第27話 ギャルと姫とワールドブレイク

・現在のプレイヤーの状態

レベル:75

HP:10/100

MP:60/60

最大スタミナ:380

武器:右手【ロングソード+8】(エンチャント適用中)、左手【ナイトシールド】

防具:頭【なし】胴体【姫のドレス】腕【姫の手袋】足【姫の靴】

アクセサリー:【逆転の指輪】(効果発動中)

所持アイテム:【エンチャント・雷×1】【ショートボウ】【自血刀】

装備重量:28%

攻撃力:380

防御力:ダメージ5%カット

所持金:118,193G

保持経験値:100,942デッド



 準備も整い改めて大扉を開いた。

 すると……。



「これ、なに?」



 目の前は完全に真っ白な空間が展開されていて、芝生になっている床のみが存在している。

 はある、そんな状況だった。



「よし、冷却装置ラジエーターが間に合ってないっぽい☆」



 その言葉と共に、じわじわと白い空間からまずは芝生の床を円型に覆う城壁が、続いて、窓が、ハシゴが、城塞の上大砲が………………。

 と順々に現れ出した。まるでゲーム内オブジェクトそのものを読み込んでいる途中のよう。



 ――あっこれ、そういうことか。



 ゲーム機本体をホットプレートで温めることで機械としてのパフォーマンスが全面的に低下してて、んだ。

 だから本来は直ぐにバトルフィールドが読み込まれてそのままボスの出現するという処理が、全然進んでない。



「ね、ねぇ〜? これってそもそも戦闘始まるのぉ〜?」



 それこそこんな根本的なレベルで心配になる光景。

 


「大丈夫大丈夫、再現性は高いから」


「ほ、ホントぉ〜?」



 困惑する私を尻目に、オタクくん達はうんうんと首を縦に振って頷いている。勝手に自分達だけで理解しないでほしい。

 いやでも、これはゲーム機をひとつの星とした場合、今この“リビコン”という土地は星全体で起きる火山の大噴火の中でメッタメタに荒んでいるとも言える状況。


 しかも実際には色んな島で似たようなことが起きていて、星自体がいつ崩壊するかも分からない状態で無理矢理動いているのだから、不安にならないワケが無い。

 でも、私は風菜を信じる。何度も重ねて言うけど、ここまで来れたのは全て彼女のおかげだから。



「まっいっか♡ やるだけやるわ♡」


「じゃあ、5秒ぐらい真っ直ぐ走って待機しておいてね☆」



 それから、アニ研メンバー全員が指示に従いつつ1分ほど待つとボス戦のフィールドが全て読み込まれた。

 すると、ちょうど私の足元付近の床に真っ黒な円が現れる。

 その瞬間、マッシュがこう言った。



「囲んで棒で叩きますよ!」


「そーいうこと☆」



 その言葉を前に風菜が真っ先に同意した。

 であれば、残りの2人も……。



「やってやろうぜ、姫!」


「俺達の美技に酔いな!」



 言われてみればさっき1回ここへ来た時と違い、〈リビングデッド・エンペラー〉が出てこない。

 要するに、これはエネミーそのものが中途半端にしか読み込めていないために床が円状に黒く染まるだけな状態で、同時にこの段階での攻撃は普通に通じるということなんでしょうね。


 つまり、HPバーが表示されていないだけで今の段階で攻撃をすれば一方的にダメージを与えられる!

 私は【ロングソード】に【エンチャント・雷】を使用した。〈リビングデッド・エンペラー〉に弱点属性はないけど、ダメージを十分に増やせる。そこから続けて、スタミナの限り一心不乱に雷を纏う直剣を振り回す



 451ダメージ! 454ダメージ! 457ダメージ! 468ダメージ! 461ダメージ!



 ヤーギュウに憑依するマッシュは手に持つ【刀】を、



 184ダメージ! 179ダメージ! 196ダメージ! 188ダメージ! 190ダメージ!



