第11話 姫とギャルと引き撃ち
この〈天界〉というダンジョンは雲から雲へと飛び抜けて進行していくのが主な移動手段になる。
雲には必ず雲間を移動する為のジャンプ台が設置されていて、ジャンプ中は無敵時間が発生するんだけど、敵をスルーしながら突っ走る今回みたいなパターンだとこの無敵時間を如何にして駆使するかがボイントのダンジョンって感じ。
「さあ、やってやるわよ」
そんなワケで、早速ダンジョンを歩み出した。
浮遊する土地とも言える雲はA〜Eのエリアに別れていて、アルファベット順に移動することになる。最後のEそのものがボスエリアだと言えば手っ取り早いかしら。
最初に配置される場所は雲A。そこには、初期地点としての“屍石”と、最奥にはジャンプ台が置いてあって、これを踏んずけて移動すれば、本格的に攻略が開始する。
「うわっすっごい飛ぶわね!?」
「姫チー楽しそう」
ジャンプ台を踏みつけると、赤い帽子の配管工のおっさんが助走をつけてジャンプしたぐらいには飛び上がった。
風が気持ちいい反面高度の高さはちょっと怖い。
そうして辿り着いたのは雲B。
目立った施設がなくシンプルに雲の上であるんだけど、同時に槍を持った天使が3人同時に並んでいた。
そして、彼らは着陸と同時にこちらに気付き襲いかかって来る。
「あーもう、こういう初見殺しが1番嫌いなのよ!」
「ウチも流石にここのダンジョンの配置はバランス悪いと思ってんだよねー」
この雲Bは大体半径7m程の奥行きしかなく、まともに相手をすれば余程のことがない限り限りかえって押し切られてしまう。
「何がともあれガードして!」
風川から指示が来た。それに応え即座に【ナイトシールド】を前に突き出しながら構える。
対して、2秒後に3人の天使がまるで
今のスタミナなら十分に受け止めきれる。それに、ダメージもゼロ。このゲームは本当にガードが強いので頼りになるわね。その分防具が飾りなバランスだけど……。
しかもガードされたのが原因か〈天使〉達は3人揃って同時に仰け反った状態になった。
「本当は緊急回避で上手く避けるんだけど、スタミナがそれだけあるならガードしか勝たんって感じ」
「攻撃が来る前から構えておけてタイミングを選ばないのは確かに強いわね」
その隙を逃さず、瞬時に天使達の背後付近にあるジャンプ台まで移動し、思い切り踏んずけて次の雲へと飛び上がった。
全てのエネミーは雲から雲への移動が不可能って仕様で、つまるところジャンプ台にさえ乗ることができれば倒したも同然。
***
それで、辿り着いた先は雲Cは、雲の上に大きな真っ白で石造りの神殿があり、そこへ入っていくことで探索が始まる形式だった。
この神殿は体育館のように天井含めてだだっ広い空間で、左右に並んだ石柱が神殿の神秘性、そしてこの“リバーデス大陸”に神話のような世界が存在することを表現している。
「思ったのだけれど、ゲームのグラフィックとしてじゃなくて現実的な感覚でこういう神秘的な場所を歩くと……なんというか見惚れるわよね」
「マジわかる! このダンジョンは珍しくダークさがないから、ある意味
何となく私もここに関してはダンジョン構造を覚えている。厄介ながらエネミーは1体のみ。だったら、多少の雑談をする余裕が出てくるというモノ。
「あー、そろそろね」
もちろん、そんな時間が長続きすることはなかった。
何故なら、この神殿の奥には……強敵がいるから。
それは言ってしまえば中ボスで、先程上手く捌いた〈天使〉を片翼あたり2mにまで肥大化させた巨大な翼を持ち、武器は3mにまで伸びる大剣――いや特大剣とすら呼べる代物。軽々とそれを振り回す攻撃の数々は、まともに当たれば私みたいな初期体力状態だと一撃で死亡するほどに強い。つまり、ボス戦に匹敵する程のトライアンドエラーを前提としている強敵なのだ。
しかも、こいつを倒さなけれれば次の雲Dへは移動できないという撃破によるロック解除形式であり、スルーはできない。
「どう対処するの?」
「今回はしっかり準備できてるから大丈夫大丈夫」
そういえば消費アイテムを1種やけに買い込んでたけど、アレはこの時のための秘策だったってところかしら。
「とりあえずアイテムスロットにセットしておいたから、【火炎爆薬】を使いまくっちゃって」
「いきなりやっちゃっていいの?」
「なんとかなるなる。いけるいける」
〈大天使〉に狙いを定めた。
こちらの存在に気付いておらず棒立ちしている以上、絶好のタイミングだ。
そして、勢いよく全力で【火炎爆薬】を投擲する!
52ダメージ!
説明するタイミングがなかったけど、“リビコン”ではボスどころか中ボスでもザコ敵でも攻撃が命中すると現在HPゲージが見える仕様があって、今確認したら〈大天使〉のHPは大体1/16程削れた様子。
【火炎爆薬】は在庫的に弾切れになることはなさそうだし、悪くないダメージを与えられているわね。
「……!」
一方で、〈大天使〉はこちらへ向かって疾走し、追いかけてきた。
素早く距離を詰め、そのまま特大剣を大きく振り下ろす。
「後ろに引けばいいのよね」
「そう、とにかく引いてリーチから離れたら投擲を繰り返しせばOK☆」
話の通り、後ろに向かって
53ダメージ!
よし、何となく立ち回りも理解したわ。言ってしまえばとにかく引き撃ちを意識して逃げては投げてを繰り返せばいいのね。
多分、【火炎爆薬】にこだわるのは弓より攻撃時の硬直時間が短くて安定するとかそんな感じだと思う。
「ここ、広い割に他のエネミーがいなくて、しかも遠距離攻撃の手段がないから、このパターンならほぼハメになるよっ」
「一方的な暴力最高〜!」
そういえば、以前見たRTA動画だと初期装備のまま全ての攻撃を回避してガードして隙あらば攻撃してと気持ちよく倒していた気がする。
だとすると、あの最初のステ振りで変わったチャートが結果として面倒な勝負を避ける形になったみたいね。
52ダメージ!
54ダメージ!
49ダメージ!
51ダメージ!
(以外10回)
51ダメージ!
それからはとにかくひたすらに距離を取って、【火炎爆薬】を投げてやった。
結果、〈大天使〉はHPゲージが0になり、床に倒れるような動作を行うとそのまま自然と光の粒子を放ちながら消滅していく。
『入手:5,000デッド、1,000G』
「さあ、次よ次、この調子でガンガン行くわ」
「おお、姫チーやる気満々になってきたじゃん」
「なんていうの? バイブステンアゲ! って気分なのよ」
そろそろテンションがおかしくなってきた。
というより、同性の友達があまりいないせいでここまでずっと誰かと一緒に何かをなし得た経験がなく、その辺の慣れなさのせいで自分のためのブレーキをかけられなくなってきたのだと思う。
もっと言えば……ついていけなかった風川とのテンションの差も、私自身がじわじわと合わせられるようになってきたような気がする。
だから、この調子を崩さないでやっていきたい。そう思えてきた。
もちろん、私の心境なんてわざわざ風川には教えてやんないんだけどね!
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