第3章 BUGとLOVEでも踏める

第10話 姫とギャルと難解ダンジョン

 私は昔から卑屈で、臆病で、弱虫だった。

 人に嫌われるのが怖くて友達を作るのもド下手。

 だから、1人で没頭できるゲームだったりアニメだったりなオタク趣味が自分の中心になっていた。

 もし高一の夏のあの日、“マジパラ”に出会えなければ今の私はなかったと思う。


 女子アイドル達が切磋琢磨するファンシーでファンタジーなアニメの世界でゆめかわお姫様アイドルを目指す主人公〈由夢ゆめひめか〉の姿は私の心を動かした。

 人見知りなりにお姫様に憧れて、ゆめかわな世界を追い求め始めたほどに。


 “マジパラ”のおかげでSNSを初めて、なんだかんだ人と関わる機会も増えた。

 なにより、衣装を着せ替えできるコードの付いたカードを読み込まれてお洒落して、そしてまたカードを排出するカードゲーム筐体を販売促進するためのアニメであるため、それを遊ぶためのゲームセンター通いが日常になったお陰か外に歩く事が普通になっていって、嫌でも人と会話する機会が増えたからか人見知りもだいぶマシにはなった。

 以前よりも人に見られる事を意識するようになって、衣装とか化粧とかファッション関係のことを意識できるにまで成長までしたのよ、凄いでしょ?


 しかし、私は良くも悪くもオタク。

 〈由夢ひめか〉のことが推しキャラクターになっていくあまり、色々な感情が混ざり合い、エスカレートしていき、いつの間にか「ひめかちゃんみたいなゆめかわお姫様になりたい!」と思って衣装の傾向までそちらに寄ってしまった。

 実は、家が結構裕福なのよね。月のお小遣いも5万円超えててほぼバイトいらず。お年玉はその倍ぐらい親戚からもらえるしで貯金も結構溜まってる。


 だから欲しいものを手に入れることは難しいことでもなくて、気がつけば学校にピンクな衣装を着て登校するちょっとヤバい奴と化した。流石に己の姿に対して、恥ずかしいものだと客観視してしまっている自覚まである。

 でも、この服を着て、いつの間にか出来上がったお姫様な口調で喋っているときはどんどん自分から行動していけるようになった。だから、悪い事だとは一切持ってない。


 ドン引きされて女子から一切声をかけられないし男子は大体無意味にいびってくるけど、先生に授業の質問だったり勉強範囲について詳しく聞いたりと意識的に人と話せて成績も上がっていくから、昔の何も出来ない私よりはよっぽどマシだから。


 ちなみに“リビコン”をプレイした理由は“マジパラ”とプロデューサーが同じだから。

 全くもって同じ人の手によって生まれたゲームとは思えないけど、まあどちらも楽しい作品だから良しとしている。

 なんていうか、多才な人って感じ。


 そんな私は、紆余曲折あってオタクの男子3人が都合よく集まれる場所として成り立っている部活動のアニメ研究会に入った。

 自分なりに成長できたからこそ、次が欲しかった。それが理由。


 でも、じゃあ何をするかと言えば童貞な男共相手にお姫様ぶってワガママ言ってとコキ使うだけ。

 ソシャゲの周回を代理でやらせたり、ジュースを奢らせたり、勉強を手伝わせたり、無理矢理好きなアニメを見せたり、とにかく沢山構ってもらえる空間は本当に居心地が良い。もはや中毒と言える。


 少食なおかげか体型維持だって難なくやれていて、オタク共に外見で嫌われることもない。

 悪気はある。でも自分の中の良くない欲望が満たされ続けるその空間から卒業するのは、学生という消費期限に囚われた時間が終わるその日まで、ない。

 