 ハートゥ=カナダに憑依するガイアは木製の【魔女の杖】から【マジックランス】という光の槍を飛ばす魔法を、



 243ダメージ! 254ダメージ! 249ダメージ!



 ミマ=ゴウに憑依するオルテガは手に持つ【メイス】をかち上げ続けた。



 181ダメージ! 184ダメージ! 172ダメージ! 179ダメージ! 180ダメージ!



 全員で無をタコ殴りにしてる中で、ようやくボスそのものを読み込めたのか黒い円からゆっくりと〈リビングデッド・エンペラー〉が視界のHPバーと共に出現する。

 なお、出現する間も勿論ダメージが入るので攻撃の雨は止まない。


 そして、出現モーションが終わった頃には〈リビングデッド・エンペラー〉のHPは半分にまで削れていた。

 ボスが登場するまでの間にダメージを与えてしまうなんて、風菜の戦い方は相変わらず敵に対して容赦がないわね。

 どのボスも最大HPはNPCを含む“従者”の数だけ割合で増える上に元の最大HPが非常に多いみたいで、これだけやってもこの程度しか削れないのは当然のことらしいわ。



「ぐわああああああああ!!!!! 急に意識が途切れたと思ったらめちゃくちゃ痛てええええええええええ!!!!!!!」


 

 そうして、ついに姿を表した〈リビングデッド・エンペラー〉。

 中にいるチャラ男が悶えてけど、この場に登場して自分の意思が〈リビングデッド・エンペラー〉に入り込むまでに受けたダメージから来る痛みが全て一斉に襲いかかってきたのかしら?

 でも、まだ前半戦が終わっただけ。勝負は続く。



「これ以上殴るのは流石に命がやばたにえんだから一旦下がって! 後、今からウチの賭けたが成功したのかを判断したいから様子見でお願い!」



 風菜がそう言うと、アニ研部員全員が〈リビングデッド・エンペラー〉から距離を取った。

 様子見とのことだけど……答えはすぐにわかった。



「なんでだ、体が勝手に動く! 自由が効かねぇ!」



 チャラ男が何か言いながら、〈リビングデッド・エンペラー〉は早速手に持つ大鎌を縦に振りかぶることで、漆黒のオーラを纏う斬撃を飛ばしてきた。

 対して風菜は非常にご機嫌な表情を見せこう言い放つ。



「賭けは大当たり! とりあえずみんな避けて☆」



 見ている限り、チャラ男が不自由を訴えているのは風菜の狙い通りなのかしら?


 

「なるほど、ゲーム本体への負荷でチャラ男の操作に大きなラグが生じていて、その結果本来の〈リビングデッド・エンペラー〉のAIを起動させて対人戦が苦手なウインド氏が対応できる動きだけをさせたんですね!」


「最近のギャルって凄ェ!」


「でかした!」


「そーそー、そういうこと☆ マルチプレイにしたのもよりデータを読み込みにくいように負荷を加えるスパイスって感じ☆ でも、確実性はないからギリギリまで上手くいくかチョー心配してたんだ〜」



 賭けの正体を解説してくれたマッシュ。

 でも、話の通りなら…………風菜の指示に合わせて私の戦場音符バトル・ノーツを掛け合わせれば勝てる勝負になったってことね!



「理解してきた♡ それじゃ風菜ちゃん、指揮官として指示しまくっちゃって♡」


「まあいい、〈リビングデッド・エンペラー〉は経験者すら苦戦する最強のAIが積まれたボスだ、俺が操作するより下手したら強い気がするぜェ!!!」



 あらあら、チャラ男ってばとんだ勘違いをしちゃっているようね。

 決められた動きしかできないゲーム用AIを相手にする2がどれだけ強いのかを思い知ってもらわなきゃ!



「姫チーは左に緊急回避しながら接敵して早速弱攻撃! オタクくん達は下手にヘイトを稼いで死んだら意味無いから城壁を昇ってとにかく大砲を撃ってて!」


「はぁ〜い♡」


「「「おう!」」」



 早速風菜の指示ノーツが飛んできたので、それに合わせて私は動く。

 私へ向けて大鎌を縦に振りかぶり、黒い斬撃を放ってきた中、見事に回避して【ロングソード】による一刺しを決めることに成功する。



 452ダメージ!



