第22話 姫とギャルと連戦連勝

 〈メリモ〉と〈マラム〉、そして巨人の〈メリモマラム〉を倒した私達は、戦闘フィールドだった崖の道から先へと移動していっていた。



「次はどんな感じ?」


「ダンジョン自体は対したことないよー」


「あー、思い出した思い出した♡」



 何がともあれ、暫く道なりに進むと洞窟を抜け、新たにダンジョン名が表示された。



〈達人との決着〉



 背景は夜の野原で、3mにも伸びた草が壁として処理されていてプレイヤーが歩く道は一本道になっている。

 もしやと思って触ってみたけど、ゲームでそうだったように草そのものは触れられなかった。何か見えないバリアに守られていて干渉不能だ。



「何この硬い草、ワロタじゃんw」


「風菜ちゃんの変な笑いのツボだ♡」



 現実のようでゲーム的処理が行われるこの世界に対して、ちょっと喉が掠れたような笑い方をする風菜を可愛らしいと思えた。

 いつの間にか風菜と一緒にいる時間がもっと長く続いて欲しいって感情が自分の中で強くなってきている。だからこそ、ここから先も絶対に生き残って人生単位で引き伸ばしてやるんだから。



***


 暫く真っ直ぐ歩いていると、目の前に2m程の大きな背で筋肉隆々な体質、加えて腕が4本あるパンツ1枚で歩く巨漢が先の道で待機しているのが見えた。エネミー名は〈タティーノ〉だった気がする。

 移動する中でじわじわと距離が詰まっていくと、目が合ったのかこちらに気づいて走ってきた。



「とりま何も気にしないで草……壁沿いを走ればスルーできるよ」


「はぁ〜い♡」



 だが、全体的に動きが単調でノロマなのかすれ違いざまに2秒ほど待機してからようやくの攻撃で、もはや緊急回避もしないで走り抜けられてしまった。

 何がしたかったのよ、こいつ。


 ちなみに、このダンジョンに配置されている雑魚エネミーはこいつ1体だけで、一応中ボス的な立ち位置ではあるんだけど〈大天使〉と違って道を塞いでいる訳でもないから戦う理由は特にない。

 〈達人との決着〉がボス戦だけに集中して欲しいという設計なのは私みたいな素人でも1発でわかる。つまりは、とりあえず建前上エネミーを1体だけ配置したダンジョンした結果があのノロマな雑魚。



「あ、ここがゴールなのね♡」



 それから大体30秒後、“屍石”が配置された草に塞がれている広間へと到着した。

 近くに鳥居みたいなゲートが配置されていて、そこから先にはバトル漫画の大会編に出てきそうな正方形の土俵らしきものがある。つまりはゲートをくぐればボス戦という構造ね。

 私はとりあえず、〈メリモとマラム〉戦で得た経験値を使ってしまいたいので、“屍石”に触れることにした。



「相談なんだけどぉ、そろそろスタミナ上げなくても安定して戦える気がしてきたのは気の所為?」


「よく気付いたね姫チー。スタミナは大体38以上は上昇率悪いから極振りするにも

そので打ち止め安定なんだよ〜☆」


「分かった〜♡」



 多分アクションRPGのステ振りの話題でこんなキャピキャピはしゃいでる女子2人組とかこの世に私達だけでしょうね。冷静に考えると馬鹿じゃないかしら。

 まあでも、そういうところからお互いの関係に唯一無二の特別性が生まれる要な気もするし何かいい気分ね。


 あー、もう、本当に好きになっちゃったんだなぁ……。



・現在のプレイヤーの状態

レベル:65

HP:10/100

MP:60/60

最大スタミナ:380

武器:右手【ロングソード+8】、左手【ナイトシールド】

防具:頭【なし】胴体【姫のドレス】腕【姫の手袋】足【姫の靴】

アクセサリー:【逆転の指輪】

所持アイテム:【エンチャント・雷×2】【エンチャント・闇×1】【ショートボウ】【自血刀】

装備重量:28%

攻撃力:330

防御力:ダメージ5%カット

所持金:68,193G

保持経験値:88,966デッド



 で、今回上げられるのは6レベル。確実に1歩1歩と要求経験値がキツくなってきてるわね



HP(ヒットポイント):12

MP(マジックポイント):8

ST(スタミナ):38

STR(筋力):27+3=30

DEX(器用):27+3=30

MAG(魔法適性):14



 とりあえず雑にこんな感じでいいんじゃないかしら。



『現在攻撃力:360』



 うん、地味だけど上がったわ。



「おお、いい感じ」


「ちょっと棒読み気味なのは何♡」


「ごめーん! 普通のステ振りで感想に困ってた!」


「素直に答えてくれるならよろしい♡」



 準備は完了。事前に【自血刀】を振ってHPを削り、残っていた【エンチャント・闇】を使用した。相変わらず、ボスの弱点属性にもなっている。

 なら後は、ゲートをくぐってボス戦の開始だ。

 ちなみに、今回は後々語るボスの背景もあって“従者”は呼べない。



***



・現在のプレイヤーの状態

レベル:71

HP:10/100

MP:60/60

最大スタミナ:380

武器:右手【ロングソード+8】(エンチャント適用中)、左手【ナイトシールド】

防具:頭【なし】胴体【姫のドレス】腕【姫の手袋】足【姫の靴】

アクセサリー:【逆転の指輪】(効果発動中)

