第96話

 調査隊は高い崖の麓で立ち止まった。そこには木枠で補強された大人の背丈ほどの高さで大人が両手を広げたぐらいの横幅の、洞穴の入り口の様な物があった。


 「おおっ!素晴らしい!これは間違いなくダンジョンの入り口、異界へと繋がる魔力を感じます!」


 ロバトは崖に空いた穴を目にして、主の導きに感謝いたしますと祈り始め、それに合わせるように他の調査隊の人達も跪き穴に向かって祈り出した。


 ......なんか、嘘くさい。ちょっと大袈裟じゃない?異界へと繋がる魔力ってなんだよ?って思った。


 兵士達は調査隊の姿を見て、おぉ!と、さっきと同じ感じで感嘆の声を漏らしていたけど、ガルグを見ると無表情だった。


 祈り続ける調査隊を他所に、この穴って鑑定出来るのかなぁと思って鑑定をかけてみた。



 廃坑

 鉄鉱石採掘のために掘られた坑道



 鑑定出来た。やっぱりダンジョンじゃなかった。ただの廃坑だ。こいつら本当にダンジョンだと思っているのだろうか、それとも......?祈りを終えたのか跪いていた調査隊は一斉に立ち上がった。


 「ここは間違いなくダンジョン。さぁ、調査を行いましょう。しかし、未知のダンジョンです。どんな魔物が待ち受けているか分かりません。護衛の皆様っ!先頭に立っていただき我々を導いては頂けないでしょうか?」


 そう言われて兵士二人が先頭に立つ。ガルグと僕が調査隊の後ろにつこうとすると、お二人も先頭に加わって下さいと言われた。未知のダンジョンなんです!何が起こるかわかりません!と、僕らにも先頭に加わるよう、ぐいぐい迫ってきた。この人、こんなキャラだったっけ?


 なんか困惑してきた僕はガルグに顔を向けると同じタイミングでガルグも僕に顔を向け、バチッと視線があった。無表情だった顔を崩しガルグも困惑しているのが分かった。


 どうします?どうしよう?とお互い目線で会話したけど、迫り続けるロバトに流されて結局ガルグと僕のふたりも兵士達に並んで先頭に立つ事になった。


 改めて廃坑の入り口を見ると、真っ暗だった。松明などの照らす道具は持って来ていて火をつける準備をしようとすると、ダンジョンは神の力で灯されていますので必要ありませんとロバトに制された。


 ダンジョンじゃないから中に入っても真っ暗のまんまだよ!と叫びたかったけど、鑑定してダンジョンじゃないって分かりましたなんて言えないから黙っていた。


 「さぁ、皆様!未知の領域へ歩を進めましょう!」


 僕が二の足を踏んでいるとロバトの声に押された兵士達が、恐る恐る真っ暗な廃坑に足を踏み入れた。訝しむ表情のガルグもため息を一つ吐いた後に僕に顔を向け、行くぞと目線で語ってきた。まじかぁ、絶対なんかおかしいよこの状況。


 兵士達に続いてガルグが暗闇に入り、僕もその後に続いた。右も左も、上も下も全く分からない暗闇。静まり返った中、前を歩く兵士達とガルグが慎重に前に進む足音が坑道内に反響した。


 暗闇に身を投じてまだ数歩目、違和感を感じて振り返った。あるはずの出口から差し込む陽の光が無くなっていた。


 後ろをついて来ていると思っていた調査隊の人達の気配も感じられない。やられた!?やっぱり何か仕掛けて来たのかって思ったら、パッと急に明るくなった。そこは広くてかなり高くに天井がある洞穴だった。いつのまにこんな所に?


 「実に愉快です。こんなにも、あっさりと騙されるとは。これも全て主の導きによるもの。主に感謝を!」


 声のする方に振り返ると少し離れた所に整列した三人の調査隊の面々の前に立つロバトが下卑た笑みを浮かべていた。狼狽える兵士達に、厳しい表情のガルグ。


 「貴方達に素晴らしいお話をして差し上げあげましょう。私は主である神ダグダの声を聞いたのです!主は私に、こうおっしゃった。信仰の障害となるものは全て排除すべし、とっ!」


 そっからペラペラと語り出した。簡単に説明すると伯爵が邪魔だから排除したいけど大っぴらに出来ないから取り敢えず騎士団を潰そうって話らしい。何で騎士団なのか?原因は僕の騎士団入団みたいだ。


 「数ヶ月前の事件は神の天啓だと感じました。騎士団の半数がまさか力無き農民達に殺されてしまうとは。騎士団の持つ力への疑心不信感、平民に対しての風当たりが強くなるのではないかと言う不安、恐怖心。民は皆、数ヶ月前の事件でそれらを感じました。騎士団はマーウェル伯爵の象徴たる存在。民は伯爵へ負の感情を抱き、救いを求め神の館の門を叩く者達は後を立ちませんでした。信徒へ助けを求め主の素晴らしさを皆理解したのです。しかし、農民の子を騎士団に取り立てた事が広まると、主の導きを拒む者が現れてくる様になりました」


 断じて許せない!許されるはずがないっ!と唇を震わせながらロバトはいい放った。


 神の声を聞いたロバトはその声に従ってダンジョン発見の情報をでっち上げた。教会の幹部に調査隊を作って教会が第一の発見者となりダンジョンの利権を教会が主張できるよう進言したらしく、その話が通って今回の遠征に至ったとか。


 ロバトの目的は騎士団を罠に嵌め抹殺する事みたいで一連の流れはロバト単独で計画し、どうも騎士団の抹殺を目的としたロバトの考えについて教会は知らないっぽい。


 ペラペラペラペラとまるで自慢話のように語り続けるロバトからは小物の雰囲気が漂っていたけど話を聞かされていた兵士達は驚愕と言った表情をし、ガルグは険しい表情をした。


 「それではそろそろ皆さんを、神の身許へ導く事に致しましょう」


 ロバトが片手を挙げると他の調査隊の奴らは懐から武器を出して構え、ロバトが挙げた手を僕らに向かって振り下げると調査隊の奴らは一斉に僕らに飛び掛かってきた。

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