 一方オタクくん達は城壁のハシゴから頂上にまで登り、それぞれに配置されてある3つの大砲の前にまで移動していた。



「次は僕達の番です!」


「なんとぉー!」


「ツイストサーブ!」


 222ダメージ!


 225ダメージ!


 234ダメージ!



 城壁から放たれる大砲の爆薬が直撃した〈リビングデッド・エンペラー〉は怯みこそしないが確実にダメージを食らっている。



「とりま1回回避☆」



 それでも攻撃の狙いは私から変わらないのか、大鎌を両手で持ち上げて思いっきり振り下ろしてきた。

 勿論回避は余裕で間に合ったけど。


 多分大砲部隊に私が参加しない作戦なのは、〈リビングデッド・エンペラー〉が遠距離攻撃に長けていて下手に距離を離して攻撃を食らうからって理由だと思う。本来のラスボスである〈ノーライフキング〉はともかくこいつ相手にはソロだと実質的に使えないギミックというか。

 でも、私がここで戦っている限り私だけを優先して攻撃するAIのルーチンに見えるし、後方のオタクくん達は一方的に砲撃し続けられる。

 ある意味じゃ〈玉藻の後〉戦の再演になっているわね。



「お、お前ら、リンチとか卑怯だぞ!」


「リンチ? 協力プレイ友情パワーって言って欲しいな〜♡」


「ウチの愛情もこの攻撃にこもってるよ☆ おっと、2回前に緊急回避ローリングしてから弱攻撃3回、それから直ぐに歩いて距離を取りながらスタミナを回復させてね☆」



 続けて指示ノーツに合わせながら立ち回ると、大鎌を2回横薙ぎに振り払ってきた。



 444ダメージ!


 456ダメージ!


 426ダメージ!


 

 それを躱しつつ直剣を振りまわせば確実にダメージを入れられる。

 やっぱり、こういう場面だと風菜とは一心同体で戦えるから楽しい。

 そうよ、踊れる、私はお姫様として踊れる。風菜の指示ノーツの全てが心地よく、〈ノーライフキング〉の攻撃を完全に見切りながら攻られるのは楽しくて楽しくて仕方がない。



「第二陣、発射!」


「チャラ男だけを殺す機械かよ!」


「ドライブB!」


 224ダメージ!


 236ダメージ!


 225ダメージ!



 そしてまた降り注ぐ砲弾の雨。

 アニ研メンバーとそれを指示するオタクに優しいギャルのコンビネーションは正しく完璧なモノね。



「待て、待て、このままじゃ負けるんじゃねぇか!? 裏ボスなんだから頑張れよォ!」



 なんか言ってるけど、ざまぁみろって感じね。



「今戦ってる姫チー、今日1番の笑顔だよ」


「だってぇ、“リビコン”って楽しいなぁって改めて思えたんだもん♡」


「いいじゃんいいじゃん! もっと飛ばしてこう! じゃ、ダッシュで後ろに回ったら3回弱攻撃入れて☆」



 指示ノーツに合わせて動くと、〈リビングデッド・エンペラー〉は大鎌を杖のように天へと掲げながら、広範囲に拡散する散弾のような闇の光線を放った。

 しかしその攻撃は自分から見て前面を覆い尽くすのが限度であり、攻撃が発動するまでに背後に回った私の前には無力。



 327ダメージ!


 341ダメージ!


 344ダメージ!



 ちょうどエンチャントの時間が切れたのかダメージは下がるっちゃったけど、【逆転の指輪】のおかげで大砲と同格のダメージは出せている。

 それに、私が攻勢に回ってるということは……!



「第三陣、いけぇー!」


「ゲームオーバーだ、ド外道!」


「零式ドロップ!」



 放たれる3回目の砲撃。



 234ダメージ!


