第20話 姫とギャルと覚醒の予兆

 それから道なりに歩いていくと、暗闇の中で光って存在をアピールする“屍石”を発見した。

 奥には石を繋げた輪っかのような形になっている通り道があって、そこを進むとボス戦になりそうな感じに見える。

 武器の強化もここで行うのでどの道無敵の安全地帯なのもあり直ぐに触れた。



「本当に【ロングソード】1本で行けるのね、このゲーム♡」


「槍とかでっかいハンマーとか色々振り回せるけど、今回は妥協してらんないからねー」



『【強化石・中】を5個消費、武器を強化しました』


『【強化石・大】を2個消費、武器を強化しました』


『【強化石・大】を3個消費、武器を強化しました』


『強化完了:【ロングソード+8】』



 武器の強化も完了した。



『現在攻撃力:330』



 攻撃力もステータス補正込みで以前の状態にエンチャントアイテムを載せたぐらいはある。火力が上がれば上がるだけ楽になるんだから、最終強化までできるチャートだと嬉しいのだけれど。

 まあ、レベルを上げられるほど経験値も溜まってないし、後はこの先のボスへは直行するしかないんだけどね。(というか、道中の雑魚エネミーを全てスルーしたので経験値は一切稼げてない)



「そうだ、次のボスも正当方で戦うタイプでバグ使ったズルできないけど大丈夫?」


「えっ」



 しかし、ボス戦の軽い詳細を風菜の口から聞いた私は少し狼狽える。

 理由は簡単。ここのボスに関してはこの世界に来た段階で実はやりたくないと心の底から思っていた相手だから。

 名は〈メリモ〉と〈マラム〉、2体同時に襲いかかってくる上に、何故かオフラインだとボス戦に連れてこれる“従者”がいないという謎のマゾ仕様。


 2体の攻撃を掻い潜りながら確実にダメージを与えるのはある種の消耗戦であり、時間と共に精神まで参ってしまう。他にも厄介なポイントはあるんだけど、これについては今は思い出したくないから一旦置いておく。

 コイツをバグで一方的に攻めて倒すことができない勝負は本気でやりたくないわ。心が全力で抵抗するほどには。



「ちょっと落ち着かせてもらえないかな♡」


「いいよー☆」



 風菜も私の気持ちを察してくれたのか、改めて休憩時間となった。

 うーうーうー、正直に言って本当にやりたくない!

 『ラファエル』戦で思い知らされたばかりだけど、私ってやっぱりできるだけ安全圏から相手をいたぶって楽するのが好きみたいなのよねー……。

 例えば風菜がラブホに連れ込まれかけたときも、距離取ってカメラに収めれば勝ちな一方的な勝負だからやれたところあるし、仲間ゲーセンの店員がいたから尚更安心感もあった。チャラ男を退学に追い込んだ時も結構楽しかったし。


 良くも悪くも卑怯で一方的な攻撃こそが私の戦い方。ゲームでも人生でも。

 今まで使ってきたバグって、そういう思考と一致した武器になってたのよね、実際問題。

 考え直してみると、なんでこんな高難易度ゲームを昔の私はクリア出来たんだろう。



「あーダメ、勇気が出ないわ」



 で、思い詰めたあまり、ボソッと呟いちゃった。

 まあこればかりは仕方がないわよね。人生単位で抱えてた自分の悪い所がハッキリしちゃったんだから。


 でも、死ぬのだけは嫌。


 私を殺していいのは私だけ、どれだけ愛する人が今後できたとしても、風菜がそんな立場になったとしても、それでも尊厳としてその考えを貫き通す覚悟がある。というかこの冒険の中で自然と考えが頭の中で固まった。

