第130話

 サインスに帰還した次の日の朝、領軍の演習場に整列した僕達はコンドを待った。整列しているのは魔物討伐隊である一番小隊と二番小隊の全員と前回の遠征に帯同した冒険者達だった。


 二番小隊の兵士達は明るい雰囲気で、一番小隊の兵士達はみんな暗い表情をしていた。さっきラッシに聞いたけど一番小隊は遠征予定を四日早く切り上げて戻って来ていたらしい。


 僕達が向かった森同様に一番小隊の遠征先も想定以上に魔物が多かったみたいだけど、僕達とは違い何も出来ずに逃げ帰って来たみたいだ。


 同じ魔物討伐隊とはいえ一応一番小隊の方が僕達より強くて期待されてた分、自分達が何も出来なかったのに僕達二番小隊が成果を出して帰ってきた事に後ろめたさがあるようだ。


 まぁ、無謀に突っ込んでいって大怪我するより全然いいと思うし、もともとコンドからはやばい状況ならさっさと帰ってこいみたいな感じの事言われてたから咎められる事は一切ないようだけどね。


 

 しばらくして整列している僕達の前にコンドと一緒に軍指揮官のディアンと参謀長のヘイヘが姿を現した。


 「皆、遠征ご苦労であった!」


 ディアンの長い話が始まり、それが終わると今度はヘイヘが、ディアンと同じような内容の話をした。


 要は、遠征の労いと今後の方針についての話だった。小隊の編成を少し変えて、一週間ここで訓練したのち再度遠征に出ろって話だった。詳しい話はコンドより指示を受けろって言った後ディアンとヘイヘは詰所に戻っていった。


 「それでは今後の行動について具体的な内容を指示する!」


 編成については僕達二番小隊は基本的に変更なし。一番小隊には冒険者一名を追加し、さらに次の遠征にはコンドもついていくとの事だった。


 前回の遠征時コンドはサインスに残り、領軍の兵士達の演習の指揮を取っていて小隊に組み込む為の人材育成を行い魔物討伐隊の増員を目的にしていたけど、それよりも実際に遠征に赴く魔物討伐隊の兵士達の実力を上げることを優先する様、領主代行のアティラから指示を受けたみたいだ。


 戦い方についても今までの消極的な戦い方を変更してより魔物の討伐数を増やす為に攻撃的な形を取る事になり、それを一週間程サインスで訓練する事になった。


 僕達二番小隊についてはこの前の遠征で冒険者二人が提案した形を基本にする様言われた。ジュリアナ、ラリベル、僕の三人が先陣きって突っ込み撹乱して後方から兵士達が魔物を仕留めるって形だった。



 「槍の使い方を教えろだ?お前、棍棒使うんじゃねぇのか?」


 訓練を終えて鍛冶場に戻りロマニルに槍の扱い方を教えてくれないか相談してみた。


 この前スキルの書を使った時に槍術のスキルが習得できる事が分かったから領軍の訓練で槍を使おうと木槍を武器置場から持ってきたらジュリアナに却下された。


 「アタイらの役目は小回りが利く武器じゃないと駄目だ」


 槍なんか使ってんじゃないわさ、と言われたけどジュリアナが使ってる弓の方が小回りきかないんじゃないのみたいな事聞くと、アタイはいいんだよ!って言われ、しぶしぶ訓練で槍を使うのを諦めた。


 「棍棒を主に使う気なんですけど、いざという時に他の武器も使える様になっておきたいです」


 「しゃーねーな。暇な時なら教えてやるよ」


 ありがとうございますと頭をさげ、ロマニルに教えてもらえる事になった。


 『デムナ戦記』でスキルを習得するには、それぞれスキル習得前の熟練度を一定数上げる必要があったけど、その熟練度を指し示す数値等はゲーム上に表示されず隠されていた為、キャラがあとどの位熟練度を積み上げる必要があるのかわからなかった。


 習得に必要な熟練度もスキル毎に職業やキャラクター、種族によってまちまちなので覚えたいスキルがあればそのスキルを覚えるまで熟練度が上がる様な行動をひたすら繰り返す必要があった。槍術のスキルを覚えたければひたすら槍を使えばその内に習得するって具合だ。


 ただゲームでスキルを習得するタイミングは大体戦闘終了後がほとんどだったから、特に戦闘系のスキルは魔物を倒した方が熟練度が上がるっぽい。


 スキル習得の詳細についてはゲーム制作側が全く説明しておらず『デムナ戦記』のプレイヤー達の経験による推測の域を出ていないので習得の正確な条件は実は不明だった。


 しかもゲームと違い現実に生きているとゲームのシステムとの相違を多々感じる事があるのでスキルの習得も何かゲームとは異なる方法での習得の仕方があるのかも知れない。


 スキルの書で水魔法とか土魔法とかゲームになかったスキルが覚えられるのは分かったけど熟練度の上げ方がさっぱり思いつかない。試行錯誤するしかないなぁ。まぁ、とりあえずは目先の槍術覚える為にもロマニルにしっかり教えてもらおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る