 だから、誰かに恨まれて“リビコン”の世界で死ぬ運命にされたのも、多分どこかで自分が弄ばれていることを自覚したオタク共のうちの誰かのが原因なのだと考えている。

 死ぬのも痛いのも嫌だから絶対に足掻いてやるつもりだけど、その上でHPが0になって死ぬとき、素直に自分の罪を受け入れて諦めるかもしれない。

 なにせ、私の人生はその程度だったって話で終わるだけだもの。


 でも、今は風川が一緒にいる。


 こんな私であろうと手を差し伸べてくれる彼女を蔑ろにしたくない。だから、絶対に最後の最後まで生きることを諦めない。そう決めた。



***







・現在のプレイヤーの状態

レベル:47

HP:100/100

MP:60/60

最大スタミナ:260

武器:右手【ロングソード+5】、左手【ナイトシールド】

防具:頭【なし】胴体【姫のドレス】腕【姫の手袋】足【姫の靴】

アクセサリー:【逆転の指輪】

所持アイテム:【エンチャント・雷×2】【ショートボウ】【自血刀】

装備重量:28%

攻撃力:250

防御力:ダメージ5%カット

所持金:29,693G

保持経験値:104,002デッド



 第4の試練〈フィアーオブリボーン〉をクリアした私達は、〈リビングデッド・レジスタンス〉へ帰還した。

 アイテムを整えて次のダンジョンへ望むためにも、ここは非常に便利な場所である。

 今回は道具屋の“ヘンリー・フロッグ”から買い物をすることになった。


 彼は太ったおじさんな外見ながら、妙な言動もあってか人気のあるキャラクター。もちろん、顔は醜く焼き爛れてるせいで不気味だけど。



「hi(やあ、“屍人同胞”。私は使い捨ての道具を主に扱っている)」


「さ」


「I'm(品揃えには自信があるよ。さあ、好きなだけ私に貢ぎ給え)」


「め」



 そこで、風川の指示によって以下のアイテムを購入した。



『入手:【火炎爆薬×99】、【エンチャント・闇×3】』


『消費:12000G』



 前者は投げつけて爆発する手榴弾のような筒状の物体で、弓がなかろうが魔法を覚えていなかろうが炎属性のダメージを与えられる便利なアイテム。

 後者は第4の試練〈フィアーオブリボーン〉クリア後に入荷するエンチャントの系列で、恐らく次のダンジョンにおける弱点属性を突く形で活躍してくれるはず。



「Wi(またのお越しをお待ちしているよ)」


「し」



 わざわざおっさんの話を延々と聞きたくはないのよね。飛ばしちゃって問題なし。



「今回は購入したアイテムは近いタイミングで使うから意識しておいてね」


「了解したわ」



 アイテムの整理が終わったところで、ずっと感じていた疑問にいい加減答えが欲しくなった。なので、直ぐ風川に質問した。



「ねぇ、回復アイテムを拾ったことも買ったこともないけど、もしかしてこの攻略だと一切使う予定ないの?」


「そだよー、ダメージを喰らわないプレイなんだからまず要らないのもあるし、下手に持ってると使うことを前提に動いて油断しちゃうでしょ姫チー」


「……そ、そうね、そうだわ」



 答えは確かに合理的なものね。うん。


 いやいや、なんでそんな熟練の戦士みたいな理屈掲げるのよ!