所持アイテム:【エンチャント・雷×2】【ショートボウ】【自血刀】

装備重量:28%

攻撃力:460(エンチャント適用中)

防御力:ダメージ5%カット

所持金:68,193G

保持経験値:942デッド



 正方形の土俵の上に立つと、視界が思うようにコントロールできなくなる。ムービーの時間だ。

 空から何かが飛んできたかと思うと、リングの中央に1人の人物が右膝を着いて左足を伸ばし、左手を握って地面に叩きつけながら着地する。まるでヒーロー映画のように。


 その人物はなんとポニーテールの女性で、1m80cmはある高身長なのもそうだが、胸に巻いたサラシと下半身は長袖の道着な衣服ファッションで、しなやかな美しい肉体が輝かしい。


 しかも女性でありながら割れた腹筋が割れており――女性の腹筋は男性よりも割れにくいので通常倍以上の鍛錬の時間は容易に想像できる――正しく武術の達人なのだと理解するのは容易い外見だった。

 なんていうか、こういうスタイルって憧れちゃうわよね。肌も綺麗だし。いやお姫様願望の女の子としてはあのレベルに体を引き締めるところまでやる気なんてないけど。


 そうして、ムービーは終わる。

 ボスの名は〈達人〉。

 実はスキップした2個前のダンジョンでもボスを務め、ここでは本気を出してプレイヤーにタイマン勝負を挑んでくるのだけれど、相変わらずバグでワープしたせいでそれも台無しなのは笑えちゃうわね。


 ストーリー的には悪夢の試練を乗り越えた“屍人”は、かつての強敵と拳を交えるっていうカッコイイ内容なんだけど……。


 

「風菜ちゃん、、任せたわよ〜♡」


「オッケー、こいつは1番好きなボスだから楽しみだったんだ。バイブス上がりまくりって感じ‪☆」



 なお、このボスは基本四肢による徒手空拳で攻撃してきて、連撃から重たいガードを崩してくる技まで多種多様な攻め手に加え、攻撃後の隙こそ多いものの油断してこっちが攻めているとカウンターで蹴りばしてくる油断ならない動きをしてくる。

 落下死と2対1の理不尽さが厄介だった〈メリモとマラム〉に対して、こちらはとにかく行動パターンを覚えて的確に守って攻めるを繰り返すしかないタイプの正統派な強ボスだ。


 でも、今回は戦場音符バトルフィールド・ノーツに覚醒した私とそれを指揮する風菜がいる。

 最強の2人にとって、怖いものなんてないのよ。



「最初はタックルしてくるからガード! そしたら1回弱攻撃!」


「こうね♡」


 438ダメージ!


「そうしたら直ぐに後ろに回避ローリングして、スタミナを回復させながら距離を取って!」


「はぁい♡」


「次はタックルからの連撃だから、1回横に回避ローリングしたら後ろに回って連撃をスカしている後ろを狙って3回斬る、その次絶対に横に回避ローリング!」


「よ、はっ♡」


 439ダメージ!


 437ダメージ!


 446ダメージ!


「うわっ♡ ホントに蹴りが飛んできた♡」


「でもそれこそがチャンスだから、2回斬って直ぐにガード!」


 434ダメージ!


 440ダメージ!


「連撃が来るからガードで受止めて♡」


「とりま1回強攻撃☆」


 467ダメージ!


「直ぐに怯むから、最後に残ったスタミナで弱攻撃をラッシュラッシュラッシュフィーバー!」


「ムズムズリズムでプリンセスターイムね♡」


 432ダメージ!


 444ダメージ!


 425ダメージ!


 447ダメージ!


『撃破:達人』


『入手:100,000デッド、50,000G』



 風菜の出す音符ノーツに合わせて動いてたら、いつの間にか達人が仁王立ちのまま体の肉が焼けていく朽ち果てていく形で消滅していった。

 戦いは非常に楽しく、“マジパラ”で言う高レアのコーデが排出されるプリンセスタイムに入ったみたいな気分になっていた。本当はギリギリな勝負をしていたはずなのにむしろ余裕な気分。



「風菜ちゃん、よくあそこまで計算し尽くされた指示出せるわね♡」



 いや、でも、流石に風菜の“リビコン狂人”度合いは本物すぎる。

 恐らく今のステータスから発生するダメージ等を踏まえつつ、そこから乱数によるボスの行動ルーチンをすぐ様に計算して最適解を伝え続けていたのだとは思うけど……いったい、どういう頭の回転してるのやら。



「それだけ、この“リビコン”がやり込み甲斐のあるゲームってことかな✩」



 まあいいかな、あとはラスボスを倒すだけだし、この際最後まで“リビコン”の世界を風菜と一緒に楽しんじゃわないとね。

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