0-2 千本鳥居を抜けて

 スマホで見た占いで何故かそんな気になりフラリと訪れたのは、普段はめったに行きもしないとある有名な観光地。

 少し登った山の中で会ったのは、色々と毛色が違うけれどすごく可愛い女の子で。

「帰り道がわからなくなってしまったので、すこし助けてくれませんか?」

 そんなふうに頼まれてしまった、俺は。


 ……あー。

 このあたり、奥は思った以上に深くて山の中だし、だんだん自分のいる場所がわからなくなったりするんだよね。

 しかも、今ここにいるってことは、夜歩いたのか。一昔前は人が多すぎて「ゆっくり歩くなら夜だ!」なんて言われてたみたいだし、それを真に受けたのかな。でも、慣れない場所ならそりゃ迷うよ。

 まぁ、俺もいろいろ似たようなものだけどね。日が登る前に来たのもそうだし、あまり詳しくないのもそう。ずいぶん前にいちど一周して筋肉痛になってからは、全然来てもいないんだ。


 だけど、さすがにここから戻るくらいはできる。

「ああ、道に迷ったんですね。

 でも、ここまで帰ってこられたのなら、もう大丈夫ですよ。

 それじゃ、案内しますから、一緒に行きましょう」


 俺の答えを聞いた彼女は、満面の笑顔を浮かべて。

「ありがとうございます!」

 俺は、その笑顔に思わずしばらく見入っていたんだけれど。


 じっとこちらを見る彼女の視線で我に返り、

「じゃあ、行きますか?」

 そして思い切って、彼女に手を差し出してみたら。

 一瞬の間のあと、ギュッと手を握ってくれたんだ。


 ヤッタね、占いバンザイ! これは今日は間違いなくExcellentだ、もう一日幸せな気分で過ごせそう!

 俺は彼女と手をつなぎながら、山を降りる。


「それで、どちらから来られたんですか?」

「え? あの、その……ちょっと説明しても、伝わらないんじゃないかな、とおもうんですけれど……」

 わざと話しやすいようにゆっくり歩きながら、さり気なくそう聞いてみると。

 ふむふむ、どうやらアメリカとか中国とか、メジャーなところではないのか。

 まあ、ヨーロッパの国だって名前を言われてもわからない所いっぱいあるしなぁ。EU加盟国も全部言える自信ないし。

 

「日本には、旅行ですか? それとも、留学とか?」

「えと、ちょっと様子を覗きに、といいますか」

「ふーん? なにか面白いものは、ありましたか?」

「そうですね……」

 俺がそう聞くと、彼女ななんだかイタズラっぽそうな顔をしてから。


「ありました」

「へぇ。良かったら、聞いてもいいですか?」

「それは、アナタです!」

「……へ?」


 彼女の答えに驚いて、足を止めてしまった。

 思わず、その顔をじっと見る。


「えへへ、やっぱりイイ人はどこにでもいるんですね!

 私、そう言う人好きですよ」

 などと、屈託のない笑顔で言われてしまえば。


「……お、おう。いや、はい」

 キョロキョロあたりを見回して、もう一度彼女の方を見る。くそう、やけに笑顔が眩しい。

 なんだよ、これ? もしかして悪質ないたずらで、どこかで笑いながら撮影してるやつがいるとかか!?

 でも、周りには他に誰かいる様子もない。

 だから、俺は照れ隠しもあったんだろう、

「あの、少し不用心じゃないですか?

 今から俺、人のいないところに連れ込んで乱暴とかするかもしれませんよ?」

 なんて、口にしてみるのだけれど。


「それにしてはエスコートが下手くそでした。

 あ、いえいえ。なんていうか、そう……自然な感じ! だから、そんな心配はしませんでした」

 ぐ、「下手くそ」て……笑顔で何気にヒドイこと言うな、この娘。

「本当になにか企んでいるなら、今そんな事言わないと思いますし。

 それに……これでも私、結構強いんですよ?」

 まあ、それでも巻き込まれるから犯罪は怖いわけで。「自分は結構強い」なんて、油断してると言ってるようなものだよなぁ。


 なんてことを考えてるなんて、おくびにも出さないようにして。

「それなら安心ですね」

 なんて答えておいたら。このお嬢さん、

「でも、アナタに会えたから、すごく安心できました」

 なんて仰った。

 それをその笑顔で言うのは、反則でしょう?

 ちくしょう、俺、なんだかドキドキしてきました。



 そのまま手をつなぎながら、下り道を進んでいると。

「わ、あれ何ですか?」

「ああ、上がる時に千本鳥居は通らなかったんですか?」

「千本鳥居?

 多重の結界にも見えますけれど……」

 おや、変な言葉が聞こえましたよ? もしかしてこの子、そっち方面のオタクな人なのかも?

 ああ、だからウィッグでカラコンなのか。じゃ、この服もなにかのコスプレ?

 だったら、この時間とはいえこんなところでするのはどうかと思うよ、さすがに。まあ、出会ったばかりだしウルサいことは言わないようにするけれどさ。


「へー、いろんなものがあるんですね!」

 鳥居を抜けたあと、キラキラした目で言う彼女がズルい。好奇心旺盛ってカンジで、これがまたカワイイよ、ホント。

「でも、ここは有名だと思ってましたよ。観光案内にも、たいてい載っていそうですけれど」

「観光案内! そんなものもあるんですね。これは、しっかりチェックしていかないと!」

「いやいや、普通チェックしてからくるでしょ?」

 俺がおもわずアハハと笑うと、彼女も一緒にアハハと笑いだす。


 そして話しながらゆっくり山を降りていけば、むこうに大きな建物が見えてきたのだった。

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