第97話
ガキっと、兵士の構える剣と調査隊のナイフがぶつかる音が響いて戦いが始まった。
調査隊は兵士達とガルグにそれぞれ一人ずつ対峙した。
兵士二人はローブを纏っているのに素早い動きの調査隊に戸惑っていたみたいだけど調査隊の二撃、三撃の後、何時もの動きに戻って剣を振るっていた。だけど二人とも調査隊に若干押され気味だ。
ガルグはハルバートを使わず剣を抜き、向かってくる調査隊の初撃を躱し様に連撃を繰り出し、嫌がった調査隊が距離を取って間を探り合うように睨み合っていた。
それぞれの戦闘の向こう側にいるロバトを見ると目があった。あいつの相手は僕、だよな。
ショートメイスを握る手に、ぐっと力を込めて駆け出し、目の前の戦闘を横目に擦り抜けロバトを目指した。
向かってくる僕に対して余裕の表情で、僕に向かって片方の掌を向けたと思ったら、そこから光の矢が飛んできた。
あぶねっ!狙われた頭を傾け間一髪で躱した。多分、神聖魔法のホワイトアローって攻撃魔法だと思うけど、何気に訓練を含めて攻撃魔法を撃たれたのって初めだった。
ロバトを鑑定した時に暗器術のスキルがあったから手裏剣みたいなの飛ばしてくるかもって警戒しといて良かったぁ。
初めての魔法攻撃をなんとか躱してドキドキしつつも駆ける足を止めず距離を詰め、飛びかかるようにロバトの顔面に向かってショートメイスを振るった。
ロバトが前腕で受けるとカーンっと乾いた音がして腕に硬い手甲でも着けているのか、ローブの袖越しに金属を叩いたような感触があった。すかさず二打目を打ち込むけど初撃と同じように前腕で塞がれた。
あっ......これ、勝てないわ。感覚だけど確信した。その感覚を紐解けばステータス値の差を事前に知っていたって事もそれに至った要因の一つだけど対峙し戦うという行為で交われば、雰囲気、仕草、圧力、目線、余裕、という言葉が頭に浮かんで混ざって、結果僕はロバトに勝てないという感覚を得ると同時に受け入れた。
二撃目も塞がれていったん距離を取ろうと素早く二、三歩下がるとそこを狙われまた魔法が飛んできた。
魔法が腹部に当たった衝撃で反射的に、痛ってぇ!って口に出そうになったけど、全然痛くなかった。しっかり鎧が攻撃を受け止めてくれていた。
やっぱり防具って偉大だわとか考えていると、ロバトが僕に距離を詰めてきて、いつのまにか持っていたナイフで襲ってきた。これもギリギリで躱す事になり、危機感と緊張感が一気に高まった。
勝てないなら生き残る道を。そう考えると選択肢は時間稼ぎする事、一択だ。
兵士達と調査隊のステータス値の差はちょっとだけ兵士達の方が高いし、ガルグは結構高い。
一対一でなら三人がそれぞれ調査隊を倒す可能性が高いから、調査隊を倒してロバトとの戦いを代わってもらうのが現実的だと思う。
再度ロバトから距離を取ろうとするけど、細かくより鋭い攻撃を繰り出しつつ、空いた距離を直ぐに詰めてきた。
牽制の為にショートメイスを振りつつロバトからの攻撃を防ぐ事に集中した。その攻防の流れもすぐにロバトに傾いてきて、少しずつロバトの攻撃を躱せなくなってきた。
「子供にしてはなかなかやりますね。流石、神に叛し悪の仔です。痛ぶって殺してあげましょう!」
必死だったから気付かなかったけど、汗だと思って額を拭うとぬるっとしていて、それが血だと気がついた。防具に守られていない部分の腕やら顔やらあっちこっちが赤く色づいていた。
気が付いたせいか、ぼんやりとしていた痛みがズキズキと体のあっちこっちではっきり感じるようになった。痛みと同時に身体の芯からじわっと滲み出てくるような恐怖を感じた。
「おやおや、その表情。ようやく神の怒りが、いかに恐ろしいか理解したようですね。もっと主の恐ろしさと、尊さと、心からの崇拝したさを貴方に体感していただきましょう!」
心からの崇拝したさってなんだよ!?って、突っ込みたかったけど、そんな暇を与えて貰えずいつのまにか二刀流となっていたロバトは二本のナイフを使って僕に連撃を見舞った。
多分、というかほぼ間違いなくロバトは手加減しているのがわかる。ロバトの攻撃が勢いと力強さを増したにも関わらず、攻撃は当たっているもののクリーンヒット、もしくはクリティカルヒットがなく、なんとか浅い傷程度で済んでいる。
ロバトの表情は攻撃を繰り出せば繰り出す程にいやらしさを深めていった。頬は紅潮し、耳はほんのり紅く色付き、瞳孔は開き瞬きなく、歪ませた口角の端からは涎が垂れていた。
ウヒウヒ言いながら嬉々として子供を甚振るその姿は、ど変態なサディスティック野郎そのもので、なんかゾッとした。
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