偶然出会った女の子と街歩きをすることになりました
めぐるわ
はじまりは、南のあたりで
0-1 その声は、まるで池に谺したように
「ふー! ようやくここまで、あがってこれたー。
でも、だいぶヤワくなってるな、俺……」
夜明けまであと少しの時間。
俺は、朝も早くからわざわざ電車に乗って足を伸ばし、ここまでちょっとした山登りにやってきた。
ついこのまえ2年目の大学が始まって、しばらくは慌ただしかったんだけど。大型連休も目の前になればもう勝手は知れたもので。すっかり慣れた『日常』を過ごしつつ、気がつけば明日からしばらく大学は休み。
でも、この時期はどこに行っても混雑するから、借りているマンションでのんびり過ごすつもりだったんだ。
とはいえ、これといってすることなんか別にない。ましてや別になにか予定を計画して楽しみだったわけでもないのに、まだ暗いうちから目が覚めてしまえば、こんな時間じゃ雑談で連絡する相手もみつからない。
ワンルームの部屋を見回しても、そこには前に買って半年ほどで挫折した筋トレの道具が落ちているくらいで。さすがにいまさら手に取ろうとも思わなかった。
かといって、いつもみたいに代わり映えもしないインスタやYouTubeを眺めているのも、なんだか気が乗らなかったから。
新しいソシャゲでも探してみるかと、スマホに指を伸ばし。
「ん?」
ちょうど入れてあったニュースアプリが、今日の天気なんかを教えてくれる。
「ふーん、水瓶座の今日の運勢はExcellent! 、『日ごろ行かないところを訪ねてみると、幸運の出会いアリ』か。ラッキーカラーは『赤』ね」
それでなんとなく思い立ってしまった俺は、この時間ならさすがにまだ空いてるだろうしと、そのまま部屋着の上にパーカーをかぶってスマホの電子マネーを頼りに電車を乗り継ぎ、こんな所まで来てしまったんだ。
「全く、なにやってんのかな、俺。
ま、たしかに有名な千本鳥居は見応えあるんだけどさ。
とりあえずこれで、ラッキーカラーはこれでもかってくらいクリア、と。ソレじゃ、次は幸運な出会いってやつがほしいところだな。
せっかくだし、狐が美少女にでも化けて出てきてくれないかな? そしたらそのまま家までお持ち帰りするんだけどなぁ。
それにしても、人っ子一人会わないのは流行っている病気のせいか。全く、数年前からしたら考えられない……」
特に意識もせず手を何度か軽く叩くように擦り合わせ、目の前にある池を見ながらブツブツとつぶやいていたら。
グラグラ……
「わっ、地震!?」
慌ててしゃがみこんで、周りを見渡す。
でも、ソレはすぐにおさまった。
「おお、びっくりした。さすがに予想されてるでっかいやつとかじゃないと思うけど。
ああ、このあたりが震度3で一番大きいのか、マグニチュードもしれてるな」
スマホで地震速報をチェックしていたら……、突然だったんだよ。
「あのぅ……おはようございます!」
「わっ!」
突然ずいぶん大きな声をかけられて、驚いた俺は慌てて振り返ったんだ。
そしたらさ、山の端から太陽の光があたりに広がっていくなか浮かび上がるように、ものすごく可愛い女の子がそこにいた……!
でも、あれ、まてよ?
さっきまで人っ子一人いなかったはずだぞ?
足音だって、聞こえなかったよな。
それなのに、なんで人がいるんだ?
いや、いるからには、いたんだろうけれど。
でも、なんだ、この子?
いやいや、かわいいんだけどさ。明らかに「ヘン」なんだ。
だって、まず髪の毛が紫、だぜ? でも、おばあちゃんとかがよく染めてるような感じじゃなくて、なんだか輝くような綺麗さで。これ、ウィッグってやつ?
それなら、目が紫色なのもカラコンか。だけど、眉毛まで染めてるのは、気合い入ってるな!
服は……革靴に、ゆったり目のパンツに、薄手のニットセーター。上着は着てないみたい、まぁ昼間はもう暑いくらいだもんね。
とか思いながらも、俺の目はたゆんと膨らんだ胸元から離れられない。これ、結構あるね!?
「あの、おはようございます!」
「わ、あ、はい。おはようございます!」
再び挨拶されて、慌てて俺はもう一度彼女の顔を見ながら、今度はきちんと挨拶を返した。
そしたら。
ニコッ! ていう擬音のあとに「☆」が3つくらいついてもおかしくないくらい、最高の笑顔が目の前に!
……かわいいな。
じゃ、なくて!
「何か、御用ですか?」
「ああ、よかった! きちんと言葉、通じますね」
ちょっとだけ安心したように言う彼女。
そうか、最近はずいぶん減ったと聞いていたけれど、まだまだ海外から観光に来る人もいるんだな。
だからか、この娘マスクしてないの!
偏見かもしれないけれど、流れてきたツイートなんかを目にしていた所に目の前に実物までいれば、そんなふうに思ってしまったのだけど。
まあ、俺は、この可愛い笑顔がみられるならいっか、なんて目の前の欲に流されたんだ。
そしたらさ。
「あの、お願いがあるんですけれど」
「えぇ、あー、なんでしょう?」
「帰り道がわからなくなってしまったので、すこし助けてくれませんか?」
「え?」
そう、Excellentな出会いは、本当にあってさ。
そして結局、俺はしばらくの間彼女を助けることになるわけなんだけれども。
まだ自分でも整理できていないんだけど、まあ、なんていうか夢みたいな日々だった。
これは、そんなお話なんだ。
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