 だから、



「何か手があるなら生き残りたい。絶対に死ぬ気はないわ、それだけは伝えさせて」



 風菜にそれだけは訴えた。

 でもまあ、彼女の場合は私の何倍も何十倍も――いや、何万倍もこの“リビングデッド・コンティネト”のことを理解している。

 だから、ちょっと困った顔こそしたけど直ぐに落ち着いた表情を見せてこう答えを返してくれた。



「……思ったんだけど、なんていうか、ってあったりするんじゃない?」



 妙に引っかかる言い方をしてくるわね、このは……。

 でも、それは確かに丁度いい議題だった。

 考えてみれば、私自身そもそもライトな程度にゲーマーなのよね。

 だったら、あえてRPG戦い方だってあるはず。


 まずはそこから考えていこう。

 自分に対する質疑応答の時間よ。

 最初はこう、



『私が好きなゲームって何?』



 そんなものは決まっているわ。今の私を作ったとすら言える“マジパラ”よ。

 コーデを集めて己を着飾る筐体ゲームとして、そして、私を救ってくれたアニメの販促元であるソレにはお小遣いの半分を毎月入れている。

 その世界で肯定されたゆめかわなお姫様であること、それが新たな私のアイデンティティだ。

 よし、じゃあ次。



『今の私はどうなっている?』



 この質問を自分に提示した上で、発想を逆転させる。

 自分の立場の話じゃない、もっとシンプルな面だ。

 そう、リビコンの軽装防具のシリーズである【姫装備】を着込んでいるのよね。

 今の私はゆめかわなお姫様。

 ドレスを着込んだお姫様。


 なら風菜は?


 確かに、ある意味でなら王子様かもしれない。

 でも、“マジパラ”は女の子のための世界を書くという作風を守っている反面、男性キャラがあまりいない。そんな作品の主人公であり推しの『由夢ゆめひめか』にとって王子様なんていたかしら?


 ええ、いなかったわ。


 お姫様に王子様が必要なんてもう時代錯誤。彼女は私にとって共に戦うパートナー。そこに大きな意味があるはずなのよ。

 どんな時も、最後は自分の手で行動して道を切り開かなくちゃね。

 じゃあ、最後の質問。



《今からやるべきことは?》



 答えはひとつよ。

 私は私として、お姫様として、そして“マジパラ”ファンとして戦う。

 そうだ、ゲーム筐体の“マジパラ”のジャンルは流れてくる音符ノーツに合わせてボタンを押す音ゲーで、私は風菜から指示を貰ってそれに合わせて動いている。

 これって、ある意味同じなんじゃないの?


 慣れた“リビコン”プレイヤーが『“リビコン”は音ゲーである』と比喩的な認定をすることがある。

 だったら、ボス戦はその行動全てが1種の譜面で、対応して動きをとって攻撃を受け流しつつ見極めたタイミングで攻めるというのは、『状況に合わせた的確な操作という音符ノーツ』と考えることもできる気がしてきた。


 そう、こんなのある種の自己催眠。自分自身を改めてそういうモノだと受け止めればいいだけじゃないの。

 それなら、実は難しい話じゃなかったってことね。



「ねぇ、風菜ちゃん」



 今、この世界に来てから1番落ち着いている気がする。

 だから、より自然体な自分である姫モードを維持する方が身軽に、そして考えて動ける。ふざけているようで合理的なのね、私のアイデンティティは。



「何? 姫チー」


「逆に〜♡ 私への指示を全てこと細かく、それこそ風菜ちゃんが操作しているぐらいの感覚で言ってくれなーい?」


「マジ?」


「風菜ちゃんの指示は全部が音符ノーツってコト♡ つまり、私はリズムに乗ってボス相手に防御に回避に攻撃にってやればいいだけって解ったの〜♡」


「え、えぇ……」



 勢いで風菜から貰ったヒントに対して見出した答えを語ると、なんかすごいドン引きされた。

 よくよく考えれば彼女はギャルである事と“リビコン狂人”である事は並行していているだけで直列に繋がっているワケじゃないんだから、好きな物を過度に同列に語るのは意味不明でしょうね、うん。


 でもね、この2つのゲームのプロデューサーは同じなんだ。

 つまり、その共通点はボス戦のあり方なんだと解釈するのはそこまで暴論にはならないはず。



「あのね、“マジパラ”と“リビコン”は同じなの! このコーデ姫装備で戦うな

ら尚更!」


「まあいいや、姫チーがそう思うことに意味があるはずだし、変にしょげられるよりはマシっしょ」



 それに、風菜も風菜で私の思想を否定する気は元よりなくて、そういうゲームスタンスとして素直に受け入れてくれた。

 だったら次にすべき行動は決まったも同然。



「さ、ボス戦に向かいましょ♡」


「オッケー☆」



 そうして、現在地から奥にある石を繋げた輪っかな形の通り道を進んでいった。

 もちろんその途中で【自血刀】を振ってHPを1割まで減らしつつ、【エンチャント・闇】も使用した。

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