 とその理由を前に突っ込みたくなったけど何とか抑えた。

 もうこれこそが“リビコン狂人”の確固たる思考なのよきっと。


 そして次は魔法を覚えることになった。

 魔法はこの〈リビングデッド・レジスタンス〉にいる魔法使いのテン・ネンシバに教えてもらうことができる。

 金銭Gを支払い、武器やアイテムと同じように購入する形で。つまり彼は守銭奴なのだ。



「A new(新入りの屍人か、俺は魔法使いのテン・ネンシバだ)」


「か」


「If you(金を払えば魔法を教えてやる。金がないなら用無しだ、それが俺のルールってことでよろしくな)」


「に」


『習得:ステルスボディ』


『ロスト:1000G』



 購入した魔法は体を透明にしてエネミーに気付かれにくくなる魔法だ。

 RTA動画に限らず、上手い人のプレイ動画では必ず見かける、敵を容易にスルーできる凄い便利なヤツ。

 配置を覚えた上で使うものだから1周しかしてない私は使ったことないんだけど。



「I'll teach you(また金が貯まったら魔法を教えてやるよ、そのときはよろしくな)」


「おかか」



 正直彼は常に偉そうにしていて、このゲームでいちばん嫌いなNPCだ。もう会話したくない。

 これで買うべきものは全て購入した。

 そう確信した時、風川がボロっととんでもないことを言い出す。



「あ、これ以降〈リビングデッド・レジスタンス〉で何かを買うことはないし、そもそも戻って来ないから」


「待って、どういうこと」



 ここはこのゲームの進行における拠点で、倒したボスに対応したアイテムが入荷したりと“リビコン”を攻略する上で最後の最後までお世話になる場所なのよ!? 意味わかんない!

 確かに私が見たRTA動画なんて3年ぐらい前の古い奴だから進行チャート自体が全然違うってことなんでしょうけど、自分の中の常識を壊される発言は参っちゃうわね。



「まあ、あとになれば意味もわかるって」


「もうあんたがそう言うならそうなんでしょうね」



 諦めよう、が来ないと教えたがらない……というか私の反応を見たがっているとも取れるし、命綱とも言える相棒なんだ、それぐらいの気持ちは尊重してあげるべきとすら言えるわ。

 そして最後に、レベルアップの時間となった。

 何がともあれ“屍石”に触れてしまおう。



「火力はあるに越したことはないわよね。なら、こんな感じかしら」



 今回上がるレベル振り分けられるステータスは10、バランスよく行かなければ。



HP(ヒットポイント):12

MP(マジックポイント):8

ST(スタミナ):26+4=30

STR(筋力):24+3=27

DEX(器用):24+3=27

MAG(魔法適性):14


 

「こんなもんでいい?」


「うん、姫チーも色々慣れてきたてチョー嬉しい」


「1周分はちゃんとクリアしてるからね」



 実は途中からずっと攻略サイトと睨めっこしていたのは秘密なんだからね!

 


***


 こうして準備も整い、次のダンジョンへと向かうことになった。

 目的地は第3の試練〈ドライオブヘブン〉。

 本当は第4の試練〈フィアーオブリボーン〉より先にこちらへ来る予定ではあったけど、逆の順番になった以上かえって楽にさせてもらえるはずよね。

 そうして改めて“屍石”に触れ、ダンジョンを選択し移動した。



***


〈天界〉



 ここは視界に表示されたダンジョン名の通り、雲の上に真っ白な建物が並ぶ神話の世界のようなダンジョン。

 “リバーデス”大陸に訪れた者達に対して、「神すらも敵になる」という絶望を与えるために存在するという設定背景を持ち、敵の外見も天使のように頭の上に輪っかが、背中からは白鳥のような翼が生えた〈天使〉というエネミーが中心として襲いかかってくる。


 だけど、ここの問題点は理不尽なまでに高い難易度にある。

 “リビコン”はシリーズ通して1対1を意識した戦闘を心がけるべきというゲームバランスなはずが、何かを間違えたかのように基本的に複数同時に襲いかかってくる。

 だから、初見プレイでのアイテムを全て回収しながらの探索は何十回というトライエラーと抱き合わせになるって感じ。というかなった。


 そんなダンジョンだからこそ、風川ならバグで楽にスルーできる手段を持ち合わせてくれているはず。



「ここではどんなバグを使うのかしら?」



 なので、私は意気揚々と質問をした。

 そうすると、同様に元気いっぱいの表情で風川はこう返事を返す。



「すっごいのがあるよ! 厳密にはバグじゃないんだけど。やっぱりここ天界では楽したいよねー」



 私がこのダンジョンに対してバグで楽をしたいって気持ちを読めてるとか、理想の彼氏か?



「あ、でも、しばらくはバグなしで進むから、真剣に攻略することになるけどいい?」



 今はなんて言うか、風川に対して信頼の感情が芽生えてきている。

 いつの間にか、彼女のことはちゃんと信じなきゃって思えてきたんだ。ずっと嫌っててもしょうがないわよね、今は尚更。



「当たり前よ、私はあんたなしには生き残れないんだから。色んな意味で」

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