第11話

「こんなんでいいか」


「うん、すごくいいと思う」


 仁に贈るものとして白羽の矢が立ったのは、あいつの好きなゲームキャラがデフォルメされたぬいぐるみであった。


 お手頃価格で非常に助かる。


「今日はホントにありがとな、助かったよ桜井」


 今をときめく女子高生の意見を仰ぐことは非常に大事なのだと知った。


 感謝の意を桜井に伝える。


「ううん、私なんてキミの話からいくつかアドバイスしただけだもん」


 そういって軽く首を横に振る。


 本当に、桜井咲希という人間は謙遜の多い人間である。


 彼女は自分のことを過小評価しすぎている。


 だからきっと。


「じゃあそろそろ帰るか」


 空はすっかり日が暮れ、夕方になっていた。


 もうそんな時間なのかと会計を済ませてから驚いたのだが、それほど彼女との買い物が楽しかったということだろうか。


「そうだね。確か駅のほうまで帰る方向同じだっけ?」


「おう、んじゃ行こう」


 そう言って、歩き出す。


「高尾くん、絶対喜んでくれるよ」


 並び歩く桜井は少しはしゃいでいた。


「なら、お返しも期待しないとな」


 三倍返しくらいで許してやろう。


「ホワイトデーじゃないんだから」


 彼女は苦笑している。


 そんな、ころころと表情が変わる桜井を見て、頭の中で『もしも』の可能性を考えてみた。


 こんなふうに一緒に出かけて、他愛ないことを話して、一緒に笑い合う。


 好きな人と歩く街並みは、それはそれは色鮮やかに見えることだろう。


 でもそれはきっと━━━


「なぁ桜井」


 一通り考えた後、意を決して桜井に話しかける。


「なにかな?」


 桜井は俺の目を見て答えてくれる。


「仁はさ、コロッケみたいなもんだったらなんでも好きだ」


 ぽつぽつと、彼女に向けて話し始める。


「朝は弱いから何をしてでもいい、叩き起こせ」


 あいつは本当に世話が焼ける。


「ゲームはあいつの生命線だ。受け入れてやってくれ」


 もしよければ、一緒に遊んでやればいい。


「嫌味ったらしいが本人に悪気はない。じゃれてるようなもんだ」


 俺に対しては間違いなく悪気しかないだろうが。


 そして最後にこう付け加えた。


「桜井のことは気に入ってるらしい。きっと押せば落ちる」


 きょとんとしている桜井に思い切り笑ってやる。


 見ると、少し赤面していた


「もしかして、バレてた?」


 もしかしてバレていないとでも思っていたのだろうか。


「令和のホームズと呼んでくれ」


 生意気でうるさいワトソンしかいないが。


 そんなことを話していると、もう駅についていた。


「私、頑張るね」


 桜井の目は、自信に満ち溢れていた。


「おう、もしあいつが振ってきたならぶん殴って改心させてやろう」


 こんな美人を悲しませるようなことがあれば許されないだろう。


 ひとしきり笑い合った後、桜井は駅のホームへと消えていった。


 さて、俺も帰ろうかと思った矢先。




「先輩」




 なんだか前もこんな感じで呼び止められた気がする。


「よぉ小鳥遊」


 振り返ると、小鳥遊星羅がそこにいた。

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