第12話

 ゲーム内でレベルを上げる為の経験値を獲得する方法は2つ。


 ・魔物を倒して経験値を得る。

 ・訓練施設でキャラを預け経験値を得る。


 訓練施設で訓練すると時間はかかるし得られる経験値も微妙だけど、いきなり魔物との戦闘は怖いので、訓練すれば経験値が貰えるのであれば試したい。


 とりあえずランニングしたり筋トレしてみたり剣に見立てて木の棒で素振りしてどの程度の経験値が得られるか確認しようと思うのだけど、その前にしないといけない事がある。


 サファイアピアスの装備だ。


 父ちゃんと母ちゃんの農作業の手伝いを終えて昼過ぎ。畑の横の岩に腰掛け、ピアスを手に持ち悩んでいた。


 ピアス......。


 前世を含め、ピアスなんてつけた事がない。痛そうだ。


 だって耳に、身体に穴を空けるんだよ?


 正気の沙汰とは思えない!


 思えないけど、流石にレベルを上げるのに経験値取得5倍の効果を付けないのは効率が悪すぎる。ただでさえジョブが農民の、非力な子供なんだから。


 サファイアピアスを見るとシンプルなポストピアスでポストの部分が尖っていない。これだとピアス自体を耳に突き刺さす事が出来そうにない。


 針か何かで一度耳に刺して、針を抜いて空いた穴にピアスを差し込まないと駄目ってこと?


 刺して、抜いて、差し込む、の工程を想像したらゾッとした。


 ひぃー!無理無理無理!僕には無理だよ!


 「何やってんだい?あんた。ん?何、持ってんだい?」


 うーん、うーんと悩んでいると母ちゃんが不審そうな顔で声を掛けてきた。


 やばっ、ピアス見られた!


 「あんたそれ、ピアス?どっからそんなもの持ってきたんだい?...もしかして盗んだのかい!?」


 「ち、違うよ母ちゃん。ひ、拾ったんだよ......」


 「拾ったぁ?ほんとにぃ?」


 「ほ、本当だよ!」


 「まぁ、うちの村でピアスしてるのは私だけだからねぇ。私もそんなピアス持ってないし。でも、そんなものが、こんな田舎に落ちてるなんて不思議だねぇ」


 実は母ちゃんをはじめこの国の人は結構ピアスしてる人が多いようだ。なんでも魔除けの意味があるらしい。村では母ちゃんだけみたいだけど。


 「で、あんたさっきから何やってんだい?もしかしてピアス付けたいけど付け方がわかんないのかい?」


 「付けかたは分かるんだけどさ、その......」


 「ははーん。さては穴を空けるのが怖いんでしょ?」


 「こ、怖くないよ!」


 「ほんとにぃー?」


 「ほ、本当だよ!」


 「そうかい。じゃあちょっと待ってな」


 ニヤリとした母ちゃんが家に入って、すぐに戻ってきた。


 手に裁縫用の針を持って。


 ま、まさか!


 「あんたも年頃だからねぇ。ちょっと早いかもしれないけどオシャレする事は私はいい事だと思うよ。魔除けにもなるし」


 母ちゃんが僕の片耳をグイッと掴んだ。ニヤニヤしながら。このドSめっ!


 「や、あ、あのさ母ちゃん。今日は付けなくていいかなぁー、なんて。た、体調も悪いし」


 「ほんと男ってのは怖がりだねぇ。目を泳がせてるところなんて父ちゃんそっくりだわ。いいから私にまかせな!」


 ゆっくりと針が顔に近づいてくる。


 ぎゃあぁぁぁぁー!!!


 この日、無事にピアスを装着できた僕だが、装着時の恐怖に精神が削られ、訓練は明日からにする事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る