第60話

 「ネールよ。その背負っている鉄の棒?は、なんなんだ?」


 「これ?これは僕の武器ですよ」


 え?それが?サーロスは自分の腰に差す剣を見て、こういうのが武器じゃない?と言わんばかりに首を捻った。


 サインスまでの護衛が見つかった後、伯父さんが旅に必要ないくつかの物を準備してくれた。


 背負いの袋の中には伯父さんが用意してくれた革の水筒や着火用の小さな魔道具、着替え一セット、合羽、少量の塩と木こりから貰ったナイフ、そして騎士団見習いの推薦状が入っている。


 他に何か必要な物があれば持っていくといいよと、叔父さんが荷馬車に積んでいた、取引先から引き取ってきた道具を見せてくれた。


 その中から鉄の棒を手に取り伯父さんにこれを下さいとお願いした。伯父さんは、えっ?それ?って顔をしてたけど、うなづいてくれた。


 鉄の棒はトの字の形をしていてトンファーを少し長くしたような、1mないぐらいの長さの形状だけど太さがしっかりある棒だった。


 もともとダンスンザのある鍛冶屋が窯に燃料を押し込むために使っていた物らしいけど廃業したためいくつかの道具と併せて伯父さんが引き取った物らしい。



 ト型鉄棒

 レア度E

 旋棍を長くした形状の頑丈な鉄の棒



 鑑定でも頑丈とあったのでしばらくは武器として重宝出来そうだ。しかも今までの武器で最高のレア度E!やっほい!


 まぁ、子供が持つにはかなりの重さな筈なんだけどステータスの影響か、少し重たいかな?程度で済んでるので長旅に持ち歩いても大丈夫だと思う、多分。今のところ問題ないしね。


 まぁ、不便な事でいうと触ったら手がべたべたするぐらいかな。薄ら錆がのってる部分があるから、錆止めに油が塗ってあるのだと思う。


 

 「武器を持つということは、ネールは戦えるのか?小さいのに」


 「小さいけど、戦えるのですよ」


 「わっはっはっ!それは頼もしい!期待してるぞ、小さき戦士よ」


 そんな会話をしつつ歩いていると、さっきまではしゃいでいたメルルがサーロスに抱っこされたまま、じっと僕の顔を見ていた。どうしたの?と聞くと、「お兄ちゃん!それ!カッコいい!」と僕の顔を指差した。


 何の事だろうと思っていると、青いの!かっこいい!と言った。あぁ、サファイアピアスの事か。メルルが手招きするので近づくとかっこいい!かっこいい!と言いながら僕の耳を触った。いたたたたっ、ひっぱってる!ひっぱってるよ!


 耳を引っ張って痛がる僕をメルルはキャッキャと言いながら面白がった。もー、仕方ないなぁ。


 「こらこら、メルル。ネールが痛がっているだろ。人の嫌がる事をしちゃいかん。謝りなさい」


 メルルはサーロスと僕を交互に見て、ごめんなさいと言いながら僕にペコリと頭を下げたけど、ニヤリと笑った。小悪魔だな、こりゃ。


 「ネールよ、そのピアスはどうしたんだ?」


 サーロスが聞いてくるので、魔除けで付けてますと答えた。


 「なるほどそうか。人族はたまにピアスを魔除けとして付けていると聞いたり、見かけたりもした事があるな。魔除けといえば、俺も魔除けを施しているぞ」


 ほれ、と言いながらサーロスは自分の片腕の袖を捲り、肘から肩にかけて彫られた刺青を僕に見せてきた。サーロスは紋章だと言う。


 デムナ戦記に於いて装備できる物は武器や防具等の他に紋章というのがあった。一人につき二つ紋章を装備でき、効果としては特定のステータス値が数パーセント上昇など数字としては大きくないけど、特に高レベルであれば装備による恩恵は馬鹿にできる物ではなく、地味に役立つ装備でもある。


 ゲーム内では紋章は紋章とだけしか表記が無かったけど、まさか刺青だったとは......。サーロスの刺青を鑑定しても間違いなく紋章と表していた。


 ゲームでは他の装備と同じようにプレイヤーの任意で紋章の着脱を繰り返す事が出来たけど、刺青じゃ無理じゃね?着は出来ても脱は難しいでしょ、と思ってサーロスにそれとなく聞いてみると簡単に書き換えが出来るとの答えが返ってきた。


 「俺も詳しくは知らないがなんでも紋章は特殊なインクを使って彫られるそうだぞ。魔力に反応して形を変えるインクらしい。魔力操作が出来るのであれば最初に彫った後、自分の好きな様に魔力を使って絵を変えれるそうだぞ。俺は今の絵が気に入っているから変えるつもりはないけどな」


 ガハハと笑うサーロスを横目に、マジかよっ!?と、つい心の中で叫んでしまった。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ紋章に興味があったけどまさか紋章が刺青だったとは。


 うん、僕には一生縁が無さそうだな!縁、持ちませんから!


 ピアスでさえ恐怖と混沌の渦に巻き込まれ精神力をガリガリ削られた結果の装着なんだ。


 刺青なんて、無理無理無理!痛いし怖いに決まってんじゃん。あぁ、あの時の針を片手に迫ってきた母ちゃんのドS顔を思い出して、鳥肌が立つよぉ、怖いよぉ。


 「ん!?どうやらネールは紋章に興味深々な様子。よし!サインスについたら俺が良い紋章屋を紹介してやろう!戦士たる者、紋章の一つや二つや三つ、身体に宿さないとな!」


 いやいや、興味何てこれっぽっちもないから!何、勝手にお前の気持ちはわかったって悟った顔してんのよ!?


 青褪めているであろう僕の顔を見て、紋章!紋章!と嬉しそうに連呼するメルルの声を聞きながら、紋章だけは装備しないぞと心に決めた。

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