々感じる事があった。


 前回の遠征の手柄って言っても、確かに予想以上の数の魔物は倒せたけどぶっちゃけ弱い魔物ばっかだったわけで手柄というには大袈裟だし、軍の上の人達も誉めはしたけど高く評価するわけではなかった。


 それなのにあんだけビクビクしていた兵士達が自信過剰に変わってしまったのは多分、偉い人とかから今まで褒められる事がなかったからだと思う。


 領軍の兵士達のほとんどが平民で軍の偉い人達は貴族が多い。平民と貴族の間には選民思想があり平民が貴族に讃えられるような事は滅多にない。兵士達は平民である自分達が貴族から褒められたって事が衝撃的だったのかも?知らんけど。


 まぁ、何せよ普通に考えれば自信過剰になんてならないだろうに、この人達アホだなぁって思いながらも、そのアホさ加減に可愛らしさを感じながら冒険者二人と言い合う小隊長らを眺めていた。


 前世で、たまたま家のベランダに飛んで来た大きなクワガタを捕まえて、僕が捕まえたんだっ!て家に友達を呼んで自慢していた小さい頃の息子の姿にそっくりだわ。そういえばマチカネ村からサインスにやって来てしばらく経つけど最近前世の事を思い出す機会がほとんどなかった。サインスに来るまではたまに思い出していたんだけどなぁ。


 とか、考えていると言い合ってた二組の話がまとまったみたいだ。結局小隊長のラッシが主張した明日より更に森の奥へ進む事で話が決まったみたいだ。冒険者二人の顔は不服そうな顔してだけどね。


 というわけで次の日、僕と冒険者二人が先頭に立ち、少し離れた距離からラッシ含む小隊が続くいつもの形で森に入ったけど今日は森の少し奥まで行く予定だった。


 森の浅場はここ三日でかなりの数の魔物を討伐したのでたまにホーンセーブルを見かける程度で殆どいなかった。浅場を森の奥へ進む道中はジュリアナが兵士達への文句をブツクサ言っていた。


 「あの、声大きいですよ。聞こえちゃいますよ」


 「聞こえるように言ってんのよ!」


 そんなやり取りをしつつ森を進んだ。魔物が全然出てこないから慎重に進む足取りは徐々に早くなりどんどん奥に入っていった。


 「なぁ、姉さん。この森なんか変じゃねぇか?静か過ぎて気味がわりぃ」


 ラリベルがジュリアナに声をかけた。


 「ラリ坊の言う通り、こりゃちょっと不味いかも知れないね。一旦引いた方が良さそう......!?」


 一歩、足を踏み出した。踏み出した一歩は何かの境界を越えたのだろうか、刺すような殺気と恐怖が一瞬で体を包んだ。僕もラリベルもジュリアナもそれに体を支配されて動きが止まった。


 「逃げろっ!!!」


 ジュリアナが叫び、その叫びに固まっていた体のコントロールを取り戻して僕とラリベルは振り返り一目散に森の外を目指して走った。だけどすぐに後ろからついてきていたラッシ達にかち合ってしまう。


 「な、ど、どうしたんだ?」


 「馬鹿野郎っ!ここはやばいっ!直ぐに森をでろ!」


 血相を変えて焦る僕らの姿に狼狽えるラッシ達に苛立ちをぶつけるようにラリベルが叫んだ。


 「何やってんのさ!逃げるわよ!」


 ラリベルの背中から叫んだジュリアナの更に後ろ、遠くから微かに聞こえる何か。それは段々と、そしてすぐに大きな音に変わり、それが何かの足音、こちらにものすごい速さで迫ってきているのが分かった。


 ドドドっと地面を規則正しく叩きつけるような音がすぐそこまで近づきその存在を僕は気配察知で捉えた。顔の血の気が引いていくのが分かる。やばい、これはマジでやばい。そして足音が止み、変わりにこちらをゆっくりと見定めるように、ねっとりとした殺気の籠った瞳を向ける魔物が僕達の前に姿を現した。



リトルドロデイノ

恐竜型二足歩行の魔物

レア度B

鋭い爪を持つ


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