 233ダメージ!


 235ダメージ!



 その攻撃を前に、〈リビングデッド・エンペラー〉は怯んで膝を着き出し、残りHPも10分の1を切っている!



「正面に回って弱攻撃してみて、それで終わるから!」


「任せなされてぇ〜♡」


「やめろ! やめろ! やめろ! 今攻撃するのだけはやめろー!!!!!!」



 そして、指示ノーツを実行に移すと――私の体が勝手に動きだした。

 【ロングソード】を振り上げると私はジャンプし、〈リビングデッド・エンペラー〉の頭上にまで飛び上がる。

 そのまま頭部に向かって剣を振り下ろし、落下の勢いで足元までバッサリと切り裂く。



 647ダメージ!



 正しく、縦一文字斬たていちもんじりだ。

 その攻撃で、〈リビングデッド・エンペラー〉は真っ二つに別れ、左右の部位に別れて倒れていく。



「ギャァァァァァァァァァス!!!!!」


「すごい……勝てたぁ♡」


「ナイス姫チー☆」



 どうにもこれはこのボス専用の特殊演出で、相手のHPが瀕死になるとこちらから絶対にトドメを刺せるダメージを与えることができるって仕様みたい。

 強いからこそ、こういう調整でを出すのはゲームとして大事よね。



「ごめん、まだ終わってない! オタクたちはその場で待機して、姫チーは今から猛ダッシュで城壁のハシゴを登って!」


「えっ、あっ、うん♡」



 それから数秒時間が経つと、風菜も若干達成感で気が抜けてしまったのか唐突に思い出したと思われる少し遅れた指示ノーツが飛んできた。

 でも、私はそれを“マジパラ”の音符ノーツだと認識できるから、対応するのも容易い。タンッ! と流れてくる音符ノーツに対応したボタンをその場で押すだけ。



「待って〜♡ 何が起きてるのぉ〜?」



 それから必死に走って、ハシゴの柵を掴んだあたりで、何となく振り向くと異変が起きていた。



 ――――なんと、さっきまで芝生だった床が真っ白に染まっていたのだ。


 それこそ、床というデータを読み込めていない状態。



「なーんちゃって! このボスは第2形態まであるんだなぁ、これが!」



 床の状態に気づいてすぐ、チャラ男の声が耳に響いてきた。

 なんでそんなノリノリで悪役やってるのよこいつ。

 視界には新しくボスのHPバーが表示されて、そこには〈成れの果ての修羅〉と表記されている。


 少し空の方を見上げれば、空から刺々しい、それでいてシャープな漆黒の鎧を着た何かが落ちてきた。

 顔も見えない、まさしく戦いの事だけを考え無言で襲いかかる甲冑纏いの狂戦士ベルセルク

 放たれるは覇気。それを目にした人間は真っ先に威圧感を覚え恐怖心に駆られてしまう。


 何となく分かる、〈リビングデッド・エンペラー〉はこの強大な修羅の化身の存在を隠匿するための番兵に過ぎなかったと。

 まさに、その姿を見ただけで畏怖してしまうようなボスだ。



「これ……どうする気なの……」


「まあまあ、見てればわかるよ」



 真なる最後の敵を前に威圧感から来る恐怖心に蝕まれる私に反して、風菜は――なんならオタクくん達も平然な態度を示している。

 その姿を見ると、私もなにか安心感を覚えてきた。何が起きるのか予想までついたから。



「えっ」



 そう、〈成れの果ての修羅〉は地面に着地することはなく、

 真っ白になった床は既に地面ではなく、ただの底のない穴。

 チャラ男が憑依した〈成れの果ての修羅〉のHPが……………………0になり即死した。落下死した。

 それだけのこと。



『撃破:成れの果ての修羅』


『入手:150,000デッド、100,000G』



 もはやチャラ男本人すら何が起きたのか分からない様子で、ドラマのない死とはこのようなことを指すのだと考えさせられてしまう。

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