第12話

「ホントについてきてたのな」


 桜井との行動中、ずっと怪しげな視線を感じていたので、案の定といったところだが。


「さっきのどういうことですか」


 小鳥遊は俺との会話を無視して問いかけてくる。


 なんだか今日のこいつはご立腹らしい。


「だから言ったろ。絶対に上手くいくって」


 上手くいきすぎて笑えてきた。


「敵に塩送るどころか米俵投げつけてるじゃないですか!」


 脳内で仁が米俵に押し潰されているイメージが浮かぶ。


 思いのほか気分がいい。


「どういう風の吹き回しなんですか…」


 呆れたように小鳥遊は呟く。


 理解不能なのだろう。


 かわいそうな後輩のために、種明かしをしてやることにした。


「どうすればよりよい方向に転がるかを考えてな。こうなるほうがお得だ」


 俺と桜井が付き合う『もしも』の可能性。


 確かに俺にとってはハッピーエンドかもしれないが、それは独りよがりというものである。


「桜井は仁といたほうが収まりがいいんだよ」


 桜井の自己肯定感の低さは少し気になるところである。


 仁ならきっと彼女の助けになるだろう。


「だからって、それじゃ先輩は━━━」


「誰かのハッピーエンドを仕立て上げるのも、意外に悪くないな」


 なかなかに得難い達成感がある。


「どうだ?俺の書いたシナリオは」


 してやったりな顔で小鳥遊に問いかける。


「知りません!先輩なんてずーーーーっとそうやって感傷に浸ってニヤニヤしてればいいんです!」


 小鳥遊はそう叫ぶと、一目散に走り去っていった。


 先輩のアホー!マヌケ―!などと喚いていたが、気狂いとして警察のお世話にならないか心配だった。


「まぁ、しばらくしたら落ち着くだろ」


 小さくなっていく小鳥遊の姿が見えなくなるまで見届けてから、歩き出す。


「ラーメンでも食べるか」


 今日の一杯はさぞかし美味いことだろう。

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