第59話

 まだ辺りは薄暗い、早朝のダンスンザの街だけど既に多くの人が忙しなく行き来していた。


 マーウェル伯爵領都サインスへ今から出発する。


 短い間だったけどお世話になった宿屋のおっさんには昨日お礼を伝え頑張ってこいよと声を掛けてもらった。


 ノーザンからダンスンザまでの道のりを共にした伯父さんの馬チルルにも昨日別れの挨拶をし体を撫でてあげると、別れを悲しんでくれているのか寂しそうな顔をしてくれていた気がした。


 伯父さんと共に、サインスまで僕と一緒に旅をしてくれる事となった獣人親子との待ち合わせ場所である街の中央広場で合流した。


 サーロスさんの娘メルルはサーロスに抱っこされていて、朝早いためか抱き着いたまま眠っていた。


 伯父さんもこの後直ぐにノーザンの街に発つという事で、サインスがノーザンと逆方向の街の門を潜らないといけないので中央広場で僕を見送ってくれる事になった。


 「ネール君、くれぐれも気を付けてね。無理せず、辛い事があれば遠慮なく帰ってきていいんだからね。逃げる事は恥ずかしい事じゃないんだよ」


 「ありがとう、伯父さん」


 ノーザンの町を発つ時に母ちゃんに言われた事と同じような事を伯父さんが言うので嬉しく、そしてなんだか面白く思え笑顔になれた。伯父さんと母ちゃんはやっぱり兄妹なんだなぁ。


 「それでは私はそろそろノーザンの町へ向かいます。甥の事、宜しくお願いします」


 伯父さんはサーロスに頭を下げ、僕に必ずまた会おうと言い宿屋の方へ向かった。


 「さて、少年!それじゃあサインスまで行こうか!」


 「はい!宜しくお願いします!」


 伯父さんが去った方向とは逆の方向に僕達は歩き出した。




 ダンスンザからサインスまでは約一ヶ月程の道のりとなる。かなり長い旅だ。いくつかの村や町を経由し、食糧などを補充しつつ向かう予定。


 ほとんどが平原だったノーザンからダンスンザまでの道のりと異なるのは森を抜け、河を渡り、山を越え、険しく危険な場所を通らないと行けない事だった。


 魔物、時々山賊ないしは盗賊、って感じで出会う確率は高いらしい。魔物は、まぁ、あれだけど、山賊とか盗賊は、ちょっとなぁ......。





 「あれ?なんでお兄ちゃんがいるの?」


 「おおっ、起きたかメルル。昨日、少年とサインスに向かうと言っただろう?」


 ダンスンザを出てからしばらく、暗かった辺りも顔を出した日の光に照らされ明るくなっていた。


 陽の光にあてられてなのか、サーロスに抱かれたまま目を覚ましたメルルは横を歩く僕に気づいて驚いていた。


 「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


 「お兄ちゃんだぞ、メルル。良かったな!」


 サーロスに抱かれたまま目の前の僕に全力で手を振るメルルとその姿に喜ぶ獣人さん。なんだかとっても微笑ましいな、この親子。


 メルルはその後もお兄ちゃんを連呼し、サーロスもその度、良かったな!お兄ちゃんだぞ!と答えた。


 「メルル、良かったな。お兄ちゃんにまた会えて......あれ?そういえば少年、名前を聞いてなかったな。名はなんと言う?」


 「ネールと言います」


 「ネールか!分かった!改めて、俺は、サーロスだ。よろしくな!」



 name:サーロス・ガント

 age:28

 job:狼浪士 (42/100)

 lv:36

 exp:22400/329500

 skill:剣術lv.4 格闘術lv.4

 HP 490/490

 MP 20/20

 STR:174

 VIT:183

 INT:42

 RES:38

 AGI:140

 DEX:90

 -人物詳細略-



 獣人は総じて身体能力が高く、それに応じたステータス値の項目が特化しやすい設定だった。


 サーロスもパワーやスピードに関する能力が高い。これらは獣人特有のジョブが影響している。


 獣人はジョブの変更が出来ない。獣人の殆どが浪士や准士で、それらは獣人専用のジョブであり、ジョブの前に種族由来の動物名が付く。サーロスは狼浪士なので狼種の獣人のようだ。


 《主を失った、哀れな獣》浪士や准士のジョブにはそういった意味が込められており、ゲームにおいて獣人は神よりある種の呪いを受けた存在だと設定されていた。


 これらのストーリーが深く語られるのが『デムナ戦記』続編で獣人が主人公となる『デムナ戦記2』だった。


 僕は冒険者ギルドでサーロスが護衛を受けてくれる人物だと知りすぐに鑑定した。能力値は高く、初めて会った時からの印象を鑑みてぜひサーロスに護衛してもらいたいと思った。


 それにしても、まだ28歳だったのには驚いた。だってどう見たって顔はおっさんだもん。色々と苦労してきたの、かも?それともただ老けてるだけ?知らんけど。

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